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分断を深める半導体産業-日本への影響と企業の生存戦略
総合政策研究部 准主任研究員 鈴木 智也
1――はじめに
そのような半導体を取り巻く環境変化は目まぐるしい。米中双方の規制が国境を越えて影響を及ぼし合う中、企業は各国の手厚い産業政策を見比べながら、サプライチェーンの再構築に動いている。
ただ、産業振興というフォローの風にも、企業の向きを固定する巧妙な仕掛けが潜んでいる。企業からは「国のために事業している訳ではない」「海外の顧客に対する説明が難しくなった」との声も聞えて来る。利益創出を目的とする企業と、自国の優位性確保を目指す国の利益は、必ずしも一致しない。半導体企業の立ち位置は、非常に難しいものとなっている。しかし、国家間の利害を抜きにして、半導体産業を語れなくなっていることも事実である。企業は各国の規制や産業政策に関する情報を集めながら予見可能性を高めていく必要がある。
前回のレポート(基礎研レター「米中・経済安全保障の総点検-規制に挟撃される半導体産業」2021-07-16参照)では、規制面から半導体産業の分断について整理したことから、本稿では、新たな潮流となった産業政策の面から、各国の動向、日本の立ち位置、企業の在り方について考察する。
2――半導体の製造工程と産業構造
このICチップが最終製品として出荷されるまでには、細かく見ると1,000近い工程を経ることになるが、一般的には「設計工程」と「前工程」「後工程」から成る「製造工程」から説明される[図表1]。半導体製造の始まりは、半導体回路を設計する「設計工程」であり、要求される機能を満たす回路を決定し、基板上に回路を転写する原版を製造するまでの作業が行われる。続く「前工程」では、基板上に回路を形成する工程となる。「製造工程」の第一段階であり、半導体原料からシリコンウェハーを切り出し、電子回路を焼き付け(露光・現像)、エッジングやイオン注入により半導体素子を埋め込み、必要な回路を作り込んで行く。最後の「後工程」は、電子回路を保護するためのパッケージ基板部分を取り付ける工程となる。「製造工程」の第二段階であり、「前工程」で作り込まれた基盤を切断して1つ1つのチップに分離し、リードフレームとチップを金線などで接続したのち、チップを衝撃から守る樹脂などに封入し、複数回の品質検査を経ることで最終製品が完成する。
さらに、半導体関連産業には、それら製造企業を支える存在として、電子回路の基本パターンや設計を支援するソフトを提供する「IPベンダー」と呼ばれる企業(アーム、IBMなど)や、半導体を製造するための装置を提供する企業(東京エレクトロン、アドバンテストなど)、多種多様な材料を提供する企業(信越化学工業、SUMCOなど)があり、これらの企業が世界規模で複雑なサプライチェーンを構築している。
1 元素半導体には、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、セレン(Se)などがあり、化合物半導体には、ヒ化ガリウム(GaAs)、炭化ケイ素(SiC)、リン化インジウム(InP)、窒化ガリウム(GaN)などがある。
3――半導体産業における日本の立ち位置
世界の半導体市場は、2000年代前半のITバブル崩壊や2008年のリーマン・ショックを乗り越えながら右肩上がりに成長を続けている。世界の市場拡大をけん引しているのはアジアであり、とりわけ経済発展が顕著な中国の影響は大きい。直近の10年間は、世界的にスマートフォン向けの需要が拡大し、最近ではデータセンターのサーバ用半導体市場も大きく成長している。将来的には、人工知能(AI)や高速通信規格(5G)、電気自動車(EV)向けの需要などが市場の成長を支え、2030年には1兆ドル規模に拡大するとの予想もある3。
2 予想は、世界半導体市場統計(WSTS)の2023年11月28日公表値。
3 予想は、ドイツ電気・電子工業連盟(ZVEI)の2023年2月28日公表値。
4 ルネサスエレクトロニクス(那珂工場)、USJC(三重工場)。2024年末までの稼働を目指す、TSMCの熊本第一工場は12~28nm、2027年末までの稼働を目指す、第二工場は6~12nmの先端半導体を製造する。
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- 【職歴】
2011年 日本生命保険相互会社入社
2017年 日本経済研究センター派遣
2018年 ニッセイ基礎研究所へ
2021年より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
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