2024年04月12日

2024年度の年金増額は6月支給分から-知っておきたい 年金ミニ知識

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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3月末から4月初旬にかけて、「新年度から、こう変わる」という内容の記事などがメディアに登場する。「こう変わる」の1つとして公的年金の支給額も取り上げられることが多いが、新年度からの変更(改定)を反映した年金額となるのは4月支給分からではなく6月支給分からであるため、注意が必要である1。そこで本稿では、年金支給や年金額改定の仕組みを確認する。
 
* 本稿では、わかりやすく説明するために詳細を割愛・単純化している。
1 本稿では扱わないが、在職中で5月分以降の年金が支給停止となる場合などは、4月支給分が変更(改定)された年金額となる。 https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/kyotsu/gakukaitei/20150401-02.html

1 ―― 年金支給の仕組み

1 ―― 年金支給の仕組み:公的年金は後払い。新年度分は6月から支給

公的年金は、原則として偶数月の15日に、前月と前々月の2か月分が支給される。ただし、15日が土日や祝日の場合は、その直前の平日が支給日となる。年金額の改定は新年度の4月分から適用されるため、改定後の年金を受け取るのは6月の支給日からとなる(図表1)。なお、2024年の6月15日は土曜であるため、2024年度分の初回の支給日は6月14日となる。
図表1 公的年金の支給日 (イメージ)
6月中旬(原則15日)の支給に先立って、例年5月末から6月初旬にかけて「年金額改定通知書」と「年金振込通知書」が圧着はがき形式で発送される(「年金振込通知書」と「年金額改定通知書」の両方が発送される場合は、両者が一体となったものが発送される)。年金額改定通知書には、(1)改定された年金額(基本額)、(2)在職などに伴う支給停止額、(3)支給停止額を差し引いた年金額、が年額で記載され、年金振込通知書には、(1)年金支払額、(2)年金支払額から控除される介護保険料や税金など、(3)控除後の振込額、などが支給日ごとの金額(原則2か月分)で記載されている2(図表2)。

2022年度からは当年度(改定後)の金額に加えて前年度(改定前)の金額が印字されるようになり、前年度からの変化(改定)をはっきりと確認できるようになった。
図表2 「年金額改定通知書」と「年金振込通知書」の様式 (2023年度版)
 
2 基礎年金と厚生年金のそれぞれについて、2月以外の支給額では1円未満の端数が切り捨てられ、2月の支給額では2月以外で切り捨てられた端数の合計額(1円未満は切捨て)が加算される。 https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/uketori/tsuchisho/furikomi/kingaku/20140421-04.html

2 ―― 年金額改定の仕組み

2 ―― 年金額改定の仕組み:実質価値の維持が基本だが、少子化や長寿化に対応する調整も加味

公的年金の年金額は、経済状況の変化に対応して実質的な価値を維持するために、毎年度、金額が見直されている。この見直しは改定(またはスライド)と呼ばれ、今年度の年金額が前年度と比べて何%変化するかは改定率(またはスライド率)と呼ばれる。

しかし、現在の制度では、改定率は、本来の仕組みである物価や賃金の伸び率(以下、本来の改定率)から、少子化や長寿化に対応するための調整率(いわゆる「マクロ経済スライド」の調整率)を差し引いたものとなっている(図表3)。現役世代や企業の負担に配慮して保険料(率)の引上げを2017年にやめ、その代わりに給付水準を段階的に引き下げて年金財政を健全化しているためである。
図表3 年金額改定の全体像
本来の改定率は、年齢によって決まり方が異なる(図表4)。67歳以下では常に賃金変動率が使われるが、68歳以上では賃金変動率と物価変動率のいずれか低い方が使われる3。これは、世間の賃金変動を年金額に反映することを基本としつつ、少子化や長寿化の下で年金財政を健全化するために、受給者の年金額については物価や賃金の変化に連動させつつ年金額の伸びを抑えるためである4
図表4 本来の改定率の仕組み
少子化や長寿化に対応するための調整率(マクロ経済スライド)には、現役の加入者の減少率と受給者の余命の延び率が反映される(図表5)。少子化に伴う年金財政の収入減や長寿化に伴う支出増の影響を吸収することで年金財政の健全化が進み、将来世代の給付水準の低下を抑えられる。ただし、本来の改定率がマイナスや小幅のプラスの場合には、受給者の生活や財産権に配慮して調整が制限され、当年度に調整されなかった分が翌年度に繰り越される(図表6)5
図表5 少子化や長寿化に対応するための調整率(マクロ経済スライド)の仕組み
図表6 少子化や長寿化に対応するための調整率(マクロ経済スライド)の特例
 
3 厳密には、「67歳になる年度まで」と「68歳になる年度から」で扱いが異なる。
4 年齢の境界が67歳以下と68歳以上になっているのは、賃金変動率が「前年(暦年)の物価上昇率+2~4年度前の実質賃金変動率の幾何平均」で計算されるという仕組みの下で、標準的な受給開始年齢の直前である64歳までの世間の賃金変動を年金額に反映するためである。また、68歳以上では、年金額の実質価値を維持するために物価変動率を使うことを基本としつつ、賃金変動率が物価変動率を下回る場合には物価上昇率よりも低い賃金変動率が使われる。これは、現役の賃金の伸びが物価の伸びを下回るという状況で、受給者も現役世代の痛みを分かち合うためである。本来の改定率の意義や経緯の詳細は、拙稿「年金額改定の本来の意義は実質的な価値の維持」を参照されたい。
5 少子化や長寿化に対応するための調整率(マクロ経済スライド)の意義などの詳細は、拙稿「将来世代の給付低下を抑えるため少子化や長寿化に合わせて調整」を参照されたい。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

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