2016年01月20日

韓国の保険会社の海外進出の現状や今後の課題

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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1――はじめに

少子・高齢化や経済環境の悪化にともない、国内市場が細っていくなかで、韓国の保険会社にとってもグローバル市場での事業展開が重要な課題となっている。今までのグローバル保険市場は、先行者であるプルデンシャルやAIA等の欧米企業が主導しており、後発走者である韓国の保険会社が今後市場占有率を高めるために、解決すべき課題は山積している。本稿では、韓国の保険会社の海外進出の現状や今後の課題について述べたい。
 

2――韓国の保険会社の海外進出の現状

韓国における保険会社の海外進出は、1970年から始まった。初期には事務所を中心に進出し、海外の金融市場や保険産業の情報を収集・提供するのが主な目的であったものの、2000年代中盤以降は積極的に現地法人を設立することにより、海外での保険営業も展開している。損害保険会社の海外法人数は、2008年の9カ所から16カ所に、また同期間における生命保険会社の海外法人数も、9 カ所から11社に増加している。支店や事務所を合わせると、損害保険会社が52カ所、生命保険会社が28カ所で、合計80カ所の営業拠点が設けられている。

表1は、2014年6月時点の韓国の保険会社の海外事務所や支店、そして現地法人の国別現状を示しており、アメリカやイギリスを除けば、ほぼアジア新興国市場をターゲットとして積極的に進出していることがわかる。

会社別1には、サムスン火災が、ヨーロッパ、アメリカ、シンガポール等11カ国に進出し、21カ所の店舗(現地法人や支店、そして事務所)を運営している。2014年上半期の海外部門の当期純利益は1,922万ドルで1年前に比べて1.6%増加した。

現代海上は、アメリカや日本、そして中国等に10カ所の店舗を運営しており、特に中国での営業実績を高めるために努力している。アメリカでは住宅総合保険を販売する等商品企画の現地化に力を入れている。その結果、海外部門の収入保険料は2006年の391億ウォンから2013年には1,760億ウォンに4.5倍も増加した。

東部火災も、2014年に中国の重慶市を基盤とする安誠保険の持分15%を買い取るなど、中国での営業活動を展開しようと準備を整えている。メリッツ火災は、インドネシアにメリッツコリンドを設立し、火災保険や再保険等の営業活動をしている。再保険会社のコリアンリーも、アメリカ、日本、イギリス、シンガポール、ドバイに海外店舗を運営しており、売上に占める海外営業の割合を2012年の22.6%から2050年には80%まで増やすことを目標にしている。

生命保険会社の中では、ハンファ生命(旧・大韓生命)の海外進出が目立つ。ハンファ生命は、ベトナムでの成功をベースに、2012年にはインドネシアの保険会社、Multicor Life Insurance PTの買収を完了した。これは、韓国の生命保険会社が、M&Aを通して海外の保険会社を買収した初めてのケースである。

合計14カ所の海外店舗を運営しているサムスン生命は、2005年に中国の中国航空グループと50対50で合弁会社を設立、中国人を対象とした保険商品販売に参入し、最近は少しずつ利益が出ている(会社別詳細は付表1と付表2を参照すること)。
表1韓国の保険会社の海外進出の現状(2014年6月末基準)
 
1 会社別実績は、韓国の連合ニュース2014年6月22日の記事を一部引用している。

3――海外保険市場における占有率や利益はまだ低い水準

韓国の保険会社の海外保険営業は、中国、インドネシア、ベトナム、タイ等の現地法人を中心に推進されており、2014年6月末の海外店舗の総資産規模は、1年前より13億9,850万ドル増加した44億6千万ドルに達している。しかしながら、韓国の保険会社の海外保険市場における市場占有率は、2013年時点で、ベトナムに進出しているハンファ生命とサムスン火災がそれぞれ2%(9位)や3.75%(5位)を占めているのが最高水準で、それ以外の地域ではまだ注目すべき成果が出ていない状態である(表2)。
 
表2 海外に進出した韓国の保険会社の市場占有率や進出方式等
韓国の金融監督院が、2014年9月に発表した「2014年上半期生命保険会社海外店舗営業実績」や「2014年上半期損害保険会社海外店舗営業実績」を見ると、海外に進出した韓国の保険会社の営業実績は、依然として低迷していることがわかる。韓国の生命保険会社の2014年上半期の海外での営業利益は、サムスン生命が87万ドルの黒字を出しているが、ベトナムやインドネシアで営業活動をしているハンファ生命は915万ドルの赤字が出ており、まだ投資に対する成果が出ていない状況である(表3)。
 
表3 海外に進出した韓国の生命保険会社の損益状況
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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