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- 取締役会改革は企業のパフォーマンスを高めるか
社外取締役登用の効果についてはファイナンス、経営学双方の分野で膨大な数の研究が行われている。しかし社外取締役が企業のパフォーマンスを向上させるか否かについては明確な傾向が得られていない。この理由としては、(1)社外取締役の登用がそもそも制度として有効でない可能性、(2)望ましい社外取締役比率が企業によって異なる可能性、(3)社外取締役の人選に問題がある可能性、の3つが考えられよう1。
まず、(1)社外取締役の登用がそもそも制度として有効でない可能性に関しては、社外取締役が増えることで特定の企業行動が改善することが最近の研究で示唆されている。例えば社外取締役比率が増えると不透明な会計処理が減少し、会計情報の信頼性が高まることが幾つかの研究により示されている。また、取締役会の独立性が高まると、経営不振時に経営者交代がなされる確率が高くなることも分かってきている。このように社外取締役の登用が特定の企業行動に対してプラスの影響が見られることを踏まえると、昨今の取締役改革はやり方によっては企業の長期的なパフォーマンスに好影響を及ぼしうることを示唆していよう。
次に、(2)望ましい社外取締役比率が企業によって異なる可能性について考えてみよう。社外取締役の内部取締役に対する相対的なメリットとしては、社内に無い経験や知識を有していることを、株主の視点から経営者行動をモニタリングしやすいことが挙げられよう(図表1)。社外取締役がどの程度、株主の長期的利益を重視するかは当該人物の属性や報酬体系に依存するが、企業内部のステイクホルダーとしがらみがある内部取締役よりは株主価値を重視しやすいと思われる。また、社外取締役の多くは他に本業を有しているため、トップに対し反対意見を言いやすいというメリットもあるだろう。
その一方、社外取締役には企業内部の情報に精通していないという大きなデメリットがある。企業が適切な投資行動、人材の登用を行うためには社内の情報に精通していることが必要であり、限られた情報しか持たない社外取締役が誤った判断をしてしまうリスクは小さくない。更に社外取締役は内部取締役に比べ企業と関わる期間が短く、適切なインセンティブがなければ短期志向に陥りやすい可能性もある。以上のような社外取締役のメリット、デメリットは企業属性によって大きく変わってくるため、望ましい社外取締役比率も企業によって自ずと異なってくる。例えば、多角化し事業内容が複雑な企業や経営環境の変化が大きな企業では取締役会に社外の知見が入ってくるメリットは大きいであろう。逆に研究開発型の企業等、外部者が社内の情報を得にくい企業にとっては社外取締役のデメリットが大きくなろう。
また、社外取締役が経営者行動をモニタリングするインセンティブを持つかどうかも十分に吟味する必要がある。著名な社外取締役は社会的な評判がモニタリングへのインセンティブとなろうが、そうでない社外取締役はモニタリングに対し十分なインセンティブを持たない可能性もある。このような場合には、長期的な利益連動報酬等を導入することも一考に値しよう。
以上まとめると、取締役会改革が企業パフォーマンスの向上につながるためには、その会社にとって望ましい社外取締役比率を検討し、その企業にとって必要な知識や経験を有する人材を登用し、取締役会を多様性があるチームとして機能させることが重要と言える。日本企業の取締役会改革はまだ緒に就いたばかりであり、それぞれの企業にとって最適な取締役会を模索していくことが期待されよう。
(2016年10月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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東京理科大学 経営学部
佐々木 隆文
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日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2016/10/05 | 取締役会改革は企業のパフォーマンスを高めるか | 佐々木 隆文 | ニッセイ年金ストラテジー |
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