2017年05月31日

生産緑地法改正と2022年問題―2022年問題から始まる都市農業振興とまちづくり

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任   塩澤 誠一郎

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1――はじめに

2022年は、1992年に生産緑地地区が最初に指定されてから30年となり、生産緑地の買い取り申出が可能になる年である。対象となる土地所有農家が一斉に自治体に買取り申出を行うと、実際には多くが買い取られず、宅地として市場に放出され、既に空き家、空き地の増加が社会問題化している中で、宅地としての有効活用はあまり期待できず、多くの不安定な土地が市街地の中に発生することにつながるのではないか。このような懸念がいわゆる、生産緑地の2022年問題である。

筆者は2015年6月にこれを指摘するコラムを執筆した1。ただし、ここで論じたことは、このような、土地・住宅市場に大きな影響を与える可能性がある点ばかりではない。むしろ、対象となる生産緑地の中には、市街地における貴重な緑地空間として引き続き保全すべき農地や、まちづくりの中で積極的に活用すべき農地があるはずであり、それを後押しする法制度の充実や自治体独自の取り組みが必要ではないかという点である。

その後、2016年5月に、都市農業振興基本法に基づく「都市農業振興基本計画」が策定され、本年4月には生産緑地法の改正を含む、都市緑地法等の改正法案が成立した。これによって、土地・住宅市場への影響は一定程度抑えられ、都市農業振興あるいは都市農地を活かしたまちづくりという観点から、生産緑地を保全、活用することへの期待が高まったと考えている。

このように、2022年問題は、都市農業の振興、都市農地を活かしたまちづくりを進める契機として、ポジティブに捉えたい。本稿は、こうした観点から、現行生産緑地制度を確認したうえで、改正法案の中身から2022年までに対象農家が採り得る選択肢を分析し、それを踏まえて自治体等関係者が取り組むべき方向性を考察する。なお、ここでは特に断りがない限り、三大都市圏特定市2の生産緑地について論じる3
図表1 三大都市圏特定市位置
 
1 研究員の眼2015年6月1日『「2022年問題」に警鐘を鳴らす ~ 都市農地のゆくえ ~
2 三大都市圏特定市:東京都特別区、三大都市圏(首都圏、近畿圏、中部圏)にある政令指定都市及び市域の全部又は一部が首都圏整備法の既成市街地・近郊整備地帯を含む市(茨城県、埼玉県、東京都、千葉県、神奈川県が該当)、近畿圏整備法の既成都市区域・近郊整備区域を含む市(京都府、大阪府、兵庫県、奈良県が該当)、中部圏開発整備法の都市整備区域を含む市(愛知県、三重県が該当)。
3 本稿は、2016年度における「都市農地勉強会」(事務局:ニッセイ基礎研究所社会研究部)での検討を下敷きにしている。
 

2――生産緑地制度とは

2――生産緑地制度とは

改正法案を正しく理解するために、まず、現行の生産緑地制度を簡単に確認する。

1|都市計画制度における農地の取り扱い

1968年に現在の都市計画法が制定され、都市計画区域を市街化区域と市街化調整区域に区分する、いわゆる線引き制度が導入された。無秩序な開発を防止し、計画的な市街化の誘導を目的としたものである。

市街化区域とは、既に市街地を形成している区域及び、概ね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域である。これに対し、市街化調整区域は、市街化を抑制すべき区域である4

高度経済成長期における都市部への急速な宅地需要の高まりに対し、宅地化できる区域を限定し、区域内での宅地化を計画的に誘導する一方で、市街化調整区域の農地や樹林地などを開発圧力から守ろうとするねらいがあった。
図表2 市街化区域と市街化調整区域における開発行為、農地転用の手続きの違い
そのため、開発許可制度が設けられ、市街化区域では、一定規模以上の開発行為を行う場合のみに都道府県知事等の許可が必要であるのに対し、市街化調整区域では、原則としてすべての開発行為が許可の対象となった。

また、市街化区域の農地は、農業委員会5への届け出のみで農地以外に転用できるが、市街化調整区域の農地は、農地法の農地転用許可制度6によって、都道府県知事の許可を受けなければならない。(図表2)
 
4 都市計画法第7条(区域区分)
5 農地法に基づく売買・貸借の許可、農地転用案件への意見具申、遊休農地の調査・指導などを中心に農地に関する事務を執行する行政委員会として、農業委員会等に関する法律に基づき市町村が設置する機関。
6 農地法第4条1項
2|生産緑地制度

(1) 行為制限と税制特例
1991年の生産緑地法改正によって成立した現行の生産緑地制度は、三大都市圏の特定市について、市街化区域内農地を宅地化する農地(宅地化農地)と保全する農地に区分し、保全する農地について生産緑地地区に指定し、都市計画として定めるものである。

生産緑地地区に指定すると、農地としての管理が義務付けられ、建築等営農以外の行為が制限される。一方で、固定資産税は農地課税が適用され、相続税等納税猶予制度7を用いることができる。
図表3 市街化区域内における生産緑地と宅地化農地の違い
生産緑地法の第一条には、「この法律は、生産緑地地区に関する都市計画に関し必要な事項を定めることにより、農林漁業との調整を図りつつ、良好な都市環境の形成に資することを目的とする」とある。つまり、農地を環境面から評価し、一定の条件に該当するものを保全しようとしているのである。指定条件は次の3点である。
  • 公害又は災害の防止、農林漁業と調和した良好な生活環境の確保に相当の効用があり、かつ、公共施設等の敷地に適している
  • 500m2以上の規模
  • 農業の継続が可能な条件を備えている
 
また、第2条の2、国及び地方公共団体の責務では、「国及び地方公共団体は、公園、緑地その他の公共空地の整備の現況及び将来の見通しを勘案して、都市における農地等の適正な保全を図ることにより良好な都市環境の形成に資するよう努めなければならない」としている。

これらの条文から、生産緑地地区を指定することは、将来的に公共施設として活用することを視野に入れたものであることが理解できる。農地としての生産緑地が周辺の生活環境と調和して存在し、かつ将来それを公園などの公共施設として活用した際にも、その効果が十分得られることを見通して指定するものと読み取れる。このように、生産緑地制度はきわめて都市計画的な考え方が下敷きとなっている。

(2) 買取り申出制度
前述のとおり、生産緑地地区に指定すると、営農することが前提となり、営農に関係のない建築物を建てたり、宅地に造成したりといったことはできない。仮にそうした行為が発生した場合、市区町村長8から原状回復を命じられる。

しかし、次の要件に該当する場合、生産緑地の所有者は、市区町村に対し生産緑地の買取りを申出ることができる。

1.指定告示日から30年経過したとき
2.主たる従業者が死亡したとき
3.主たる従業者がなんらかの故障によって農業に従事することが困難になったとき

市区町村は、買取り申出があると、特別の事情が無い限り時価で買い取らなければならない。つまり、長期に農地として保全する仕組みに加え、生産緑地に期待された公共空地としての活用を実現する手段が用意されているのである。

しかし、特別の事情がある場合、市区町村は買い取らずに他の農業従事者に取得をあっせんすることになっている。取得する者が現れなかった場合は、管理義務や行為制限が解除され、その後都市計画の変更手続きが行われ、都市計画から地区が削除される。
 
 
7 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例」租税特別措置法第70条の6第1項
8 市区町村の区とは、東京特別区を指す。法律では市町村としているが、三大都市圏特定市に含まれる東京特別区も同様に規定されることから本稿では市区町村と示す。
3|相続税納税猶予制度
先にも触れたが、生産緑地地区に指定されると、相続税納税猶予制度が適用できる。この制度は、営農継続意思のある相続人を支援する目的で設けられたものだ。

農業目的で使用している限り到底支払うことができない高額評価により相続税が課税されると、農業を継続したくても農地を手放さなければならない。生産緑地は、市街化区域であることから相続税の評価額は当然高額になる9

これに対し、相続税納税猶予制度の適用を受けると、本来の相続税額のうち農業投資価格10を超える部分に対応する相続税の納税が一定の要件の基に猶予される。ただし、三大都市圏特定市の場合、相続税納税猶予制度の適用は終身営農が前提である11。農地の売却、営農の廃止などの場合には、猶予されていた税額に利子税を加えた額を納付する必要がある。
 
9 市街化区域内の農地を親から相続する場合、近傍宅地の価格を基準に評価される。これは宅地化農地も生産緑地も同様である。
10 農地等が恒久的に農業の要に供される土地として自由な取引がされるとした場合に通常成立すると認められる価格として国税局長が決定した価格。国税庁のホームページで公表されている。
11 三大都市圏特定市以外の生産緑地における相続税納税猶予は20年営農で免除となる。
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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

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