2018年03月06日

大阪オフィス市場の現況と見通し(2018年)

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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1. はじめに

大阪ではオフィス需給の改善が続き、賃料上昇の勢いが増している。2017年に竣工した大規模ビルはほぼ満床で竣工し、今後の新規供給計画も少ないことから、需給の引き締まりは当面継続すると予想される。本稿では、大阪のオフィス市況を概観した上で、2024年までの賃料予測を行う1
 
 
1 過去の大阪オフィス市況の見通しに関するレポートとしては、竹内一雅「活況が続く大阪のオフィス市場-大規模ビルを中心に好調は梅田地区以外へ波及」(2017.10.23)、竹内一雅「大阪オフィス市場の現況と見通し(2017年)」(2017.2.24)などを参照のこと。
 

2. 大阪オフィス市場の空室率・賃料動向

2. 大阪オフィス市場の空室率・賃料動向

大阪のオフィス市場は堅調な需要拡大が続いており、大規模ビルなどではまとまった空室を確保するのが困難な状況となっている。三幸エステートによると、2017年12月の空室率は4.67%と、前年の6.24%から大幅に改善した(図表-1)。

成約賃料(オフィスレント・インデックス)も、空室率の改善を背景に上昇している。2017年下期の成約賃料は前期比+9.1%、前年同期比+13.0%の上昇となった。リーマンショック後の底値(2012年下期)からの上昇率は63.0%となり、ファンドバブル期(2006年~2008年頃)のピークの水準まで回復している(図表-2)。
図表-1 主要都市のオフィス空室率/図表-2 主要都市のオフィス成約賃料(オフィスレント・インデックス)
2017年の空室率と成約賃料の変化を主要都市で比較すると、大阪の好調さが際立っている。空室率の改善幅は福岡に次いて高く、賃料は大阪のみが二桁の上昇となった(図表-3)。

今回の賃料サイクル2は、2012年後半を起点に賃料上昇が始まった。しかし、2013年の大量供給により需給バランスが悪化し、当初は賃料上昇の勢いに欠いた。その後は、オフィスビルの新規供給が低水準にとどまる中、次第に需給が改善し、2016年以降は空室率の低下が顕著となった。伸び悩んでいた賃料も、2017年から力強い上昇を示している(図表-4)。
図表-3 2017年の主要都市のオフィス市況変化/図表-4 大阪オフィス市場の賃料サイクル
オフィスビルの空室率は全ての規模3で低下傾向が続いている。このうち、大規模ビルは空室率の低下が相対的に遅れていたが、2017年以降は急速に改善し、2017年12月時点では全て規模の空室率がファンドバブル期を下回っている(図表-5)。

三鬼商事によると、2017年末の大阪ビジネス地区4の空室面積は8.1万坪(前年比▲3.4万坪)まで減少し、ファンドバブル期のボトムである9.4万坪(2007年末)を下回っている(図表-6)。
図表-5 大阪オフィスの規模別空室率/図表-6 大阪ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
 
2 賃料サイクルは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図上を、その進展とともに時計回りに動く。賃料サイクルの起点を、賃料下落から上昇に転じる局面とすると、賃料サイクルは、通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、という動きになる。
3 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
4 三鬼商事の定義による。大阪の主要6地区(梅田、南森町、淀屋橋・本町、船場、心斎橋・難波、新大阪地区)からなり、空室率等の調査対象はこの地区に立地する延床面積1千坪以上の主要賃貸事務所ビル。
 

3. 大阪オフィス市場の需給動向

3. 大阪オフィス市場の需給動向

三鬼商事のデータによると、大阪ビジネス地区では賃貸可能面積の増加は抑制されている。その要因として、2014年以降は新規供給が限られる中、オフィスビルの滅失が拡大してきたことが挙げられる。一方、賃貸面積は7年連続で増加し、2015年からは3年連続で約4万坪の増加となった。2011年以降の7年間で賃貸面積は24.6万坪増加し、ファンドバブル期を含む2003年~2007年の5年間の増加(19.3万坪)を上回る。月次で見ても、賃貸面積は着実に増加している。特定の大規模需要に依存しているわけではなく、大阪のオフィス需要の底堅さが窺える(図表-7)。
図表-7 大阪ビジネス地区の賃貸オフィスの需給面積増加分
大阪の過去5年間の新規供給面積は7.3%(ストック対比)となった。主要都市と比較すると、東京都心5区(12.4%)、名古屋(12.2%)、大阪(7.3%)、札幌(3.9%)、福岡(2.9%)、仙台(1.6%)の順に新規供給が多かった(図表-8)。この供給量と成約賃料の関係を見ると、新規供給面積が小さい都市ほど賃料上昇率が高かったことがわかる5(図表-9)。
図表-8 主要都市の大規模ビルの新規供給面積(2013年~2017年合計・2012年ストック対比)/図表-9 主要都市の新規供給面積と成約賃料上昇率(2013年~2017年)
 
5 仙台は新規供給が少ないにもかかわらず、2013年以降の賃料上昇が限定的である(+1.8%)。これは主要都市と比較して空室率の水準が高いことなどから、新規供給の少なさが材料視されにくかったと考えられる。
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

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