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高額な医療費明細書の増加と保険者における対応
保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子
患者自身は、医療費が高額になった場合でも、高額療養費制度が適用され、月ごとの自己負担額は年齢と所得によって決められた自己負担限度額にとどまる。しかし、患者が自己負担しないで済んだ分は、国民健康保険など加入する保険者が負担をしている。したがって、予想を大幅に超えるような高額レセプトの発生は、規模の小さい保険者においては、保険財政を不安定にする要素となり得る。
本稿では、レセプトごとの医療費の概要と、高額レセプトの影響を緩和するための保険者における対応を紹介する。
1 正確には、「組合管掌健康保険」。
1――国全体の医療費の概要
医科診療医療費が対前年度で+1.5%と、国民医療費全体の伸びを下回っているが、医療機関受療率は減少し続けている3ことから、受療1回あたりの医療費が増加していると考えられる。
2 厚生労働省「平成25年度国民医療費の概況(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/13/index.html)」。
3 詳細は、村松容子「高齢者の受療行動・疾病・医療費~医療統計に見られる10 年余の動向」ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート2012年6月27日号をご参照ください。
2――どのようなときに高額レセプトが発生しているか
受療1回あたりの医療費の概要は、レセプト単位の医療費の分析によって概略がわかる。レセプトとは、患者が受けた診療について診療報酬を請求するために医療機関が発行する明細書のことで、各患者に対して、各医療機関が入院/入院外に分けて毎月発行する4。同じ月に同じ病院の複数の診療科にかかった場合は、複数の診療科の医療費が記載された1枚のレセプトが発行される。また、同じ月に複数の医療機関にかかっていれば、その患者に対して1か月に医療機関ごとの複数枚のレセプトが発行される。したがって、高額レセプトの数の増減が、直接国全体の医療費の増減を意味するわけではないし、1つの傷病の1回の医療費を示すわけでもない。
しかし、高額レセプトが、複数の診療科における医療費を合算することで発生することより、1つの高額な診療行為によって発生することが多いことを踏まえれば、高額になりやすい傷病や診療行為、医薬品を知ることができる。また、1枚のレセプトあたりの医療費は、長年にわたって取得されているため、時系列で捉える上で参考となる。
2|レセプト1件あたりの医療費は上昇。循環器系の疾患や新生物による入院レセプトが高額。
厚生労働省の「平成26年 社会医療診療行為別調査5」で、国全体のレセプト別医科医療費の分布をみる。
まず、入院レセプトと入院外レセプトを比較すると、当然のことながら入院レセプトは入院外レセプトと比べて、1件あたりの医療費が高い価格帯に分布する(図表1、図表2)。
入院レセプトについて、一般医療(75歳未満)と後期医療(75歳以上)を比較すると、後期医療の方が高い価格帯に分布する(図表1)。しかし、後期医療が多いのは、図表1の区分で50~80万円の層であり、さらに高額な80万円以上のレセプトが占める割合は、一般医療と後期医療のいずれも16%程度と差はない。
続いて、入院レセプトの1件あたりの医療費の推移を時系列でみると、2008年度から2014年度にかけて50万円以上のレセプトの占める割合が高くなっていることがわかる(図表3)。1件あたり50万円以上のレセプトの占める割合の伸びを一般医療と後期医療で比較すると、この6年間で一般医療が1.33倍になっているのに対し、後期医療は1.27倍と、現時点では、一般医療の伸びが大きくなっている(図表4)。なお、入院外レセプトの1件あたりの医療費の推移は、時系列でみても変動は少ない(図表略)。
こういった高額なレセプトが発生している傷病別に実施した診療行為をみると、手術や麻酔が他の傷病より高くなっている。傷病別では、「新生物」で「注射」や「画像診断」が、「筋骨格系及び結合組織の疾患」で「在宅医療」が、他の傷病より高い傾向がある。
4 その他、調剤薬局では調剤レセプト、急性期病院ではDPCレセプト、歯科では歯科レセプトを発行している。
5 2014年6月審査分のレセプトを対象とした調査。「社会医療診療行為別調査」では、医療費は診療報酬点数(点)で示されているが、本稿では、点数に10を乗じて医療費(円)で表記する。
7 本稿で扱っているのは、1件のレセプトあたりの医療費であるため、国全体の医療費とは概要が異なる。
(2015年11月30日「基礎研レター」)
03-3512-1783
- 【職歴】
2003年 ニッセイ基礎研究所入社
村松 容子のレポート
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