2017年03月30日

高まる介護ロボット導入による「効果的な活用」への注目度-多くの関係者が詰め掛けた「介護ロボットフォーラム2016」-

青山 正治

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3介護ロボット導入好事例の表彰及び最優秀賞の決定
介護ロボット導入好事例の表彰は今回が第1回目であり、2016年の10月から11月の約1ヶ月間の募集期間に応募があった全95件から、テクノエイド協会によって書類審査と現地調査が行なわれ、特に優れた事例として優秀賞(3部門8件)、好事例賞(4部門11件)が選ばれ、受賞式が行なわれた。(図表-3)

以降では「優秀賞」の内容のみに簡単に触れる。
図表-3  「介護ロボット導入好事例表彰事業」受賞一覧(○印は最優秀賞)
優秀賞は「事業者部門(施設等の運営事業者)」が4事業者、「メーカー部門(機器開発企業)」が2社、「流通・普及支援部門(展示・販売等の団体)」が2団体の計8事業者・企業・団体が受賞した。

「事業者部門」の介護サービス4事業者は、福祉用具や介護ロボット等の導入や効果的な活用のために、事業者ごとに工夫された積極的な取組を実施している。そして、単なる介護ロボットの導入と活用に止まらず、導入から効果的で継続的な活用による「新しい介護」を目標にしていると思われる。「メーカー部門」では、パナソニックエイジフリー株式会社は図表-1の「11」にある「リショーネPlus」という介護用ベッドの縦半分が介助者用の車いすに変形する機器で受賞した。さらにクラリオン株式会社は「服薬支援ロボ」という一日4回、一週間分の服薬に必要な医薬品を色分けされた樹脂性のピルケースで機器内に格納し、服薬時間が来ると、機器の前を通過する対象者に音声で服薬を知らせる機器で受賞した。なお、この機器は薬局とネットで接続され、対象者の服薬状況等の管理が行なえる。「流通・普及支援部門」では各種福祉用具や介護ロボットなどを展示し、普及支援を行い受賞した団体である。当日、それぞれの活動内容のプレゼンテーションが実施され、審査員によって、優秀賞の中から最優秀賞として「社会福祉法人野の花会」(サイバーダイン社の「HAL®介護支援用(腰タイプ)」の導入)が選ばれた。

好事例賞の事業者部門(7事業者)では導入した介護ロボットを効果的に活用している施設・事業者であり、それらの内容は当日配布の「ガイドブック」1を参照して欲しい。
なお「行政部門」では岡山市が「見守り支援」の機器活用で「好事例賞」を受賞している。その事業は「総合特区最先端介護機器貸与モデル事業」であり、同市は2014年2月より介護ロボットの活用に積極的に取組んでいる。この事業の他にも、近年、複数の地方自治体が独自に、又は特区の事業などによって介護施設で介護ロボット活用のモデル事業を実施するようになってきている。それら複数の取組内容も介護ロボット活用に積極的に取組む施設の参考になると思われ、今後、全国の様々な施設による介護ロボットの導入や活用に関するモデル事業の結果の公表が注目されよう。
 
1 3月1日に「介護ロボットフォーラム 2016」の会場で配布された「ガイドブック(平成28年度 介護ロボット導入好事例表彰事業~介護ロボットの普及と利用促進に向けて~)」の最終版(「最優秀賞」記載)が、後日、テクノエイド協会のホームページにアップロードされる予定となっており、各事例の詳細は「ガイドブック」を参照のこと。
 

2――今後、多数の「効果的な活用」に関する好事例の情報発信に期待

2――今後、多数の「効果的な活用」に関する好事例の情報発信に期待

さて、今回の同シンポジウムの開催を含めて最近の介護ロボット等の展示会場では、数多くの介護関係者が熱心にメーカーの担当者に使い方や使用効果等について質問したり、機器を試用するシーンが多数見られるようになっている。過去から様々な介護ロボット等の展示会等を取材していると、今から2~3年前の展示会場では、各展示メーカーの担当者に質問する人の数も少なく、機器のデモンストレーションをやや遠巻きに見学する人々が多数であったように記憶している。

しかし、前述のとおり最近では介護関係者の、これら機器についての関心が急速に高まってきているように感じられる。その背景には、厚生労働省が実施した「介護ロボット等導入支援特別事業(2015年度の補正予算)」が影響しているのではないだろうか。現在、同事業で介護ロボット等の導入対象となっている介護サービス事業所に、急ピッチで機器の導入が進められていよう。同事業はやや遅れ気味に遂行されているが、結果的には、このような介護ロボットの「使い方」に関する様々な情報発信とほぼ同時期となったことで、今回の展示会のように参加人数を押し上げる要因の一つになっていることが推察される。現在、積極的な機器導入と活用を検討する介護施設や介護サービス事業所にとって、今回のフォーラムの優秀賞や好事例賞の事業者部門の各取組内容は様々な点で参考となる情報を含んでいよう。

今回、同フォーラムにおいて初めて「優秀賞」や「好事例賞」などの表彰が実施された。今後とも同表彰制度などによって、介護現場における介護ロボット導入・活用への具体的な取組事例の情報発信が継続され、福祉用具や介護ロボットの導入が拡大して効果的な活用が促進されることを大いに期待したい。
<参考資料>

1. 政府及び行政などの公表資料
・公益財団法人テクノエイド協会「ガイドブック(平成28年度 介護ロボット導入好事例表彰事業 ~介護ロボットの普及と利用促進に向けて~) 受賞案件紹介」(2017年3月1日) ※P4の脚注「1」を参照のこと

2.ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート(Web版)」
・「小型コミュニケーションロボットの活用に向けて-目指す活用シーンはビジネスからパーソナル、ホームと多彩-」(2016年12月27日)
・「ロボット介護機器(介護ロボット)の利用意向 -東京都の調査に見る現役世代の高い利用意向-」(2016年11月22日)
・「新たな価値を提供する先進的な福祉用具-ユーザー目線の開発がもたらす利用者のQOL向上-」(2016年5月26日)
・「福祉用具・介護ロボット実用化支援事業の現状と今後-介護現場との協働と共創が必須の介護ロボット開発-」(2016年2月3日)
・「超高齢社会を支援する福祉機器-国際福祉機器展の概況と今後の福祉機器開発・活用への期待-」(2015年11月30日)
・「3年度目となる「ロボット介護機器」開発補助事業の動向 -2015年度より国立研究開発法人日本医療研究開発機構が実施-」(2015年9月29日)
・「利用意向高い介護ロボット-「平成27年版情報通信白書」の介護用ロボット利用の意識調査-」(2015年8月28日)
・「社会で広く理解を深めることが重要な介護ロボット -紹介されたロボット介護機器の3機種-」(2015年6月30日)
・「介護ロボット開発・普及の現在位置と今後への視点-“ロボット介護”の開発と新たな開発・普及サイクルの構築-」 (2015年4月30日)
・「『ロボット新戦略』における介護分野のアクションプランの要点-介護保険と地域医療介護総合確保基金による新たな普及方策-
 (2015年3月30日)
 
(2012~2014年度の「基礎研レポート」、「研究員の眼」は「執筆一覧」より)

3.ニッセイ基礎研究所 「基礎研レター(Web版)」
・「技術革新が進む『障害者自立支援機器』の開発 –シーズ・ニーズのマッチングを促進する重要な取組-」(2017年2月13日)
 
4.ニッセイ基礎研究所 「研究員の眼(Web版)」
・「ロボットを上手に活かす超高齢社会の構築に向けて」(2015年5月27日)
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青山 正治

研究・専門分野

(2017年03月30日「基礎研レター」)

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