2017年12月11日

欧州経済見通し-拡大続くユーロ圏/低成長、高インフレの英国-

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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■要旨
  1. 2017年のユーロ圏の実質GDPは前年比2.3%と世界金融危機以降で最も高い成長となる。
     
  2. 2018年の実質GDPは前年比2.1%と見込む。引き続き個人消費と投資を両輪に1%台前半~半ばと見られる潜在成長率を上回るペースを維持する。GDPギャップは解消し、失業の解消もさらに進む。しかし、賃金の伸びは加速しないため、18年年間のインフレ率は1.5%とECBの目標圏内に届かない。
     
  3. ECBは、18年初から国債等の資産買い入れを月300億ユーロに削減して9月末まで、10月以降はさらに半減して年末まで継続しよう。中銀預金金利のマイナス幅縮小は19年入り後に開始、19年末に現在ゼロの市場介入金利の引き上げに着手しよう。
     
  4. 世界経済の悪化や金融市場の混乱、急激な通貨高、金利上昇がユーロ圏経済の下振れリスクである。ユーロ圏が世界の「適温相場」崩壊の震源地となることはないだろう。
     
  5. 英国の経済は成長鈍化とインフレに直面しており、18年も基調に変化はないだろう。EUとの協議が、離脱後の関係の協議に進むにあたり、英国政府は単一市場と関税同盟に残る2年間の移行期間を経て、金融サービスも含むFTAに基づく関係への移行を要請する。その実現はEUの条件にどこまで譲歩できるかによる。支持率で保守党を上回る野党・労働党はソフトな離脱を示唆し始めた。英国の情勢は、政治面も含めて、流動的だ。
ユーロ圏経済見通し/ 英国経済見通し 
■目次

1.景気拡大続くユーロ圏
  ・17年のユーロ圏実質GDPは2.3%。年初の予想を大きく上回るペースで拡大
  ・18年も消費と投資を両輪に2.1%成長。インフレ率はECBの目標圏に届かず
  ・ECBは緩和縮小を探る。18年も基本は著しく緩和的な金融環境を維持
  ・政治的不確実性の景気への影響は限定的。
   外部環境悪化、急激な通貨高、金利上昇がリスク
2.低成長、高インフレの英国
  ・急失速回避も成長鈍化と低インフレに直面
  ・ポンド安には歯止めもインフレ圧力は残る
  ・BOEは11月に10年振りの利上げを決定。CCyBも引き上げへ
  ・18年も成長鈍化と高インフレの基調続く。
   通商協議へ前進も、依然、離脱の道筋は不透明
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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴
  • ・ 1987年 日本興業銀行入行
    ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
    ・ 2023年7月から現職

    ・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
    ・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
    ・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
    ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
    ・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
    ・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
               「欧州政策パネル」メンバー
    ・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
    ・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
    ・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

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