2016年06月30日

豪ドル投資の魅力とリスク~過去の運用成績と今後のポイント

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2運用成績(累積損益の状況)
さらに、先ほど算出した年間収益率を用いて、複数年にわたる運用成績を試算してみた。図表17は期初(各年初)に100万円を豪ドルに投資、1年固定金利で毎年再投資運用を繰り返した場合の、期末(各年末)の累積資産残高である(詳細な前提は図表下の補足をご参照)。縦軸が投資開始時期、横軸が投資終了時期である。

結果を見ると、全体的に初期投資額である100万円を超えているケース(すなわち、運用収益がプラス)が多くなった。特に2000年代初頭に投資を開始し、近年まで続けた場合には、資産が倍増以上となっている。最高は、2001年初に投資を開始し、14年末に終了した場合で、その資産残高は当初の2.5倍を超える(251.5万円)。また、直近(6月28日)まで続けているとして、最も資産残高が大きくなっているのも2001年初に投資していた場合である(200.3万円)。
 
(図表17)豪ドル運用 累積資産残高の試算/(図表18)ドル運用 累積資産残高の試算
高金利の時代に金利収入の蓄積が進んだうえ、円安豪ドル高がプラスに働いたためだ。

一方、最低の運用成績となったのは、リーマンショックが発生した2008年の年初に投資を開始し、同年末に終了した場合(68.6万円)だが、最近でも13年以降に投資を開始し、直近まで続けていた場合は1割を超えるマイナスになっている。

金利が低下したことで、(1)従来は豪ドルが下落した際のバッファとなっていた金利収入の蓄積が進まなくなった中、(2)資源安・日豪金利差縮小に伴う豪ドル下落が直撃したことが資産の減少を招いた。
 
なお、比較対象として、ドルに投資した場合についても同様に試算したのが、図表18である。全体的に100万円を下回る(つまり、運用収益がマイナス)となったケースが多く、豪ドルのように、資産が倍以上になったケースは存在しない。

ただし、近年投資を始めた場合に限ってみると、豪ドルよりも好成績となっているケースが多い。金利は豪ドルよりも低いものの、FRBが出口戦略を進めるなかで、ドルが豪ドルに比べて底堅く推移したためだ。
 
以上より、過去の豪ドル投資はかなりの確率において報われており、特に資源ブーム前半にあたる2000年代初頭に投資を開始していた場合には、金利高と豪ドル高で大幅な利益が発生した。ただし、近年投資を開始した場合は、金利低下と豪ドル安でかなりの損失が発生しているとみられる。

相対的に高金利通貨であるからといって、必ずしも豪ドルへの投資が報われたわけではない。
 

3―今後、豪ドル投資にどう向き合うか?

3―今後、豪ドル投資にどう向き合うか?

1どのような将来シナリオを描くか?が重要に
最後に、個人投資家として、今後、豪ドル投資にどう向き合うべきかについて考えてみたい。
これからの豪ドル投資がもたらす結果は、豪金利がどうなるか?豪ドル円レートがどうなるか?によって変わる。もともと豪ドル円はボラティリティが高いだけに、結果も大きく左右される。
そして、豪金利と豪ドル円の行方は、主に以下の4つのポイントについて、どのような将来シナリオを描くかに依存する。
(図表19)世界経済と商品価格 2今後の豪ドル円を左右する4つのポイント
(1)資源価格の行方
一つ目のポイントは資源価格の行方だ。既述のとおり、資源国通貨である豪ドルの為替は資源価格との連動性が高い。足下の資源価格は、原油などでの供給力過剰や中国経済減速に伴う需要低迷懸念などから、落ち込んだレベルにある。

資源価格の行方のカギを握るのは、世界経済の動向だ。もともと世界経済の成長率と資源価格の騰落率の間には連動性が存在する(図表19)。世界経済の成長率が加速し、資源需要が増加するとの期待が高まれば資源価格は上昇、逆に世界経済の成長が鈍化し、資源需要が低迷するとの期待が高まれば、資源価格は下落しやすい。

つまり、今後、世界経済の回復期待から資源価格が上昇すれば、豪ドルの上昇圧力に、世界経済の低迷見通しによって資源価格が下落すれば、豪ドルの下落圧力になると考えられる。
(2)豪州の構造転換
そして、二つ目のポイントは豪州経済の構造転換だ。豪州経済はこれまで資源依存型であったが、近年は構造変化の兆しがうかがわれる。

輸出に関しては、従来の財(主に資源)の輸出額が伸び悩む一方でサービスの輸出額増加が顕著になっている(図表20)。具体的には、インバウンド(訪豪旅行客)による消費や留学の受け入れに伴うものだ(図表21)。豪州は近年減速ぎみとはいえ経済成長ペースが速いアジアとの距離が近く、かつ英語圏であるという強みがあり、海外からの旅行者や留学生が近年伸びている。
 
(図表20)豪州の財・サービス輸出額/(図表21)オーストラリアへの短期旅行客数
(図表22)オーストラリアの年間移民数 また、内需にも追い風が吹いている。それは移民の増加だ。豪州への年間移民数は2000年ごろから増加ペースが加速しており、直近では、ほぼ年間20万人に達している(図表22)。これは、豪州の総人口2391万人(2015年10月時点)の1%近い規模であり、日本に当てはめると年間約100万人相当の移民が流入している計算になる。

英国のEU離脱決定の一因として流入する移民への不満が挙げられるように、移民が社会の軋轢に繋がることもあるが、国の成長という点では、労働力(=購買力)の増加を通じてプラスに働きやすい。
 
以上が豪ドルサイドのポイントとなる。今後、資源価格が上昇する、もしくは豪州経済が構造転換によって資源以外のエンジン出力が上がるのであれば、豪州景気は回復し、RBAが利上げに転じることで豪州金利は上昇、さらに金利上昇に伴って豪ドル高圧力がかかることになるだろう。

逆に、資源価格が下落する、さらに構造転換が進まない場合は、豪州景気は減速し、RBAがさらに利下げすることで豪州金利は低下、豪ドルにも下落圧力がかかる可能性が高い。
 
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

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