2018年02月15日

資本コストから見たPBR効果3~資本コストを用いた短期予想~

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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4――資本コストでPBR効果は予想できるのか?

低PBR銘柄の割安感を測るには、PBRのように業績動向に左右されることのない指標、言い換えるとPBRから業績動向を控除した指標を用いることが良いと考えています。その候補の一つとして、資本コストを挙げたいと思います。資本コストは元々、リスクに対する投資家が要求するリターンですので、企業業績自体にはあまり左右されません。本章では、「資本コストでPBR効果の動向は予想できるのか」を検証していきます。

資本コストは(式2)から推計します。具体的には、(式3)のように予想ROEを被説明変数、PBRを説明変数としたクロスセクションの回帰分析を、低PBR銘柄と高PBR銘柄それぞれで毎月行います。予想ROEには、東洋経済の今期来期予想を加重した筆者作成の12カ月先予想純利益を使用しています。
予想ROEを被説明変数、PBRを説明変数としたクロスセクションの回帰分析
なお、サンプルに異常値がある場合に切片や回帰係数は異常値の影響を大きく受けるため、異常値処理を行っています。予想ROE、PBR共に「平均値±3・標準偏差」から外れる銘柄は回帰分析のサンプルから除外しました。

推計式(式3)では、ROEの改善に伴い、PBRが上昇しても回帰係数への影響は無いことが分かります。推計する資本コストrは、回帰分析の切片gと回帰係数β(=r-g)の和になるため、切片を通じてROEの改善などの影響を多少は受けるかもしれません。それでも、PBRよりは企業業績の影響を控除できているものと思われます。

実際に推計した資本コストの推移をみると、高PBR銘柄(赤線)が低PBR銘柄(青線)と比べて資本コストが、概ね高くなっていました(【図表3】右上)。低PBR銘柄と比べて高PBR銘柄の方が高リスクのため、リスクが高い分、基本的に資本コストも高くなります(【図表3】右下)。
【図表3】 資本コストと成長率の推計結果 と 資本コストのイメージ
ただ、3回ほど低PBR銘柄と高PBR銘柄で資本コストの水準が同じ、もしくは逆転している期間がありました。低PBR銘柄と高PBR銘柄の資本コストの差が0%付近、もしくはプラスとなっている2011年10月頃、2012年9月頃、2016年2月-6月です(【図表4】)。そのような時期は、低PBR銘柄の割安感が特に強かったといえます。

この3期間全てで、その後にPBR効果と共に資本コストの差が拡大しています(【図表4】矢印)。つまり、業績動向に伴う見せ掛けの割安感ではなく、低PBR銘柄の本質的な企業価値に対して株価が割安であったため、その後にバリュエーション調整が起きたものと推察することが出来ます。

このことから、低PBR銘柄と高PBR銘柄の資本コストの差がないもしくはプラスであるならば、低PBR銘柄の割安感が強く、その後にバリュエーション調整が起こる可能性が高いことが分かりました。分析期間では、資本コストの差を用いればバリュエーション調整に起因したPBR効果を予想できた可能性が高いといえるでしょう。

なお、資本コストの差は相対PBRのような明確なトレンドをもっていませんでした。相対PBRが上昇傾向にあるのは、低PBR銘柄の割安感が強まり続けているのではなく、業績動向の影響であると推察されます。
【図表4】 推計した低PBR銘柄と高PBR銘柄の資本コストの差の推移

5――最後に

5――最後に

相対PBRと資本コストについて検証してきましたが、低PBR銘柄と高PBR銘柄の資本コストの差は、PBR効果の動向を占う上で有益な指標であるといえるでしょう。
 
現在、相対PBRは高水準にありますが(【図表2】右)、資本コストからだと低PBR銘柄は割安感に乏しい水準にあるといえそうです(【図表4】赤点線)。そのため、バリュエーション調整は起こりにくい状況、もしくはバリュエーション調整が起きても短期かつ小規模になると考えたほうがよさそうです。低PBR銘柄や高PBR銘柄の業績見通しが大きく変らない限り、PBR効果を期待できない状況がしばらくは続くのではないでしょうか。
 
 

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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

(2018年02月15日「基礎研レポート」)

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