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保険金詐欺の発生状況-日本と比べて、欧米では保険金詐欺はどうなっているか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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1――はじめに
今日、保険会社は、約款の中に、詐欺による無効の規定を置いて、保険金詐取を抑止している。併せて、保険業界は、保険金詐欺が刑事罰に該当する重罪であることを社会に周知させて、その根絶に向けた取り組みを進めている。
欧米でも、保険金詐欺は、問題となっている。本稿では、諸資料をもとに、日本と欧米の保険金詐欺について概観するとともに、今後の対処法等について、考察することとしたい。
1 “5 of the most remarkable instances in the history of fraud” Natalie Hammond(Experian Information Solutions, Inc, Identity and Fraud, September 25, 2015)より。
2――保険金詐欺の類型化
保険金詐欺として多発しやすいケースは、犯罪者にとって発覚のリスクが小さく、仮に発覚して逮捕に至ったとしても、重罰とはならないものであろう2。例えば、偽装自動車盗難事故や、保険契約締結前の事故を締結後に発生したと偽る行為(アフター・ロス、アフロス)などがある。これらの詐欺による不正請求を類型化すると、次の表のようになる。
こうした状況は、日本に限られない。欧米でも、包括的な保険金詐欺の統計は作られていない模様である。一般に、保険金詐欺による被害額が多額に上れば、保険会社の収支の悪化を通じて、保険料の値上げを招く。これは、善良な保険契約者の負担が増加するという形で、社会全体の不利益につながる結果となる。従って、保険金詐欺を根絶し、不当な保険金利得を許さないことが、保険会社の使命となる。
2 日本の刑法では、第246条で詐欺罪が規定されている。犯罪を行った者は、10年以下の懲役に処され、犯罪によって得たものは没収または追徴される。
3――各国の保険金詐欺
このように、交通特殊事件での保険金詐欺を見る限り、現在、日本では、保険金詐欺が社会問題となっている訳ではない。しかし、この後に見ていくような欧米での詐欺事案が、今後、日本に入り込んでくる可能性もある。引き続き、保険金詐欺の根絶に向けた取り組みを、進めていく必要があるものと思われる。
次に、アメリカの様子を見る。保険業界の見積もりによると、アメリカでは、毎年、損害保険の保険金支払額の約10%が、保険金詐欺によるものと見られている。2011年~2015年には、毎年、340億ドル(約3.7兆円3)もの保険金詐欺が発生したとされている。
また、医療保険の分野では、民間保険と公的保険を合わせて、医療給付支出の3~10%が、保険金詐欺によるものと見られている。2010年には、770億ドル(約8.5兆円)~2,590億ドル(28.5兆円)もの、多額の支出が詐欺によってなされたと言われている4。
アメリカでは、通常の詐欺罪とは独立して、保険金詐欺を取り締まるとともに、不正請求の抑止を目的とした「保険詐欺罪」が制定されている。例えば、ニューヨーク州刑法では、保険詐欺に対して、詐取金額等に応じた刑罰が区分されている。最も重い第1級保険詐欺罪(100万ドル(約1.1億円)超の保険金詐取等)では、Bクラスの重罪とされ、25年以下の懲役刑が科される5。
3 1ドル=110円で換算 (以下、同様)。
4 Insurance Information InstituteのInsurance Fraudの項(http://www.iii.org/issue-update/insurance-fraud)より。
5 保険詐欺罪は、Article 176.00~176.35にかけて、第1級から第5級までの5段階で規定されている。懲役刑の罰則は、Article 70.00に規定されている。
続いて、イギリスの様子を見る。イギリスでは、保険協会(Association of British Insurers, ABI)が、偽装自動車衝突事故等により、2013年に13億ポンド(約1,800億円6)の保険金詐欺での支払いがなされたと公表した。この金額は、前年から18%増加し、記録的な高水準となっている。ABIは、保険金詐欺により1世帯あたり年間50ポンド(約7,000円)の保険料負担増につながっているとしている7。
イギリスでは、2006年に、自動車保険の保険金不正請求に取り組むための、保険金詐欺局(Insurance Fraud Bureau, IFB)が設置されている。また、2012年には、保険詐欺取締施行部(Insurance Fraud Enforcement Department, IFED)という専門の警察組織が設置され、被疑者の起訴等を支援してきた8。
また、2012年には、ABIが主導して、イギリス全国で保険金詐欺者を登録する、保険金詐欺登録制度(Insurance Fraud Register, IFR)が開始されている。この制度は、損保市場の60%超を占める保険会社で活用されている9。契約者が保険に加入する際や、更新する際、給付を請求する際などに、保険金詐欺の企ての有無についての情報が、保険会社に提供される。この制度は、2020年まで、継続して実施されることが決まっている。
6 1ポンド=140円で換算 (以下、同様)。
7 “Insurance fraud at record high, says ABI”(BBC News , 30 May 2014)より。
8 ロンドン市警察のホームページより (https://www.cityoflondon.police.uk/advice-and-support/fraud-and-economic-crime/ifed/Pages/About-IFED.aspx)
9 “Industry sign-up to Insurance Fraud Register ahead of target”(IFR, News & Updates, 2017.4.4)
(2017年06月13日「保険・年金フォーカス」)
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保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
篠原 拓也のレポート
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