2016年12月08日

2016~2018年度経済見通し~16年7-9月期GDP2次速報後改定

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.基準改定、2008SNA対応で2015年度の名目GDPは31.6兆円の上方改定

12/8に内閣府が公表した2016年7-9月期の実質GDP(2次速報値)は前期比0.3%(年率1.3%)となり、1次速報の前期比0.5%(年率2.2%)から下方修正された。

民間消費(1次速報:前期比0.1%→同0.3%)、公的固定資本形成(1次速報:前期比▲0.7%→同0.1%)は上方修正されたが、7-9月期の法人企業統計の結果や過去に遡って計数が大幅に修正された影響などから設備投資(1次速報:前期比0.0%→同▲0.4%)、民間在庫変動(1次速報:前期比・寄与度▲0.1%→同▲0.3%)、外需(1次速報:前期比・寄与度0.5%→同0.3%)が下方修正されたことが成長率を押し下げた。

一方、2016年4-6月期の成長率は前期比年率0.7%から同1.8%へと上方修正されており、2016年度入り後の2四半期を通した伸びは1次速報時点よりも高まった。
 
7-9月期の2次速報と同時に、国民経済計算の基準改定(2005年基準→2011年基準)、国民経済計算の最新の国際基準である「2008SNA」への対応(従来は「1993SNA」)が実施された。

2008SNAへの対応に伴う主な変更点は以下の通りである。

(1) 研究・開発(R&D)の資本化
 R&Dへの支出(フロー)を総固定資本形成として記録するとともに、その蓄積の結果であるストックを固定資産(知的財産生産物)として記録

(2) 特許等サービスの取扱いの変更
 特許実体がライセンス下で使用が許諾される場合のライセンシーとライセンサーとの間の使用料の受払について、従前の財産所得(賃貸料)ではなく、特許等サービスというサービスの産出とそれに対する支払として記録。特許等サービスの純輸出分がGDP水準の増加要因

(3) 防衛装備品の資本化
 政府による戦車や艦艇等の購入は、従前の中間消費ではなく、総固定資本形成として記録し、その蓄積を固定資産として記録

(4) 国際収支統計との整合

国際収支マニュアル第6版(BPM6)と整合的に、財貨の輸出入を所有権移転ベースで記録するという原則を徹底
基準改定前後の名目GDPの比較 基準改定後の名目GDPの水準は1994年以降の平均で18.2兆円(GDP比3.7%)、直近の2015年度は31.6兆円(GDP比6.3%)の上方改定となった(2015年度の名目GDPは532.2兆円)。内閣府によれば、名目GDPの上方改定のうち、R&Dの資本化によるものが16.2兆円(1994~2015年度以降の平均、2015年度は19.2兆円)で、名目GDP上方改定の大半を占めている。

需要項目別には、R&Dが新たに計上されたことを反映し、民間企業設備が11.1兆円と上方改定幅が大きくなっている。設備投資の名目GDPに占める割合は旧基準の14.0%から15.3%へと高まった(いずれも2015年度の数値)。
基準改定前後の名目GDPの比較(2015年度)
基準改定前後の実質GDP成長率の比較 実質GDP成長率への影響を確認すると、過去10年平均(2006~2015年度)の成長率は0.5%で旧基準と変わらなかったが、直近3年間の成長率は比較的大幅な上方改定となった(2013年度:2.0%→2.6%、2014年度:▲0.9%→▲0.4%、2015年度:0.9%→1.3%)。2013、2014年度は民間消費、設備投資の上方修正、2015年度は民間消費の上方修正が成長率の上方改定に大きく寄与した。

なお、設備投資の水準はR&Dの追加により大きく押し上げられたが、伸び率で見ると上方修正される年度と下方修正される年度がほぼ同数となっており、1995年度以降の平均で0.3%(旧基準:1.1%→新基準:1.4%)と小さかった。
(7-9月期の経常利益は特殊要因でかさ上げ)
12/1に財務省から公表された法人企業統計では、2016年4-6月期の経常利益(金融業、保険業を除く全産業)が前年比11.5%と4四半期ぶりの増加となった(4-6月期:同▲10.0%)。製造業は前年比▲12.2%(4-6月期:同▲22.4%)と4四半期連続の二桁減益となったが、非製造業が前年比24.5%(4-6月期:同▲3.1%)の大幅増益となったことが全体を大きく押し上げた。

ただし、非製造業の経常利益は、子会社からの受取配当の急増を主因として純粋持株会社が前年比858.9%となったことにより大きく押し上げられている。これは持続的なものとは考えられず、特殊要因と捉えるべきだろう。純粋持株会社を除いた経常利益は非製造業が前年比▲1.4%、全産業が同▲5.3%となる。特殊要因を除いた経常利益は4-6月期の前年比二桁の大幅減少から減少幅が縮小したとの評価が妥当だ。企業収益は最悪期を脱しつつあるものの、実勢として増益に転じるのは円高の影響がほぼ一巡する2017年入り後となる可能性が高い。
設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比▲1.3%と14四半期ぶりに減少した(4-6月期:同3.1%)。非製造業(4-6月期:前年比▲1.3%→7-9月期:同▲1.3%)が2四半期連続の減少となる中、これまで堅調を維持してきた製造業(4-6月期:前年比11.1%→7-9月期:同▲1.4%)が9四半期ぶりの減少となった。

季節調整済の設備投資(ソフトウェアを除く)は前期比0.4%と小幅ながら2四半期ぶりに増加した。製造業が前期比▲2.5%(4-6月期:同0.3%)と3四半期ぶりに減少したが、非製造業が前期比2.1%(4-6月期:同▲2.1%)と4四半期ぶりに増加した。

設備投資は前年比で減少に転じたが、2015年後半以降の企業収益悪化の影響が遅れて表れたものであること、前期比でみればほぼ横ばいとなっていることを踏まえれば、それほど悲観する必要はないだろう。企業の投資意欲が大きく高まることは見込めないため、設備投資が景気の牽引役となることは期待できないが、企業収益の回復に伴い徐々に持ち直しに向かうことが予想される。
経常利益の推移/設備投資(ソフトウェアを含む)の推移
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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