2016年11月04日

【11月米FOMC】予想通り、政策金利据え置き。12月利上げに向け、また一歩前進

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:予想通り、政策金利を据え置き。物価の現状判断、見通しを上方修正

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が11月1-2日(現地時間)に開催された。市場の予想通り、FRBは政策金利を据え置いた。

今回発表された声明文では、景気の現状認識について、家計消費を幾分下方修正する一方、物価が「年初からやや上昇した」と物価判断を上方修正した。さらに、物価見通しについても、「短期的に低水準に留まる」との表現を削除することで上方修正した。一方、ガイダンス部分では、「政策金利引き上げの根拠が引き続き強まった」と「引き続き」との表現が追加され、利上げに向けた環境が整っているとの評価に変化がないことが示された。

今回の金融政策決定では、カンザスシティ連銀のジョージ総裁、クリーブランド連銀のメッサー総裁の2名が政策金利の引き上げを主張して反対した。一方、前回反対したボストン連銀のローゼングレン総裁は賛成に転じた。

2.金融政策の評価:物価見通しを上方修正し、12月利上げに向けてさらに前進

政策金利の据え置きは当研究所の予想通り。声明文の内容についてもサプライズは無かった。市場の一部には、金融政策のガイダンス部分で12月利上げを強く示唆するような表現が盛り込まれるのではとの見方もあったが、物価見通しの上方修正と併せて考えると、実質的に声明文は12月利上げを強く示唆していると判断して良いだろう。実際、前回のFOMC会合で利上げを主張して反対票を投じたローゼングレン総裁が賛成票に転じたことは、FOMC委員の間で12月の利上げで意見集約が出来ていることを示唆していると言える。

もっとも、今後の金融政策の動向を見極める上で米大統領選挙がリスク要因として俄かに浮上してきた。クリントン候補のメール問題で、トランプ候補の支持率が持ち直すなど、大統領選挙の結果が混沌としてきた。金融市場はこれまで相当程度クリントン大統領を織込んできたことから、足元で不安定な動きとなっている。依然可能性は低いとみられるものの、トランプ大統領が誕生する場合には政策の予見可能性の低下から、資本市場が更に不安定な動きとなる可能性が高い。このため、大統領選挙結果次第では、米経済への影響を見極めるために、FRBが12月利上げを見送る可能性について注視する必要があるだろう。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • FF金利の誘導目標を0.25-0.50%の水準に維持(変更なし)
  • 政府機関債、MBSの償還分はMBSへ再投資(変更なし)
  • 米国債の償還分は米国債へ再投資(変更なし)
  • FF金利の正常化が十分に進展するまでこの方針を続けることを見込む(変更なし)
  • 長期債を高水準で保有し続けることで緩和的な金融環境を維持する(変更なし)
 
(フォワードガイダンス、今後の金融政策見通し)
  • 委員会は、FF金利を引き上げる根拠は引き続き強まったと判断するが、当分の間、目標達成に向けた継続的な伸展の更にいくらかの証拠を待つことに決めた。(“引き続き(continued to)”と、“いくらかの(some)”との表現を追加)
  • 金融政策スタンスは依然として緩和的であるため、更なる労働市場の改善や物価の2%への上昇を下支えする(変更なし)
  • FF金利の目標レンジに対する将来の調整時期や水準の決定に際して、委員会は経済の現状と見通しを雇用の最大化と2%物価目標に照らして判断する(変更なし)
  • これらの判断に際しては、雇用情勢、インフレ圧力、期待インフレ、金融、海外情勢など幅広い情報を勘案する(変更なし)
  • 現状でインフレ率が2%を下回っている状況に照らして、委員会は実績と物価目標に向けた見通しを注意深くモニターする(変更なし)
  • 委員会は、FF金利の緩やかな上昇のみを正当化するような経済状況の進展を予想しており、暫くの間、中長期的に有効となる水準を下回るとみられる(変更なし)
  • しかしながら、実際のFF金利の経路は、今後入手可能なデータに基づく経済見通しによる(変更なし)
 
(景気判断)
  • 労働市場が引き続き強くなり、経済活動は年前半の緩慢なペースから拡大が加速した(変更なし)
  • 失業率には、ここ数ヶ月ほとんど変化がみられないが、雇用は堅調な伸びとなった(前回にあった“概して(on average)”を削除し微修正)
  • 家計消費は緩やかに増加した(“力強く増加(growing strongly)“から下方修正)
  • 設備投資は引き続き軟調となっている(変更なし)
  • インフレ率は、年初からやや上昇したが、これまでのエネルギー価格や、エネルギー以外の輸入品の価格下落を反映して、2%の長期的な目標を下回っている(“年初からやや上昇(increased somewhat since earlier this year)”が追加され上方修正)
  • 市場が織り込むインフレ率は、上昇したものの低位に留まった(“上昇したものの(have moved up but)”が追加され上方修正)
  • ほとんどの調査に基づく長期物価見通しは、最近数ヶ月は全般的に変化に乏しい(変更なし)
 
 
(景気見通し)
  • 委員会は、金融政策スタンスの漸進的な調整により、経済活動は緩やかに拡大し、労働市場の状況が強くなると、予想している(変更なし)
  • インフレ率は、エネルギー価格のこれまでの下落もあって、短期的に低水準に留まるとみられる(今回削除)
  • インフレ率は、エネルギーや輸入価格のこれまでの下落といった一時的な要因が解消することや労働市場の更に強くなることによって、中期的には2%に向けて緩やかに上昇すると予測する(短期的に低水準に留まるとの表記が削除されたことで実質的に上方修正)
  • 経済見通しに対する短期的なリスクは概ねバランスしている(変更なし)
  • 委員会は、引き続きインフレ動向と世界経済および金融情勢を注視する(変更なし)
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2016年11月04日「経済・金融フラッシュ」)

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