2015年12月17日

【12月米FOMC】予想通り0.25%の政策金利引き上げを実施。

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:およそ10年ぶりとなる0.25%の政策金利引き上げを実施

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が12月15-16日(現地時間)に開催された。市場の予想通り、FRBは0.25%の政策金利引き上げを決定した。利上げは前回06年を最後におよそ10年ぶりである。

今回の政策金利変更に伴い声明文は大幅に表現が変更された。景気の現状判断では、労働市場の評価が上方修正される一方、物価は下方修正された。一方、政策金利引き上げの理由として、労働市場と物価見通しが利上げ開始の条件を満たしたことに加え、金融政策の効果に時間がかかることが挙げられた。また、ガイダンス部分では漸進的(gradual)な利上げ方針が示された。今回の金融政策は全会一致での決定となった。

FOMC参加者の見通しは、前回(9月時点)から成長率や失業率が上方修正される一方、物価は下方修正された。また、政策金利については17年以降の利上げ幅が下方修正された。
 

2.金融政策の評価:予想通りの結果だが、記者会見での利上げ理由は説得力を欠く

政策金利の引き上げは当研究所の予想通り。また、金融市場も利上げをほぼ織込んでいたため、16日の米国市場では株価が上昇したほか、金利や為替の変動も限定的となっており、金融市場面からは政策変更がスムーズに行われたと評価できる。

一方、利上げ開始の理由については、物価面から説得力に欠くものとなった。これまでFRBは利上げ開始の条件を、労働市場の一層の改善と、物価が政策目標に向けて着実に上昇する合理的な確信が得られるときである、としてきた。今回の会合では、物価について足元の評価や見通しを下方修正しているため、物価面で条件を満たしたとするのは無理があり、イエレン議長の記者会見ではこの点を指摘する質問が多かった。同議長は、物価下振れの理由が原油安などの一時的な要因であるとの従来からの説明を繰り返したが、質疑ではFRBが一時的としている物価下押し期間が長期化していることに対する不満も示された。やはり、今回の利上げの理由としては、FRBが年内利上げ開始に拘っていたことから、その言行を一致させることで市場からの信任低下を回避することが大きかったと考えられる。

当面、物価上昇圧力は抑制されるとみられることから、FRBの利上げペースは緩やかとなろう。当研究所では16年の利上げ幅は、FOMC参加者の4回(1.0%)より少ない3回(0.75%)に留まるとみている。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • 政府機関債、MBSの償還分はMBSへ再投資(変更なし)
  • 米国債の償還分は米国債へ再投資(変更なし)
  • FF金利の正常化が十分に進展するまでこの方針を続けることを見込む(新規追加)
  • 長期債を高水準で保有し続けることで緩和的な金融環境を維持する(変更なし)
 
(フォワードガイダンス、今後の金融政策見通し)
  • 委員会は今年に入って労働市場環境が大幅な改善を示したほか、インフレ率が2%の目標に向けて中期的に上昇していくという合理的な確信を得たと判断した(新規追加)
  • 経済見通しと、金融政策の行動が将来の経済に影響する時間を考慮して、委員会はFF金利の誘導目標レンジを0.25-0.50%に引上げることを決定した(新規追加)
  • 金融政策スタンスは利上げ後も依然として緩和的であるため、更なる労働市場の改善や物価の2%への上昇を下支えする(新規追加)
  • FF金利の目標レンジに対する将来の調整時期や水準の決定に際して、委員会は経済の現状と見通しを雇用の最大化と2%物価目標に照らして判断する(新規追加)
  • これらの判断に際しては、雇用情勢、インフレ圧力、期待インフレ、金融、海外情勢など幅広い情報を勘案する(変更なし)
  • 現状でインフレ率が2%を下回っている状況に照らして、委員会は実績と物価目標に向けた見通しを注意深くモニターする(新規追加)
  • 委員会は、FF金利の緩やかな上昇のみを正当化するような経済状況の進展を予想しており、暫くの間、中長期的に有効となる水準を下回るとみられる(新規追加)
  • しかしながら、実際のFF金利の経路は、今後入手可能なデータに基く経済見通しによる(新規追加)
 
(景気判断)
  • 経済活動は緩やかに拡大した(変更なし)
  • 家計消費と設備投資は、ここ数ヶ月はしっかり拡大した(変更なし)
  • 住宅市場はさらに改善した(変更なし)
  • 純輸出は軟調なまま(変更なし)
  • 雇用者数の増加や失業率の低下をはじめ、最近の広範な労働指標は労働市場の一段の回復を示している(”The pace of job gains slowed”から上方修正)
  • 労働資源の使われていない部分は今年初め以降に目にみえて縮小している(“appreciably”が追加され上方修正)
  • インフレ率は、エネルギー価格や、エネルギー以外の輸入品の価格下落を反映して、2%の長期的な目標を下回り続けている(“2%”を追加して小幅変更)
  • 市場が織り込むインフレ率は低いまま(”moved slightly lower”から”remain low”に小幅変更)
  • 調査に基く長期物価見通しは小幅に低下した(”remained stable”から”edged down”に下方修正)
 
(景気見通し)
  • 委員会は、金融政策スタンスの漸進的な調整により、経済活動の緩やかな拡大が継続し、労働市場の指標が引き続き強くなると、現状で予想している(”with appropriate policy accommodation”から”with gradual adjustments in the stance of monetary policy”に利上げ開始を受けて表現を変更)
  • 国内および海外の状況を踏まえると委員会は経済と労働市場の見通しに対するリスクは均衡していると判断している(評価は変わらないものの、表現を変更)
  • インフレ率は、エネルギーや輸入価格のこれまでの下落といった一時的な要因が解消することや労働市場の更に強くなることによって、中期的には2%に向けて緩やかに上昇すると予測する(評価は変わらないものの、表現を変更)
  • 委員会は、引き続きインフレ動向を注視する(変更なし)
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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