2018年02月15日

資本コストから見たPBR効果3~資本コストを用いた短期予想~

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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1――はじめに

日本の株式市場では、低PBR銘柄への投資は高PBR銘柄へ投資するよりも、高い収益が得られる傾向があります(本稿では、この傾向を「PBR効果」と呼びます)。ただ近年、PBR効果があまり見られなくなっていました。

資本コストから見たPBR効果の「その1」1では、アベノミクス相場が始まった2012年以降に絞って検証し、PBR効果が2016年に見られた要因を整理しました。次に「その2」2では、PBR効果がリーマン・ショック以降あまり見られなくなっている要因について確認しました。「その2」の結果から、安定したPBR効果は当面、期待できないことが示唆されました。ただ、PBR効果が不安定でもPBR効果の動向を正確に予想できれば、高い収益を上げられる可能性があります。

そこで「その3」となる本稿では、一般的にPBR効果の予想に用いられる相対PBRの問題点を整理した上で、「資本コストでPBR効果の動向を予想できるか」について検証したいと思います。  

2――不安定なPBR効果

2――不安定なPBR効果

はじめに、PBR効果の動向について確認します【図表1】。本稿では、分析期間をリーマン・ショックの混乱が収まった2010年4月以降とします。また、分析対象を東証33業種の金融、不動産セクター(銀行、証券、商品先物取引、保険、その他金融、不動産)の銘柄、予想純利益が赤字の銘柄、債務超過に陥っている銘柄を除いたTOPIX500採用銘柄、約420銘柄とします。「その1」と「その2」では6月からの年次で分析していましたが、今回はあくまでも3カ月から半年程度の短期的な予想を考えているため、月次で分析します。毎月初時点で分析対象銘柄の中でPBRが中央値以下の約210銘柄を低PBR銘柄、それ以外の約210銘柄を高PBR銘柄として議論をしていきます。
【図表1】 低PBR銘柄と高PBR銘柄の累計リターン(左)と その差(右)の推移
累計リターンの差の推移をみると、方向感に乏しく変動しており、分析期間では低PBR銘柄と高PBR銘柄とでリターンに有意な差が無かったといえるでしょう(【図表1】右)。

ただ、低PBR銘柄が高PBR銘柄に比べて高パフォーマンスであった、つまりPBR効果が明確にみられた期間があったことも分かります(【図表1】赤マーカー期間)。「2010年9月-12月」、「2011年12月-翌年2月」、「2012年9月-12月」、「2013年5月-12月」、「2015年4月-5月」、「2016年7月-翌年2月」などです。特に「2012年9月-12月」と「2016年7月-翌年2月」は、それぞれ累計で9%、21%も低PBR銘柄と高PBR銘柄のリターンに差がついていました。この2期間のように顕著にPBR効果があらわれる時期を予想できれば、PBR効果が不安定な中でも高いリターンを上げることが可能です。

以前のようにPBR効果が安定して顕在化していたならば、低PBR銘柄に投資し続ければ市場全体を上回る収益を上げられました。そのため、あえてPBR効果の動向を予想して、低PBR銘柄に投資するタイミングを計る必要も無かったかも知れません。しかし、PBR効果が不安定な状況で高収益を上げるには、低PBR銘柄に投資するタイミングが重要になります。
 

3――相対PBRで予想できるのか?

3――相対PBRで予想できるのか?

PBR効果があらわれる主な要因の一つは、バリュエーションの調整でした(詳しくは「その2」をご参照ください)。バリュエーションの調整は、高PBR銘柄に対する低PBR銘柄の割安感が強まっているときに、起こりやすいと考えられます。ゆえに、低PBR銘柄の相対的な割安感を把握することが、PBR効果の動向を予想する上で必要になります。

低PBR銘柄の相対的な割安感を測るのに、相対PBRを用いるのが一般的です。相対PBRとは、高PBR銘柄のPBRを低PBR銘柄のPBRで割った指標です。高PBR銘柄の株価が、低PBR銘柄の株価と比べてどれくらい評価されているかを意味します。値が大きいほど低PBR銘柄の割安感が強まっていると考えられます。ただ、本当に相対PBRのようなPBRの水準に着目した指標でPBR効果は予想できるのでしょうか。

筆者は、相対PBRのような低PBR銘柄と高PBR銘柄のPBRの単純な比較では、PBR効果の動向は予想できないと考えています。それは、PBR自体が企業業績にも左右されるためです。

残余利益モデル:
残余利益モデル
から求まる予想ROEとPBRの関係式
予想ROEとPBRの関係式
から、PBRの変動要因について整理したいと思います。なお、(式1)ならびに(式2)の詳しい導出過程などは「その1」文末の<ご参考>をご参照ください。

(式2)からPBRの変化は以下のように、3つの要因に分けることができます。
PBRの変化3つの要因
上式右辺の第一項の予想ROEの変化と第二項の成長率の変化は、企業業績の変化に伴うPBRの変化とみなせます。ROEが改善、もしくは成長期待が高まったことからPBRの水準がきり上がっても、割高感が増したとはいえないでしょう。つまり、企業業績に変化がないにもかかわらずPBRが変動した場合に、第三項の資本コストが変化しているため、割安感もしくは割高感が強まっている可能性があるといえます。業績の動向を勘案せずに、単純にPBRの水準から割安、割高を判断することは出来ないのです。

相対PBRの実際の推移をみると、上昇傾向にあることが分かります(【図表2】右)。この上昇傾向が、低PBRの割安感が強まったためなのか、業績の影響なのか、それともその両方なのかが、相対PBRからでは分からないのです。
【図表2】 低PBR銘柄と高PBR銘柄のPBR(左)と相対PBR(右)の推移
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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

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