コラム
2018年08月28日

定年後「10万時間」の使い方-地域社会への「再就職」を考えよう!

土堤内 昭雄

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総務省『平成28年社会生活基本調査』から65歳以上の高齢者の生活時間をみると、1次活動(睡眠、食事など)が11時間38分、2次活動(仕事、家事関連など)が4時間00分、自由に使える時間となる3次活動(休養、娯楽、交際など)が8時間22分だ。人生100年時代が到来すれば、高齢期の自由時間は10万時間以上に達することになる。長寿社会の「老後」はもはや「余生」ではないのだ。

厚生労働省の平成28年簡易生命表によると、65歳の平均余命は、男性19.55年、女性24.38年だ。おおよそ男性は85歳まで、女性は90歳まで生きられる勘定になる。65歳以上男性の3次活動時間は9時間11分。65歳で定年を迎えると定年後の20年間に6.7万時間の自由時間を有するわけだ。

一方、日本の2015年の一人当たり年間総実労働時間は1,719時間だ。20歳から65歳まで45年間働いた場合の生涯実労働時間は7.7万時間になる。それと比べても男性の定年後の自由時間がいかに多いかがわかる。長い「老後」を幸せに生きるために必要なことは何だろうか。

東京などの大都市圏では職住分離が進み、勤労者は郊外の自宅から都心の職場に通うケースが多い。現役時代は居住地で過ごす時間は短く、地域コミュニティを持たない人もいる。定年退職後は地域での生活時間が長くなり、地域の居場所を見つけることが重要だ。しかし、新たな地域社会の人間関係や意思決定などの行動様式は、ヒエラルキー型の企業社会とはさまざまな点で異なるものだ。

また、地域社会は女性がマジョリティで、男性は企業社会ではあまり経験したことのない少数派だ。年齢別性比(男性対女性)をみても、65歳以上では3対4、75歳以上では2対3、100歳以上になれば1対6になるなど、高齢社会は女性が多数派だ。定年男性が新たな社会環境の中で居場所を見つけ、地域社会で生き生きと暮らすためには、男女の性別を超えて適切に会話できるスキルが求められる。

定年後の趣味も大事だが、それだけでは長い老後を生きぬくことはできない。自らの能力を活かし、社会に貢献することが「生きがい」を創出する。他者から必要とされることが、地域の居場所をつくり、自己アイデンティティの形成につながる。過去の成功体験に引きずられることなく、職業生活で蓄積してきた能力やノウハウを活かした地域社会への「再就職」が必要だ。

だれもが会社に入るときには熱心に就活するが、生涯労働時間にも匹敵する定年後の地域社会への就活には無関心な人が多い。人生100年時代が近づく今、定年後の「10万時間」を活かすための新たな地域社会への「再就職」は、きわめて重要なライフイベントと言っても過言ではないだろう。
 
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土堤内 昭雄

研究・専門分野

(2018年08月28日「研究員の眼」)

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