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2018年05月18日
金融政策が仮定する「2020年末までの移行期間」にはアイルランド国境問題の合意が必要
BOEの金融政策は、英国のEU離脱について、「最も可能性の高いシナリオに基づいて運営(カーニー総裁)」している。19年3月29日の離脱後については、今年3月のEU首脳会議での合意通り、20年末まで現状を維持する「移行期間」となる円滑な離脱を仮定している。業務の移管に伴うヒトの流出が、19年3月にかけて加速するような事態は想定されていない訳だ。
しかし、「移行期間」の確保には、まだ解決しなければならない問題が残されている。アイルランドと北アイルランドとの国境管理の問題だ。2019年3月の円滑な離脱には、英国とEUが「離脱協定」と「将来の関係に関する政治宣言」について、今年10月に合意する必要がある。「離脱協定」は2017年12月の大枠合意を基に、欧州委員会が草案を作成している。3月19日に欧州委員会が公開した129ページの離脱協定草案は、「合意済みの条文」、「政策目的では合意済みだが変更などの可能性がある条文」が色分けされており、白色のままの「合意に達していない条文」がひと目でわかるようになっている。離脱協議にあたり優先事項とされた「市民の権利」と「清算金」の条文は合意済みで固まっているが、アイルランドと北アイルランドに関する付属議定書は、両国間の自由な移動を認める「共通旅行区域(CTA)」の継続では合意済みで、「厳格な国境管理回避」の方針でも一致する。しかし、メイ政権が望む「関税同盟」の離脱とどう両立するのかという点が残されている。EUは、離脱協定草案に、「EUと北アイルランドを共通規制区域とし、北アイルランドがEUの関税同盟に残る」という提案を盛り込んでいるが、英国を分断する提案としてメイ政権に閣外協力する民主統一党(DUP)は強く反発している。他方、EU側は、メイ首相が、3月2日のメゾンハウスでの演説で最新のITを活用する「高度に合理化された関税手続き」、「新たな関税パートナーシップ」による解決策には懐疑的だ。EU側が国境管理の問題での合意期限と位置づける6月28~29日を前に、閣内・保守党内では、改めて経済的な悪影響の少ない穏健な離脱を望む穏健離脱派と主権の奪還を維持する強硬離脱派の対立が鮮明になっており、アイルランドの国境管理問題が障害となり「離脱協定」がまとまらず、「移行期間」も確保できないリスクが高まっているように見える。
しかし、昨年6月に始まった英国とEUの協議の推移を振り返ると、期限ぎりぎりの段階になって、最終的には英国側が譲歩して、前進するという展開が繰り返されてきた。英国にとって極めて重要な「移行期間」の確保のために、今回も最終的には何らかの譲歩をするのだろう。16日には、デーリーテレグラフ紙が、政府が移行期間終了後の2021年以降も「関税同盟」に残留する提案をすると報じた。非公式首脳会議のためにブルガリアを訪れていたメイ首相は、この報道を否定し、「関税同盟離脱」の方針を改めて表明した。しかしながら、英国が主張する「高度に合理化された関税手続き」あるいは「新たな関税パートナーシップ」による管理が可能になるまでの暫定措置として、「関税同盟」に残留するという譲歩はあり得るのではないだろうか。
しかし、「移行期間」の確保には、まだ解決しなければならない問題が残されている。アイルランドと北アイルランドとの国境管理の問題だ。2019年3月の円滑な離脱には、英国とEUが「離脱協定」と「将来の関係に関する政治宣言」について、今年10月に合意する必要がある。「離脱協定」は2017年12月の大枠合意を基に、欧州委員会が草案を作成している。3月19日に欧州委員会が公開した129ページの離脱協定草案は、「合意済みの条文」、「政策目的では合意済みだが変更などの可能性がある条文」が色分けされており、白色のままの「合意に達していない条文」がひと目でわかるようになっている。離脱協議にあたり優先事項とされた「市民の権利」と「清算金」の条文は合意済みで固まっているが、アイルランドと北アイルランドに関する付属議定書は、両国間の自由な移動を認める「共通旅行区域(CTA)」の継続では合意済みで、「厳格な国境管理回避」の方針でも一致する。しかし、メイ政権が望む「関税同盟」の離脱とどう両立するのかという点が残されている。EUは、離脱協定草案に、「EUと北アイルランドを共通規制区域とし、北アイルランドがEUの関税同盟に残る」という提案を盛り込んでいるが、英国を分断する提案としてメイ政権に閣外協力する民主統一党(DUP)は強く反発している。他方、EU側は、メイ首相が、3月2日のメゾンハウスでの演説で最新のITを活用する「高度に合理化された関税手続き」、「新たな関税パートナーシップ」による解決策には懐疑的だ。EU側が国境管理の問題での合意期限と位置づける6月28~29日を前に、閣内・保守党内では、改めて経済的な悪影響の少ない穏健な離脱を望む穏健離脱派と主権の奪還を維持する強硬離脱派の対立が鮮明になっており、アイルランドの国境管理問題が障害となり「離脱協定」がまとまらず、「移行期間」も確保できないリスクが高まっているように見える。
しかし、昨年6月に始まった英国とEUの協議の推移を振り返ると、期限ぎりぎりの段階になって、最終的には英国側が譲歩して、前進するという展開が繰り返されてきた。英国にとって極めて重要な「移行期間」の確保のために、今回も最終的には何らかの譲歩をするのだろう。16日には、デーリーテレグラフ紙が、政府が移行期間終了後の2021年以降も「関税同盟」に残留する提案をすると報じた。非公式首脳会議のためにブルガリアを訪れていたメイ首相は、この報道を否定し、「関税同盟離脱」の方針を改めて表明した。しかしながら、英国が主張する「高度に合理化された関税手続き」あるいは「新たな関税パートナーシップ」による管理が可能になるまでの暫定措置として、「関税同盟」に残留するという譲歩はあり得るのではないだろうか。
6月首脳会議で移行期間が確実になることも年内利上げの条件
「移行期間」が確保できるかどうかは、BOEの「インフレ報告」の予測期間(3年間)の見通しを大きく変える可能性がある。5月の利上げ見送りで、6月首脳会議で「移行期間」が確実に確保できるかどうかを見極めることもできるようになった。「移行期間」が確保できれば、2020年以降に環境が大きく変わる可能性が出てくることから、早めに利上げに動いて、将来の景気減速局面での対応余地を確保するという判断に傾きやすくなる。
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経歴
- ・ 1987年 日本興業銀行入行
・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
・ 2023年7月から現職
・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
・ 2017年度~ 日本EU学会理事
・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
「欧州政策パネル」メンバー
・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員
(2018年05月18日「Weekly エコノミスト・レター」)
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