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負のタームスプレッドで取引される中期国債

金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任 福本 勇樹
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1――負のタームスプレッドで取引される中期国債
2――日本の国債市場における機関投資家と日本銀行の動向
一方で、日本国債の保有額を増加させたのが海外投資家である。海外投資家の日本国債の保有額は2013年3月と2017年9月で比較すると約67%の増加となっている。さらに、マイナス金利政策後に一部の日本国債利回りがマイナスになってからも海外投資家は日本国債の購入を継続している。
日本国債の利回りがマイナスであったとしても、海外投資家が購入するインセンティブをもつ理由として、しばしば指摘されるのが為替変動リスクのヘッジにかかるコスト(ヘッジコスト)のからくりである。現在は、国内投資家が米ドル建ての金融商品に投資して、米ドル/円の為替変動リスクをヘッジすると、ヘッジコストがかかるため利回りが低下する1。それとは対照的に、米ドルを保有する投資家が円建ての金融商品に投資して、米ドル/円の為替変動リスクをヘッジすると、ヘッジコストの分だけ利回りをさらに高めることが出来る2。
日本国債(2年)を為替先物(3ヶ月)でヘッジしたときの米ドル建て日本国債(2年)利回りと米国債利回り(2年)を比較したのが図表4である。日本国債(2年)を為替先物でヘッジすることで、米ドル建て日本国債利回り(2年)がプラスになり、かつ米国債利回り(2年)よりも高い水準にある時期があることが分かる。量的・質的金融緩和導入後は、米国債利回り(2年)の方が高い時期が継続している一方で、マイナス金利政策導入後は米ドル建て日本国債利回り(2年)の方が利回りは高くなっている。よって、特にマイナス金利政策導入以後は、海外投資家にとって日本の中期国債に投資するインセンティブがさらに強まったと言える3。その結果として、日本の国債市場における需給がタイト化したことで、中期国債の利回りにおいて負のタームスプレッドの状況を生んだものと考えられる。
しかし、長短金利操作付き量的・質的金融緩和導入後から、米ドル日本国債利回り(2年)と米国債利回り(2年)の差は縮小傾向にあり、さらに2018年に入ってからは逆転している。海外投資家から見て、日本の中期国債を購入するインセンティブは低下しており、海外投資家による中期国債の利回りへの低下圧力は今後弱まっていく可能性がある。
1 ヘッジコストに関する分析については、「通貨スワップ市場の変動要因について考える-通貨スワップの市場環境が与えるヘッジコストへの影響」(ニッセイ基礎研究所、2016/10/19)などを参照されたい。
2 海外投資家にとって利回りがマイナスの日本国債を購入するインセンティブを持つ理由については、「通貨スワップ市場がもたらす外貨投資インセンティブの非対称性」(ニッセイ基礎研究所、2015/02/24)などを参照されたい。
3 米国では2014年の後半に金融緩和政策の縮小(QE3終了)に舵を切っており、米国金利上昇の観測もあって、日本において当分の間金融政策を継続される可能性が高い等の理由から、マイナス金利政策導入以前からも海外投資家によって米ドル建て日本国債への投資が行われていたものと推測される。
(2018年02月26日「基礎研レポート」)

03-3512-1848
- 【職歴】
2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
2021年7月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)
【著書】
成城大学経済研究所 研究報告No.88
『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
出版社:成城大学経済研究所
発行年月:2020年02月
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