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- 日本におけるテレワークの現状や課題-長時間労働の改善のための考察-その2-
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3――テレワークの拡大のために
テレワークは企業にとって、オフィスコストの削減、生産性の向上、人材の確保などの効果があると言われている。また、労働者にとっては、業務効率の向上、自由に使える時間の増加、通勤時間・移動時間の短縮というプラスの効果がある。しかしながら、「平成28年度 テレワーク人口実態調査」によると、テレワークを実施したことにより「仕事時間(残業時間)が増えた」(46.5%)、「業務の効率が下がった」(28.6%)、「職場に出勤している人に気兼ねした」(15.9%)というマイナス効果もあることが確認された。確かに、会社以外の場所で働くと、最初は自己管理が難しく、会社で働くより効率が下がるかも知れない。従って、働く時間とプライベートの時間を明確に分けて勤務する心構えとそのための環境を整備することが大事である。また、より多くの企業や労働者がテレワークの意義やメリットが理解できるように積極的な広報活動を取り組む必要もある。
総務省が2017年に発表した「ICT利活用と社会的課題解決に関する調査研究」によると、テレワークの導入率は、従業員数301人以上の企業が20.4%であることに比べて、20人以下の企業は3.1%で、従業員規模が大きい企業ほど、テレワークの導入率が高いという結果が出た。テレワークを実施するためには、情報通信技術の導入や労務管理の整備などが必要だが、中小企業の多くは、 資金や人材などに制約があるのが事実である。従って、今後テレワークをより普及させるためには中小企業に対する支援策をより講じる必要があると思われる。
また、テレワークを導入していない最も大きな理由として「テレワークに適した仕事がないから」が挙げられているが、実はテレワークは事務職、営業職、管理職など幅広い層のデスクワークに適用することが可能である。生産現場や、顔を合わせて仕事をする必要のある業務の場合はテレワークを実施することが難しいかも知れないが、業務やコミュニケーションの見える化、業務のペーパーレス化、分業化を推進するなど、仕事のやり方を改善していけば、テレワークでできる仕事はたくさん見つかると思う。
今後の労働力不足を解決するためには、女性や高齢者、そして外国人などより多様な人材が労働市場で活躍する必要があり、そのためにはテレワークの普及等によりワーク・ライフ・バランスが実現できる労働市場を構築することが大事である。つまり、今まで労働市場に参加していなかった人が労働市場に参加できる環境と育児や介護などが原因で労働市場から離れない環境を構築すべきであり、今後テレワークがその重要な役割を果たすのではないかと思う。テレワークの実現により柔軟な働き方を希望する人がより労働市場で活躍できることを期待する。また、長時間労働の解決策としても有効に活用できることを望むところである。
(2017年12月27日「基礎研レター」)
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生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
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