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救急搬送と救急救命のあり方-救急医療の現状と課題 (前編)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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0――はじめに
地域包括ケアシステムでは、病院から地域へと、医療の現場が広がっていく。即ち、急性期を経た高齢患者は退院して、在宅医療・介護等でケアを進めていく。その結果、在宅の高齢者が、脳卒中や、急性心筋梗塞などで倒れた場合の、救急医療体制の整備が、これまで以上に必要となる。
また、近年、2011年の東日本大震災をはじめ、地震、噴火、台風等の、多くの自然災害が発生している。海外に目を向ければ、テロによる人為災害が続発している。これらの災害の発生を受けて、被災地における災害医療のあり方が問われている。
こうした点を踏まえ、救急医療の現状と課題について、本稿と次稿の2回に渡って、述べていくこととしたい。まず、本稿では、平時の救急医療について紹介する。具体的には、救急搬送・救急救命の現状を中心として、救急救命士、メディカルコントロール体制等について見ていく。次稿では、災害時の救急医療である、災害医療について概観する。そこでは、災害医療体制や、トリアージに関する課題を俯瞰していく。
今後、日本の医療において、救急医療の役割は、ますます高まっていくものと考えられる。本稿と次稿を通じて、読者に、救急医療への関心を高めていただければ、幸いである。
1――消防における救急搬送の現状
1|救急車の出動件数は、年々増加している
まず、救急活動を、数量面から見ていくこととしよう。2015年4月現在、全国で750の消防本部がある。1,719の市町村のうち、1,689で消防法の救急業務を実施している。30町村は、消防機関が非常備となっている1。救急隊2は、全国で、5,069隊配備されている。救急隊員の数は、61,010人で、そのうち、救急救命士の数は、26,015人となっている。これらの数は、近年、徐々に増加している。
日本の人口は、2008年に減少に転じているが、救急搬送の対象となりやすい高齢者(65歳以上)の数は増加している。このことが、救急隊や、救急隊員、救急救命士の増加の背景にあると言える。
2015年の、救急隊の出動件数を、事故の種類別に見てみよう。救急出動のうち、急病が全体の6割以上を占めている。次いで、一般負傷が15%、転院搬送と、交通事故がいずれも8%、となっている。近年、交通事故は、減少している。しかし、その一方で、急病、一般負傷、転院搬送は、増加傾向にある。
1 これらの消防機関非常備町村には、離島の町村が多く該当している。「役場救急」(役場の職員による患者搬送)や、「病院(診療所)救急」(病院(診療所)による患者搬送)といった、補完体制を整備している。
2 消防の現場活動は、消火を担う消防隊(ポンプ隊)、傷病者の救助・救出を担う救助隊、傷病者の医療機関への搬送を担う救急隊に分けられる。なお、通常、救急隊は、隊長、隊員、機関員(運転手を務める)の3名の救急隊員で構成される。
3 この他に、消防防災ヘリの救急出動もある。2014年には、3,456件の出動により、2,718人を搬送している。
4 以前は、救命処置を含めない「スクープ・アンド・ラン(scoop and run)」が行われた。近年、救命処置の実施が浸透した。
(2016年07月28日「基礎研レポート」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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