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- 従業員持株会への期待は企業業績にプラスの効果をもたらすか?
2016年08月03日
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『コーポレート・ガバナンスコード』が適用されて1年経過した。同コードは、政策保有株式として上場株式を保有する場合、中長期的経済合理性や将来見通しの検証と結果の説明を求める。これを受け、株式持ち合いの解消が更に進むと考えられる中、新たな安定株主として従業員持株会が注目されているようだ。本稿では、資産総額に占める政策保有株式(純投資目的以外の投資株式)の割合(以下、政策保有比率)、発行済み株式数に占める持ち合い株式の割合(以下、持合比率)および、同じく発行済み株式数に占める従業員持株会の保有比率(以下、従業員持株会比率)が与える企業業績への影響について確認する。
これまで安定株主としての役割を担ってきた政策保有株式(いわゆる持ち合い株式)の主目的は、取引関係の開拓・維持等にあり、ビジネス上重要な意義を認める見解がある。それとは反対に非効率な株式保有、更にはコーポレートガバナンス機能の阻害要因と見る向きもあり、企業業績に対し相反する見解がある。
一方、同じく安定株主として期待される従業員持株会には、従業員に企業価値向上へのインセンティブを与えるといった見解がある。従業員の福利厚生、財産形成促進といった目的もあり、多くの上場企業が従業員持株制度を採用し、拠出金に対して一定割合の奨励金を支給している。平均奨励金割合は7.9%(2015年3月末時点)に及ぶが、安定株主としての期待の高まりから、更なる引き上げを実施した企業もあるようだ。
これまで安定株主としての役割を担ってきた政策保有株式(いわゆる持ち合い株式)の主目的は、取引関係の開拓・維持等にあり、ビジネス上重要な意義を認める見解がある。それとは反対に非効率な株式保有、更にはコーポレートガバナンス機能の阻害要因と見る向きもあり、企業業績に対し相反する見解がある。
一方、同じく安定株主として期待される従業員持株会には、従業員に企業価値向上へのインセンティブを与えるといった見解がある。従業員の福利厚生、財産形成促進といった目的もあり、多くの上場企業が従業員持株制度を採用し、拠出金に対して一定割合の奨励金を支給している。平均奨励金割合は7.9%(2015年3月末時点)に及ぶが、安定株主としての期待の高まりから、更なる引き上げを実施した企業もあるようだ。
では、更なる持ち合い株式の解消の動きと、新たな安定株主としての従業員持株会への期待は、今後の企業収益にどのような効果をもたらすのだろうか。
そこで、本稿では以下の3つの視点で検証する。「政策保有株式の保有が企業業績にどのような効果をもたらすか」、「持合比率の高さが、コーポレートガバナンス機能を阻害し、結果的に企業業績を低下させるのか」、「従業員持株制度には、本当に従業員へのインセンティブ付与を通じた企業業績へのプラスの効果があるか」である。そこで、東証一部上場の一般事業会社を対象に、2012年度末時点の政策保有比率、持合比率および従業員持株会比率それぞれに対して、2013年度~2015年度並びに、3年度平均の企業業績(ROE)との関係を確認した。業種による差異を考慮するため、分析には、日経業種中分類に基づく業種別平均ROEとの差を用いた。結果は図表2の通りで、係数はほとんどのパターンにおいてマイナスであった。これは各々の比率が高いほどROEが低い傾向があることを示している。下段のP値は、分析結果の信頼度を表す尺度で、今回の場合は、値が低いほどROEに対するマイナスの影響の確度が高いことを意味する。
政策保有比率と持合比率はいずれのパターンにおいても、P値が1%を下回っている。このことから、現時点では政策保有株式は企業業績に対しマイナスの効果がある可能性とコーポレートガバナンス機能を阻害する可能性共に、極めて高い。中長期的経済合理性や将来見通しの検証を通じた政策保有株式の取捨選択により、遠くない将来に有意なマイナス効果が払拭されることに期待したい。
従業員持株会比率は、2014年度のP値こそ低いが、その他のP値はさほど低くない。このことから、従業員持株会比率が高いほど企業業績にマイナスの効果があるとは言えない。従業員の福利厚生、財産形成促進を目的とする従業員持株制度の有用性から、従業員持株制度自体は否定されないが、従業員へのインセンティブ付与を通じた企業業績へのプラスの効果は期待できないことを意味する。せめて、コーポレートガバナンス機能の阻害とならないことを祈るばかりである。
そこで、本稿では以下の3つの視点で検証する。「政策保有株式の保有が企業業績にどのような効果をもたらすか」、「持合比率の高さが、コーポレートガバナンス機能を阻害し、結果的に企業業績を低下させるのか」、「従業員持株制度には、本当に従業員へのインセンティブ付与を通じた企業業績へのプラスの効果があるか」である。そこで、東証一部上場の一般事業会社を対象に、2012年度末時点の政策保有比率、持合比率および従業員持株会比率それぞれに対して、2013年度~2015年度並びに、3年度平均の企業業績(ROE)との関係を確認した。業種による差異を考慮するため、分析には、日経業種中分類に基づく業種別平均ROEとの差を用いた。結果は図表2の通りで、係数はほとんどのパターンにおいてマイナスであった。これは各々の比率が高いほどROEが低い傾向があることを示している。下段のP値は、分析結果の信頼度を表す尺度で、今回の場合は、値が低いほどROEに対するマイナスの影響の確度が高いことを意味する。
政策保有比率と持合比率はいずれのパターンにおいても、P値が1%を下回っている。このことから、現時点では政策保有株式は企業業績に対しマイナスの効果がある可能性とコーポレートガバナンス機能を阻害する可能性共に、極めて高い。中長期的経済合理性や将来見通しの検証を通じた政策保有株式の取捨選択により、遠くない将来に有意なマイナス効果が払拭されることに期待したい。
従業員持株会比率は、2014年度のP値こそ低いが、その他のP値はさほど低くない。このことから、従業員持株会比率が高いほど企業業績にマイナスの効果があるとは言えない。従業員の福利厚生、財産形成促進を目的とする従業員持株制度の有用性から、従業員持株制度自体は否定されないが、従業員へのインセンティブ付与を通じた企業業績へのプラスの効果は期待できないことを意味する。せめて、コーポレートガバナンス機能の阻害とならないことを祈るばかりである。
(2016年08月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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経歴
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
高岡 和佳子のレポート
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