2025年02月06日

インバウンド消費の動向(2024年10-12月期)-2024年の消費額は8.1兆円、訪日客数は3,687万人で過去最高

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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3――訪日外国人旅行消費額~コロナ禍前の2倍、円安効果で消費額が2倍を超える国が多数

訪日外国人旅行消費額は、2023年7-9月期以降はコロナ禍前を上回る勢いで増加傾向が続いており、2024年4-6月期に四半期で初めて2兆円を突破した(図表3)。最新の統計である2024年10-12月期は2兆3,108億円(一次速報)であり、2019年同期の1兆2,128億円と比べて約2倍に増加している(増加率+90.5%)。また、この消費額の増加率(+90.5%)は訪日外客数の増加率(+33.8%)を大きく上回っており、このことから訪日客1人当たりの消費額が増加していることが分かる。

一般客31人当たりの消費額を見ると、2019年10-12月期では17万434円であったが、2023年同期には22万66円(2019年同期比+4万9,632円、増加率+29.1%)、2024年同期には23万7,002円(同+6万6,568円、増加率+30.2%)へと増加傾向にある。なお、2024年10-12月期の訪日客の平均宿泊日数は8.7日で、2019年同期(8.7日)や2023年同期(8.5日)と同様であるため、1人・1泊当たりの消費額が増えていることが分かる。

1人・1泊当たりの消費額を見ると、2019年10-12月期は2万51円であったが、2023年同期には2万5,295円(2019年同期+5,244円、増加率+26.2%)、2024年同期には2万7,241円(同+7,190円、増加率+28.4%)へと増加傾向にあり、現在では2019年同期と比べて約1.4倍に膨らんでいる。
図表3 四半期別訪日外国人旅行消費額の推移
訪日客の消費額が増えている背景には、外客数の増加について述べた通り、円安および他国と比較した際の日本の低いインフレ率の影響が挙げられる。各国通貨の対米ドル為替レートの推移を見ると、2022 年以降、日本円や韓国ウォンなどは通貨安の傾向にあり、特に日本円の下落が顕著である(図表4)。一方、ユーロやオーストラリアドルなどは通貨高の傾向を示している。また、各国の消費者物価指数(CPI)を見ると、総じて上昇傾向にあるものの、2024 年12月時点では日本のCPI上昇率2019 年と比較して約10%にとどまっており(図表5)、20%以上の上昇が見られる欧米と比べ、大きな差が生じている。
図表4 各国通貨の対米ドル為替レートの推移(2019年=100)/図表5 各国の消費者物価指数の推移(2019年=100)
国籍・地域別に見ると、2019年10-12月期の訪日外国人旅行消費額の内訳では、中国(32.1%)が圧倒的に多く、次いで台湾(10.1%)、香港(7.9%)、米国(7.2%)、韓国(4.6%)が続き、東アジア諸国が全体の過半数を占めていた(図表6)。

一方、2023年10-12月期では、首位は台湾(14.1%、2019年同期比+4.1%)で、僅差で中国(13.8%、同▲18.3%pt)が続き、その割合は2019年同期と比較して半分以下に減少している。これらに次いで韓国(12.4%、同+7.8%pt)、米国(11.2%、同+4.0%pt)、香港(8.6%、同+0.7%pt)が続いており、中国の比率の低下により他の上位国の比率が伸びていた。

さらに、最新の2024年10-12月期では、中国(18.9%、同▲13.2%pt)が再び最多となり、次いで台湾(12.9%、同+2.8%pt)、米国(11.6%、同+4.4%pt)、韓国(11.4%、同+6.8%pt)、香港(7.0%、同▲0.9%pt)と続いている。

また、消費額の上位国を中心に、2019年10-12月期に対する2024年同期の増減率を見ると、韓国(+378.1%)は約5倍、米国(+205.2%)は約3倍、台湾(143.0%)や豪州(+132.9%)は1.5倍近くに大幅に増加している。いずれも消費額の増減率が外客数の増減率をはるかに上回っており、各国で訪日客1人当たりの消費が増加していることが分かる。なお、中国からの訪日は回復途上にあるものの、2024年10-12月期の消費額は2019年同期を約1割上回っている(+12.3%)。

なお、各国籍・地域の訪日外客数と消費額の割合の関係を見ると、訪日外客数が多い国籍・地域ほど消費額が多い傾向が見受けられるが、宿泊日数や購買意欲の違いなどが影響しているようだ。宿泊日数に関しては、近隣のアジア諸国と比べて欧米からの旅行客は長い傾向がある。例えば、韓国は2024年10-12月期の訪日外客数は首位(全体の2.5%)であるものの、平均宿泊日数(全目的で4.0日、観光・レジャー目的で3.5日)は全体(同8.7日、同6.7日)と比較して半分程度と短いため、消費額は4位(全体の11.4%)にとどまっている。一方、米国からの訪日外客数は4位(全体の7.7%)であるが、平均宿泊日数(同11.1日、同10.7日)が比較的長いため、消費額の割合(11.6%)がやや高くなる傾向がある。
図表6 国籍・地域別訪日外国人旅行消費額
また、国籍・地域別に1人当たりの旅行支出額を見ると、2019年10-12月期では英国が最多(32万7,227円)で、次いで豪州(28万3,785円)、フランス(25万7.665円)、スペイン(25万2,626円)、と25万円以上が続いていた(図表略)。

一方、2024年7-9月期では首位は同じく英国(40万9,784円、2019年同期+8万2,557円、増減率+25.2%)が最多で、豪州(39万9,809円、同+11万6,024円、同+40.9%)、スペイン(37万6,785円、同+12万4,159円、同+49.1%)、ドイツ(36万8,337円、同+14万799円、同+61.9%)、フランス(35万6,916円、同+9万9,251円、同+38.5%)、米国(35万2,272円、同+15万3,544円、同+77.3%)が35万円を超えており、2019年同期と比較して1.5倍前後大幅に増えている(図表略)。
 
3 訪日外客からクルーズ客の人数(法務省の船舶観光上陸許可数に基づき観光庁推計)を除いたもの

(2025年02月06日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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