2024年03月26日

コロナ後の家計消費-外出型消費は改善傾向だが全体では低迷、マインドはコロナ禍前を上回る

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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(2) 交通~外出行動再開で改善傾向にあるが、バスやタクシーは供給不足で伸びきれず、鉄道需要にも移行?
交通費についても、この4年弱の間、いずれも(「鉄道運賃」、「航空運賃」、「バス代」、「タクシー代」)改善傾向が続いているが、温度差がある(図表4(c)・(d))。

「鉄道運賃」は、足元ではコロナ禍前の水準を上回りはじめており、2023年7月や11月頃など「宿泊料」の盛り上がりの時期とおおむね一致することから、通勤や通学需要だけでなくプライベートの外出需要による影響が大きいようだ。

一方、「バス代」や「タクシー代」は、2024年1月までの時点では未だコロナ禍前の水準を上回った月が存在しないが、これは需要というよりも供給側に課題がありそうだ。コロナ禍での廃業や高齢化によって運転手が持続的に減少する中で、インバウンドが本格的に再開しているため、日本人の外出行動が回復していても供給不足で需要に対応しきれていない可能性がある。とすれば、前述の「鉄道運賃」の支出増はバスやタクシーでの移動需要の一部が移行したものとも考えられる。
(3) アパレル・メイクアップ用品~外出活発化でメイクアップ用品はコロナ禍前の水準へ、アパレルは低調が続く
外出行動に関連する費目として「背広服」や「婦人用洋服」について見ると、対比が2019年同月となるため、同年10月の消費税率引き上げ時の影響で9月に低下し10月に上昇しやすいが(駆け込み需要と反動減)、おおむねコロナ禍前を大幅に下回って低迷しており、5類引き下げによる改善傾向も特段見られないようだ(図表4(e))。この背景には、物価高による消費抑制の影響もあるのだろうが、中長期的に需要が弱まっていることがあげられる。スーツについては、コロナ禍前からオフィス着のカジュアル化(クールビズ、カジュアルフライデーなど)で需要が低迷していた中で、テレワークが進展してオフィスへの出社機会が減少したことで、需要が一層、弱まった可能性がある。また、「婦人用洋服」をはじめとしたアパレル製品が全体的に低迷している背景には、2000年代以降、ファストファッションが台頭し、ネットショッピングやフリマアプリの利用も進展することで、消費者は低価格で流行やデザインを楽しむことのできる商品を購入しやすくなったことがあげられる。

一方、「ファンデーション」や「口紅」はコロナ禍前を下回る月が多いものの、2021年や2022年と比べて2023年では回復基調が強まっている(図表4(f))。また、今年5月以降では、「ファンデーション」や「口紅」においても、「宿泊料」や「鉄道運賃」と同様に2023年7月や11月頃に盛り上がりが見えるため、5類引き下げによる外出行動の活発化で改善傾向が強まっている様子がうかがえる。また、メイクアップ用品はマスク着用が減った影響もあるだろう。
(4) 対面サービス~診療やマッサージは必需性が高いために早期から改善、秋から理美容もコロナ禍前を上回る
「医科診療代」や「マッサージ料金等(診療外)」、「理美容サービス」は、いずれも必需性が高いため、外出行動に関わる費目の中では比較的早期に改善傾向を示してきた(図表4(g))。

2023年の「医科診療代」の増加については、外出行動などが平常に戻ったことなどから、インフルエンザなどの他の感染症も流行し始めたことで、医療機関の受診が増えたことがあげられる。また、「理美容サービス」も2023年秋頃からコロナ禍前の水準を上回って改善傾向を示している。
(5) 外食~5類引き下げ以降は「飲酒代」の改善傾向が強まるが、職場需要減でコロナ禍前を2割前後下回る
外食の「食事代」と「飲酒代」は2022年頃から改善傾向が強まり、特に「飲酒代」は2023年に大きく改善している(図表4(h))。とはいえ、5月以降も「食事代」はコロナ禍前と比べて▲1割前後、「飲酒代」は▲2割前後下回っており、テレワークの進展で就労者の外食機会(昼食や職場の飲み会)が減少したことに加えて、物価高が続く中での消費抑制傾向の影響もあるだろう。

なお、「食事代」と「飲酒代」は各年10月に盛り上がりがあるが、これは先にも述べた通り消費税率引き上げの影響である。食料品は軽減税率制度の適用対象で8%に据え置かれたが、外食は10%に引き上げられたため、相対的に割高な印象となり、反動減が生じた費目である。
2|コロナ禍で増加した支出~コロナ禍をきっかけに出前需要が大幅伸長・定着、デジタル娯楽需要は堅調
(1) 内食・中食~出前は大幅に伸長、巣ごもり生活で増した内食需要は利便性の高い食品や外食需要へ移行
ここからは、コロナ禍で支出額が増えた費目について捉える。

内食(自炊)や中食(総菜や冷凍食品、出前)に関連する費目は、コロナ禍前をおおむね上回っており、特に「出前」(名目値であることに注意)はコロナ禍前の2~3倍の水準で推移している(図表4(i))。この背景には、コロナ禍による巣ごもり生活で需要が増すとともに(外食の代替、テレワーク中のランチ需要など)、出前をはじめた飲食店が増えたことで供給量が増えたこと、世帯構造の変化で中長期的に需要が増していること(共働きや単身世帯など利便性重視志向の高い世帯が増加)があげられる。

「生鮮肉」や「冷凍調理食品」、「パスタ」は、2023年でもおおむねコロナ禍前と同等の水準を維持しているものの、減少傾向を示している。なお、「生鮮肉」や「パスタ」は2020年4・5月をピークに減少傾向が続いているが、「冷凍調理食品」は2020年と比べて2021年や2022年の方が増加幅は大きくなっている。これは、既出レポート6でも述べた通り、巣ごもり生活が続き、家の中での食事回数が増えたために、家の中での日常的な食事については一層、手軽さが求められるようになり、多少の手間を要する「パスタ」よりも、さらに手軽な「冷凍食品」や「出前」へと需要の一部が移行した可能性がある(前述の世帯構造の中長期的変化も後押し)。ただし、2023年に入ってからは「冷凍調理食品」」は減少傾向にあり、外出行動の再開で需要が外食へ移行していることが考えられる。
(2) デジタル娯楽~デジタル化の進展で外出行動再開でも堅調
巣ごもり生活では家の中で楽しむ娯楽需要も増した。「電子書籍」やソフト・アプリ類は、いずれもコロナ禍前の水準を上回って堅調に推移している(図表4(j))。5類引き下げで外出行動は再開しても、デジタル化の進展という土台があるために、需要が弱まる傾向は見えにくい。

「ゲーム機」は、コロナ禍当初の3月は全国一斉休校の影響で、子ども達の需要と見られる盛り上がりがある(図表4(k))。同様に感染が再拡大した夏休み時期などにも盛り上がりがあるが、その後は、新端末の販売時期(2020年11月にSONYのPlayStation5発売)など他の要因による影響が大きいようだ。
(3) テレワーク関連~コロナ禍当初はパソコンや家具の需要増、次の買い替えサイクルまでは需要が見えにくい
コロナ禍でテレワークが進展する中で、家の中での作業環境を整えるために、「パソコン」や「一般家具」の支出額も増加した(図表4(l))。特に、2020年夏頃は国民1人当たり一律10万円の「特別定額給付金」の影響で大きく伸びている。その後は、感染拡大時期と重なる部分もありつつ、増減しながら緩やかに減少傾向を示している。これは、オフィスへの出勤が増えて需要が弱まったというよりも、耐久消費材であるため、一旦、購入すると、次の買い替えサイクルまでは需要が見えにくくいためと考えられる。

4――おわりに

4――おわりに~賃上げや株高などで消費者マインドは上向き、2024年度はコロナ禍前を上回る期待

本稿では、総務省「家計調査」を用いて、二人以上世帯の消費動向について捉えた。その結果、2024年1月までの時点では、個人消費全体としてはコロナ禍前を下回って低迷しているものの、コロナ禍で大幅に減った外出型消費(旅行やレジャー、外食、交通費、メイクアップ用品など)は、いずれも改善傾向を示していた。ただし、2023年5月の5類引き下げ以降で顕著に改善したというよりも、2022年頃から改善傾向が続いているものが多かった(しいて言えば、「飲酒代」は改善傾向が比較的強まった)。一方で、外出型消費は「宿泊料」を除くと、いずれもコロナ禍前の水準を下回っており、テレワークの進展で外出行動が減ったために需要そのものが弱まっている様子(外食や洋服など)や、物価高で可処分所得が増えないために消費を抑制している様子がうかがえた(海外旅行やレジャーなど)。

また、コロナ禍の巣ごもり生活で支出が増えた中食(出前や冷凍調理食品など利便性の高さを求められる食事形態)やデジタル娯楽(電子書籍など)は、前者は世帯構造の変化(共働き世帯や単身世帯の増加)、後者はデジタル化の進展という中長期的な変化の土台があることで、2023年も堅調に推移していた。一方、内食(自炊)に関わる費目(各種食材)は減少傾向を示していた。

以上より、5類引き下げ以降でコロナ禍が明けても堅調な巣ごもり消費がある上、コロナ禍で大幅に減った外出型消費はいずれも改善傾向を示しているものの、物価高による消費抑制やコロナ禍の行動変容による需要の弱まり、供給側の制約などによって、多く需要が戻り切っていないことで、消費全体としては低迷が続いている。

一方で、足元で消費者マインド(半年先の見通しをたずねたもの)は上向いている(図表5)。消費者態度指数は、足元ではコロナ禍で急落する直前を僅かに上回るようになっている(2020年2月38.3、2024年2月39.1で+0.8)。

また、構成指標を見ると、特に2023年から「雇用環境」や「資産価値の増え方」が牽引しており、足元での上昇が目立つ(「雇用環境」:2022年2月39.8、2024年2月44.3で+4.5、「資産価値」:同39.6、同45.2で+5.6)。また、これらほどではないが、「収入の増え方」もマインドを牽引しており、コロナ禍前をやや上回るようになっている(同39.8、同40.8で+1.0)。

冒頭でも触れたが、賃上げの機運は高まっており、現在までの状況を見れば、2024年春闘の賃上げ率は事前の予想を上回る水準となりそうだ。また、2024年度後半には実質賃金がプラスとなり、可処分所得は増える見通しである。さらに、足元では日経平均株価が史上最高値を更新する中で、2024年1月から新NISA制度がはじまり、日本人の金融行動が貯蓄から投資へと動き出すことで株高の恩恵を受ける層も広がりそうだ。また、昨年から政府は「こども未来戦略」案にて、児童手当の所得制限撤廃や支給対象の拡大(18歳まで)、子ども3人以上の世帯に対しては第3子以降を3万円へ増額、大学授業料等の無償化といった方針も示している。

現在、消費者では様々な期待は高まっているものの、現実的には未だ可処分所得が増えていないため、消費額としては低迷が続いている。使えるお金が増えないのであれば支出を抑制することは、消費者行動としては自然なことだ。一方で、賃上げや家計支援策などによって様々な方面から使えるお金が増えれば、現状の消費者マインドから見ても、新年度は消費が動き出し、いよいよコロナ禍前の水準を超える期待は大きい。
図表5 消費者態度指数と各消費者意識指標の推移(二人以上の世帯、季節調整値)
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2024年03月26日「基礎研レポート」)

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