- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 欧州経済 >
- 本協議に入るドイツの大連立-政治空白解消でも政治不信、東西分断懸念は残る
2018年01月22日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
東西の分断を深めるおそれも
17年の連邦議会選挙では、二大政党への批判票の受け皿となったのがAfDだった。特に、旧東ドイツの5つの州(メクレングルク=フォアポンメルン州、ブランデンブルク州、ザクセン=アンハルト州、ザクセン州、テューリンゲン州)では、中道右派のCDUよりも右に位置するAfDの得票率が軒並み20%前後に達し、最も高いザクセン州では27%と全国平均(12.6%)を大きく上回った。かつて東西を隔てる壁があったベルリンとこれらの5州では、中道左派のSPDの左に位置する左翼党の得票率も高いため、CDUとSPDの得票率を合わせても50%に届いていない(図表3)。
メルケル政権は、経済・雇用面では成果を収めてきたし、足もとの経済環境も本来は政権に追い風のはずだ。ドイツの地域毎の労働者一人当たり所得を見ると(図表4)、東西の所得格差がなお残存していることがわかるが、方向としては是正されている。旧東ドイツの州でもブランデンブルク州やザクセン=アンハルト州などに所得水準が旧西ドイツ地域と同じレベルに達している地域もある。それでも、旧東ドイツ地域における二大政党離れとAfDあるいは左翼党への支持の広がりが示すように、ドイツの政治の分断は深まっている。
広くEUを見渡しても、景気の回復と共にユーロ圏内の南北の分断が緩和しつつある一方で、価値観を巡る東西の分断が表面化している。昨年12月には欧州委員会が、司法制度改革を進めるポーランドをEUの基本的価値観違反国に議決権の一時停止などの制裁を課す「7条手続き」(注5)の発動を加盟国に求める新たな動きがあった。
ドイツの連邦議会選挙は、EU圏内の東西の分断線がドイツにあることが浮き彫りにした。旧東ドイツの5つの州とベルリンの意向に沿わない3度目の大連立は、ドイツ国内の政治不信ばかりでなく、東西の分断を一層深めるおそれがある。
(注5)EUの基本的条約第2条が規定する、人の尊厳、自由、民主主義、平等、法の支配、人権の尊重というEUの基本的価値観への違反が認められる国への制裁に関するEU条約第7条の手続き。制裁措置に進むには、首脳会議の全会一致が必要なため、ハンガリーが拒否権を行使し、発動には至らないと見られている。
メルケル政権は、経済・雇用面では成果を収めてきたし、足もとの経済環境も本来は政権に追い風のはずだ。ドイツの地域毎の労働者一人当たり所得を見ると(図表4)、東西の所得格差がなお残存していることがわかるが、方向としては是正されている。旧東ドイツの州でもブランデンブルク州やザクセン=アンハルト州などに所得水準が旧西ドイツ地域と同じレベルに達している地域もある。それでも、旧東ドイツ地域における二大政党離れとAfDあるいは左翼党への支持の広がりが示すように、ドイツの政治の分断は深まっている。
広くEUを見渡しても、景気の回復と共にユーロ圏内の南北の分断が緩和しつつある一方で、価値観を巡る東西の分断が表面化している。昨年12月には欧州委員会が、司法制度改革を進めるポーランドをEUの基本的価値観違反国に議決権の一時停止などの制裁を課す「7条手続き」(注5)の発動を加盟国に求める新たな動きがあった。
ドイツの連邦議会選挙は、EU圏内の東西の分断線がドイツにあることが浮き彫りにした。旧東ドイツの5つの州とベルリンの意向に沿わない3度目の大連立は、ドイツ国内の政治不信ばかりでなく、東西の分断を一層深めるおそれがある。
(注5)EUの基本的条約第2条が規定する、人の尊厳、自由、民主主義、平等、法の支配、人権の尊重というEUの基本的価値観への違反が認められる国への制裁に関するEU条約第7条の手続き。制裁措置に進むには、首脳会議の全会一致が必要なため、ハンガリーが拒否権を行使し、発動には至らないと見られている。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2018年01月22日「Weekly エコノミスト・レター」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1832
経歴
- ・ 1987年 日本興業銀行入行
・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
・ 2023年7月から現職
・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
・ 2017年度~ 日本EU学会理事
・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
「欧州政策パネル」メンバー
・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員
伊藤 さゆりのレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/18 | トランプ関税へのアプローチ-日EUの相違点・共通点 | 伊藤 さゆり | Weekly エコノミスト・レター |
2025/03/28 | トランプ2.0でEUは変わるか? | 伊藤 さゆり | 研究員の眼 |
2025/03/17 | 欧州経済見通し-緩慢な回復、取り巻く不確実性は大きい | 伊藤 さゆり | Weekly エコノミスト・レター |
2025/03/07 | 始動したトランプ2.0とEU-浮き彫りになった価値共同体の亀裂 | 伊藤 さゆり | 基礎研マンスリー |
新着記事
-
2025年05月01日
ユーロ圏GDP(2025年1-3月期)-前期比0.4%に加速 -
2025年04月30日
2025年1-3月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.9%)を予測~ -
2025年04月30日
「スター・ウォーズ」ファン同士をつなぐ“SWAG”とは-今日もまたエンタメの話でも。(第5話) -
2025年04月30日
米中摩擦に対し、持久戦に備える中国-トランプ関税の打撃に耐えるため、多方面にわたり対策を強化 -
2025年04月30日
米国個人年金販売額は2024年も過去最高を更新-トランプ関税政策で今後の動向は不透明に-
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【本協議に入るドイツの大連立-政治空白解消でも政治不信、東西分断懸念は残る】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
本協議に入るドイツの大連立-政治空白解消でも政治不信、東西分断懸念は残るのレポート Topへ