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前向きはどっち? -3つのボラティリティを比較してみる

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子
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「前向きになろう!」という言葉は、人を励ます言葉としてよく使われる。しかし、前向きとはどっち向きか、今向いている方向が本当に前なのかなど、真剣に考え始めると絶対的な答えを導けず困ってしまう。
また、近年よく目にする同義語に、フォワード・ルッキング(forward-looking)という言葉がある。プログレッシブ英和中辞典によると「将来を考えての」、「先見の明のある」、「進歩的な」、「前向きの」とあるが、金融市場やリスク管理の世界では将来の予測を加味した対応が求められる際に、「将来を考えての」の意味で多用される。幸い、時間の流れる方向は決まっているので、この場合はどちらの方向が将来なのか悩む必要は無い。
投資には、資産価格の変動や将来価格の不確実性が付きものである。不確実性を表す尺度として「ボラティリティ」という指標があり、算出方法がいくつかある。中でも、過去の資産価格の変動実績から算出する「ヒストリカル・ボラティリティ(以下、HV)」や、主な価格決定要因が不確実性の程度であるデリバティブ商品の価格から逆算する「インプライド・ボラティリティ(以下、IV)」が有名である。最近では、日中の価格変動実績から算出する「リアライズド・ボラティリティ(以下、RV)」も目にする機会が増えてきた。
こうした数多くのボラティリティのうち、一般的にはIVがフォワード・ルッキングな指標として扱われる。それは、市場参加者の将来予測を加味してデリバティブ商品の価格が形成されているだろうと考えられるからだ。
そこで、TOPIXの3つのボラティリティの推移を見てみよう。RVの上下に激しく動く様子が目に付くが、1月初旬の山の前と後で比較すると、その水準が変わっていることに気付く。これに呼応するように1月初旬以降はHVも上昇している。その一方で、フォワード・ルッキングな指標とされるIVには上昇傾向が見られない。
IVがフォワード・ルッキングな指標ならば、市場参加者が他のボラティリティの上昇は一時的であるといった将来予測を立てていたことになる。IVの算出には満期までの期間が20日~50日程度のデリバティブ商品を用いているため、IVには1ヶ月程度の将来の予測が織り込まれているはずである。RVが1月初旬に大きく上昇した以降2ヶ月以上にわたり高い水準にあることから、少なくとも1月初旬から2初旬までの一ヶ月程度は、IVに織り込まれている市場の将来予測が外れていたということなのだろうか。
近年、資産価格変動の再現を試みる研究者の間では、一度ボラティリティが高まるとその状態が継続する傾向が注目されている。この傾向が真実ならば、IVよりもRVがフォワード・ルッキングな指標だと捉えられなくもない。IVとRVでは、どちらがよりフォワード・ルッキングな指標か判断がつかず悩ましい。さて、資産価格変動の再現を試みにご興味のある方は、「ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート 2013‐3‐28『リスク評価における収益率分布の再現はどれほど重要か』」をお読みいただければ幸いである。
(2013年04月01日「研究員の眼」)

03-3512-1851
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
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