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近所の大病院の初診料って、いくらかかるの?
保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき
「ごく当たり前」と思われるかもしれませんが、普段、中国など海外の医療保険制度をウォッチしている筆者にとって、日本ほどユーザーフレンドリーな医療保険制度をもつ国はないと思います。でも、ユーザーフレンドリーであればあるほど、制度の維持にはコストがかかります。
1―「フリーアクセス」であるがゆえの弊害
実は、病床が200床以上の病院では、それまでも初・再診において定額の料金を徴収することができました2。この定額負担の目的は、病院と地域の医院や診療所の役割分担をはかることにあります。日本の医療保険制度は、「フリーアクセス」の浸透とともに、更に良い医療サービス、環境が求められるようになり、軽度な症状や症状が比較的安定している慢性病などでも、高度な医療技術や設備が整った大病院に患者が集中するようになりました。これによって、医師の仕事量や病院の業務にも大きな負担がかかる状況が醸成されてしまいました。
1 義務化の対象は400床以上であり、400床未満については義務化されていません。
2―2016年度から、紹介状なしに大病院を受診した場合、定額負担として最低5,000円(税抜)が別途かかることになりました。
定額負担の対象となる大病院には2種類あります。
1つ目は、「特定機能病院」と呼ばれる病院で、高度の医療の提供・医療技術の開発・研修を実施する能力などを備えた病院となっています3。2017年6月1日時点で、日本では85の病院が指定されており、多くが大学病院の本院となっています4。
2つ目は、一般病床400床以上の「地域医療支援病院」に分類される病院です。制度導入当初は500床以上を対象としていましたが、2018年の診療報酬改定で対象が拡大し、400床以上となりました。地域医療支援病院とは、地域医療を担うかかりつけ医を支援する能力を備え、地域医療を支えるに相応しい設備などをもつ病院のことです。2018年11月末時点で571病院が指定されています5。
患者による定額負担は、最低金額として、初診については5,000円(歯科は3,000円)、再診については2,500円(歯科は1,500円)となっています6。
ただし、定額負担を求めない例として以下の内容も決められています。例えば、救急の患者、公費負担医療の対象患者、無料低額診療事業の対象患者、HIV感染者などです。また、その他、定額負担を求めなくても良い場合として、自施設の他の診療科を受診中の患者、医科と歯科の間で院内紹介した患者、特定健診・がん検診などの結果により精密検査の指示があった患者が挙げられています。
なお、紹介状について、少し詳しく説明をしますと、紹介状の正式な名称は診療情報提供書と言います。患者の病歴やこれまでの治療、病状など、医療機関が患者情報を共有し、紹介先の医師が診察をするために必要な情報を記載した文書です。地域の中小病院や診療所が発行し、費用全体は2,500円ですが、3割負担の場合の自己負担費用は750円となります。病院によっては紹介状以外に検査や診断の結果やデータが必要となる場合もあります。
3 厚生労働省「特定機能病院について」
4 特定機能病院の85病院中、大学病院の本院は78病院となっています。
5 厚生労働省「医療施設動態調査」(平成30年11月末概数)
6 具体的な定額負担の金額については、各病院が任意で決定することになっています。
3―制度の浸透や効果がでるには一定程度の時間が必要
少し前の調査になりますが、中央社会保険医療協議会 診療報酬改定結果検証部会による実施状況の調査報告によると、導入後半年が経過した2016年10月時点では、500床以上の病院において、紹介状なしの患者の比率は前年より2.9ポイント減少し、39.7%となりました7。義務化となってそれほど時間が経っていないこともあるかと思いますが、効果は小さく、初診患者のうち、およそ4割が紹介状なしの状態で受診していることが分かります(図表1)。紹介状なしの患者のうち、定額負担の対象となる患者はおよそ34.1%と3割程度に留まっています。つまり、大部分を占める残りの65.9%は定額負担の対象外の患者になっています。
医療サービスのユーザー(患者)側としては、そもそも住んでいる地域に病院が少ない、細かい条件など制度が分かりにくいといった問題や、病院側としては患者の減少の懸念など経営上の課題、周知や理解への人的・時間的コストなど様々な課題があるかもしれません。
いずれにしても、全ての国民が医療サービスのユーザーでもある以上、現在の医療保険制度を将来にわたって維持していくにはどうするべきか、受ける利益のみならず、自身の負担についても再考する必要があるではないでしょうか。
7 中央社会保険医療協議会 診療報酬改定結果検証部会、平成28年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査「かかりつけ医・かかりつけ歯科医に関する評価等の影響及び紹介状なしの大病院受診時の定額負担の導入の実施状況調査」 、2017年5月。なお、調査時は500床以上が定額負担の対象となっていたため、調査は500床以上と200~500床未満、200床以上の全病院など設問に応じて分類されています。
03-3512-1784
- 【職歴】
2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
(2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
(2019年度・2020年度・2023年度)
・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
・千葉大学客員准教授(2023年度~) 【加入団体等】
日本保険学会、社会政策学会、他
博士(学術)
(2019年02月18日「基礎研レター」)
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