- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 社会保障制度 >
- 医療保険制度 >
- 診療報酬の審査-医療の適正性はどのように確保されているのか?
診療報酬の審査-医療の適正性はどのように確保されているのか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
4――医療機関等や医師等に対する指導・監査
その結果、請求内容が不適切であると判断された場合、その患者に対する医療費の返還が命じられる。この場合、返還されるのは、請求内容が不適切であると判断された患者のものだけにとどまらない。過去半年から1年間に渡って、同様に請求を行ったケースについて、医療機関側で自主点検をして、不適切であると判明したものは全て、医療費返還の対象となる。
指導の過程で、医療機関等や医師等が、悪質な医療費給付請求を行っていたと判断されると、指導から監査に切り替わる。この場合、医療機関に対する保険診療の停止や、保険医の指定の取り消しといった処分が下されることもある。保険医療機関や保険医は、保険資格を失うと、5年間に渡り、事実上、診療行為を行えないこととなる。
2015年には、37の医療機関等、26人の保険医等が、取消もしくは取消相当となっている。このように、実際に、取消となった医療機関や医師等の数は、多くはない。しかし、医療費の悪質な給付請求に対して、一定の牽制効果を与えているものと考えられる。
5――これからの支払審査
現在、様々な分野で導入が模索されている人工知能(AI)を、レセプトの審査業務にも活用して、コンピュータチェックによる効率的な審査を進めることは、重要な鍵と言える。しかし、コンピュータだけに頼って、人の眼を一切介さずに、審査業務を進めれば、例えば、AI審査をパスするためのAIが開発されてペーパーコンプライアンスが横行する、等の懸念もある。人間の経験や感性と、AIのデータ処理・分析技術を、バランスよく組み合わせて、審査の実効性を高めることが必要となろう9。
7 「電子レセプト請求の電子化普及状況等(平成29年3月診療分)について」(厚生労働省)より。
8 これに関して、支払基金が2014年に公表した「『支払基金サービス向上計画』の第4次フォローアップ(平成26年度)」では、「支払基金サービス向上計画では、医科電子レセプトの原審査査定点数に占めるコンピュータチェックの寄与割合を平成27 年度には7 割程度としているところであるが、単に同割合の向上を目指すのではなく、コンピュータチェック全体の効率化等を考えながら、目標に向けて努力していくこととしている。」と記載されている。
9 なお、電子レセプトデータは、審査業務のみならず、健康診断などと組み合わせて、予防医療の推進に用いることも試みられている。電子レセプトや、健康診断等のデータを活用するデータヘルスは、病気になってから、診療を開始するという従来型の医療から、病気になる前に健康増進等の予防に努めるという新時代型の医療を推進するための、鍵となる。
6――おわりに (私見)
併せて、個々の医療機関等への牽制機能としての審査にとどまらずに、国レベルでの医療の効率化や、健康増進等を進める上で、審査業務で得られた知見を活用していく動きも求められてこよう。
診療報酬制度の運用や、制度見直しの動向には、今後も引き続き、注意が必要と考えられる。
(2017年11月21日「基礎研レター」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
篠原 拓也のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/28 | リスクアバースの原因-やり直しがきかないとリスクはとれない | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
2025/04/22 | 審査の差の定量化-審査のブレはどれくらい? | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
2025/04/15 | 患者数:入院は減少、外来は増加-2023年の「患者調査」にコロナ禍の影響はどうあらわれたか? | 篠原 拓也 | 基礎研レター |
2025/04/08 | センチネル効果の活用-監視されていると行動が改善する? | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年05月01日
日本を米国車が走りまわる日-掃除機は「でかくてがさつ」から脱却- -
2025年05月01日
米個人所得・消費支出(25年3月)-個人消費(前月比)が上振れする一方、PCE価格指数(前月比)は総合、コアともに横這い -
2025年05月01日
米GDP(25年1-3月期)-前期比年率▲0.3%と22年1-3月期以来のマイナス、市場予想も下回る -
2025年05月01日
ユーロ圏GDP(2025年1-3月期)-前期比0.4%に加速 -
2025年04月30日
2025年1-3月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.9%)を予測~
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【診療報酬の審査-医療の適正性はどのように確保されているのか?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
診療報酬の審査-医療の適正性はどのように確保されているのか?のレポート Topへ