2018年04月20日

インフレ加速の足音-物価指標はインフレ加速を示唆。今後も賃金上昇、GDPギャップ解消からインフレは加速しよう

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.はじめに

消費者物価指数(CPI)をはじめ、最近発表された主要な物価指標は、昨年夏場に物価が底打ちしたほか、足元で物価上昇が加速している可能性を示唆している(前掲図表1)。

これまでは景気や労働市場の回復長期化にも係わらず物価上昇は抑制されてきた。これは、原油・商品価格が大幅に下落したことや、労働市場の緩みから賃金上昇が緩やかであったことなどが考えられる。しかしながら、原油・商品価格が上昇に転じ、物価を押上げる方向に転換したほか、労働市場の緩み解消に伴い漸く賃金上昇率に加速がみられているため、物価が上昇し易い環境が醸成されてきたと言える。

本稿では、主要な物価指標の動向について確認するほか、今後の物価見通しについて論じている。結論から先に言えば、当研究所では原油価格は今後概ね横這いとなるものの、労働市場の回復持続を背景に賃金上昇が持続することに加え、GDPギャップの解消からインフレ率は加速を見込んでいる。現状で当研究所は、CPI(前年比)が18年に+2.4%、19年に+2.3%と、17年の+2.1%から加速すると予想している。一方、トランプ政権による輸入関税を賦課する動きが強まることには注意が必要だが、現段階では国内物価への影響は限定的と判断している。
 

2.主要物価指標の動向

2.主要物価指標の動向

(CPI、PCE価格指数):17年夏場以降上昇基調が持続、足元は物価上昇が顕著に加速
CPI(前年同月比)は、エネルギー価格の物価押下げ幅が縮小したことに伴い、15年4月以降増加基調が持続していたものの、17年2月の+2.7%から17年6月の+1.6%まで反落した(図表2)。エネルギー価格の物価押上げ幅が縮小したほか、17年2月に実施された携帯電話料金プランの変更に伴い17年3月から携帯電話料金がCPIを0.2%ポイント程度押下げたことが大きい。しかしながら、その後エネルギー価格の押上げ幅が再び拡大したほか、18年3月には携帯電話料金引き下げの特殊要因が解消したことから、18年3月には+2.4%に上昇した。

また、食料品とエネルギーを除くコアCPIも17年8月の+1.7%を底に、18年3月には+2.1%まで上昇した。
(図表2)消費者物価の推移(寄与度)/(図表3)PCE価格指数の推移(寄与度)
一方、FRBが物価目標としているPCE価格指数(前年同月比)も、総合指数が17年8月の+1.4%を底に反発し、直近18年2月は+1.8%まで上昇した(図表3)。また、コアPCEも17年8月に+1.3%をつけた後、2月に+1.6%まで上昇した。もっとも、PCE価格指数は総合指数、コア指数ともに、FRBが物価目標とする2%の水準は依然として下回っている。
(図表4)原油先物および商品先物指数 このように、CPIやPCEの総合指数が14年後半から15年前半にみられた大幅な落ち込みから回復している要因としては、原油価格や商品価格が上昇に転じたことが大きい。実際、14年後半から物価を大幅に押下げていたエネルギー価格は、原油価格が16年初の20ドル台後半を底に反発し、足元では中東情勢の悪化などもあって60ドル台後半で推移している(図表4)。

さらに、エネルギー以外の商品も含み、より広範な商品価格の動きを示すブルームバーグ商品価格指数は、原油価格に比べて足元の上昇は鈍いものの、16年初を底に反発して水準が切り上がっていることが分かる。
(図表5)コアCPIおよびコアPCE指数 一方、物価の基調を示すコア指数は、前年同月比では、緩やかな上昇に留まってみえるものの、足元で上昇モメンタムは強くなっている。

コアCPIとコアPCEの季節調整済み3ヵ月移動平均、3ヵ月前比をみると、3月のコアCPIが年率+3.0%と06年8月以来の高さとなったほか、2月のコアPCEも年率+2.3%と12年3月以来の水準となり、前年同月比でみられる以上に上昇圧力が高まっていることを示している(図表5)。
(生産者物価、輸入物価):15年後半以降、上昇基調が持続
国内製造業業者の財・サービスの販売価格を示す生産者物価のうち、最終需要先に対する販売価格を示す最終需要価格(前年同月比)は、15年10月の▲1.4%を底に上昇基調が持続しており、18年3月は+3.0%と12年1月以来の水準に上昇した(図表6)。
(図表6)生産者物価指数(最終需要) これを財・サービスに分けてみると、サービスが+2.9%と09年の統計開始以来最高となっており、サービスの堅調ぶりが目立っているほか、財も+3.2%と17年11月の+4.2%からはやや頭打ちがみられるものの、15年から16年にみられたような最終需要価格を大幅に押下げるような状況ではないことが分かる。

一方、輸入物価(前年同月比)は、18年3月が+3.6%と17年4月以来の水準となったほか、17年11月から概ね5ヵ月連続で3%台半ばの水準で推移している(図表7)。
(図表7)輸入物価および実効為替レート(前年同月比) また、燃料輸入を除いた輸入価格は、3月に+2.1%と12年2月以来の水準となった。

一方、輸入物価に大きな影響を与える為替相場をみると、米ドル実効為替レート(前年同月比)が、15年9月に+16.0%のピークをつけた後、17年8月以降は下落に転じており、18年3月に▲5.8%の下落率になるなど、輸入物価を押上げる方向となっていることが分かる。

なお、輸入物価指数は輸入に掛かる運賃や、保険料、輸入関税および通関手数料などを除くFOBベースで計測されている。このため、輸入関税の引き上げは輸入物価の上昇を通じて国内物価を引き上げるものの、輸入物価指数からその影響を直接評価することは出来ない。
(図表8)期待インフレ率(5年後予想) (期待インフレ率):金融市場はインフレ加速を予想も、家計、専門家調査は安定
市場で取引される5年物の物価連動債を元に試算される金融市場が織り込む期待インフレ率(BEI)は、17年8月以降上昇基調となっており、18年4月は前年比+2.0%と13年4月以来の水準に上昇した(図表8)。

一方、フィラデルフィア連銀による専門家調査(SPF)では、5年後のPCE価格指数が18年1-3月期調査で前年比+2.0%と、こちらは17年以降、概ね+2.0%近辺で安定している。

最後にミシガン大学による家計調査では、今後5年間のCPI上昇率(前年比)が、18年3月に+2.5%と、17年6月以降概ね+2.5%近辺で安定していることを示している。もっとも、家計調査は金融市場や専門家調査とは対照的に13年2月の+3.0%から期待インフレ率は低下している。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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