2017年12月27日

英国のEU離脱協議、第二段階へ-英国・EUのスタンスの違いと英国内の分断

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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■要旨

英国の欧州連合(EU)離脱協議は18年初から第二段階に進む。第二段階は移行期間の協議から始まり、将来の関係の協議開始は3月以降となる。時間との戦いの様相を呈してきたが、英国のスタンスには曖昧な面がある上に、EUのスタンスとの隔たりもあり、この先も難路が予想される。

移行期間について、英国は、およそ2年間の単一市場、関税同盟の残留を要望しており、EUは2020年末までの期間限定で応じるスタンスだ。協議は、離脱によって加盟国としての権利を喪失する英国が、EUが求める義務を受け入れることができるかが焦点となる。

将来の関係について、英国は、EUがカナダと締結したレベルが高く、義務を伴わないFTAに金融サービス分野での特別な協定が加わったものを理想とする。だが、EUはカナダ型のFTA締結は可能だが、金融サービス分野のみの単一市場残留は認めないスタンスだ。

第一段階の協議では、与党・保守党内での強硬派と穏健派との対立で英国側の交渉スタンスが定まらなかったことで、EU側が想定したよりも、時間を要する結果となった。英国内では国民投票後の離脱派と残留派の分断が続いている。メディアによってEU離脱関連の報道のトーンは違う。離脱対応を迫られる経済界は危機意識が強いが、世論の分断は解消する気配はない。

第二段階の交渉でも、英国政府が、強硬派の主権回復への期待と、経済界や穏健派が抱く経済的な打撃への懸念の双方に配慮を求められる状況は変わらず、交渉姿勢は曖昧になりがちだ。

英国、EUともに安易な妥協は出来ないだけに、第二段階の協議もぎりぎりの決着とならざるを得ない。だが、EU側も、英国の政治が混迷を深めて、無秩序な離脱に発展する結果は望んでいない。第一段階の協議の最終局面では柔軟性も発揮した。第二段階の協議でも最終的には現実的な解決策を見出すだろう。

■目次

1――はじめに
2――第二段階の協議への英国・EUのスタンス
  1|移行期間
  2|将来の関係
3――英国内の分断
  1|メディア
  2|経済界
  3|世論
4――おわりに
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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴
  • ・ 1987年 日本興業銀行入行
    ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
    ・ 2023年7月から現職

    ・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
    ・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
    ・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
    ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
    ・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
    ・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
               「欧州政策パネル」メンバー
    ・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
    ・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
    ・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

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