2017年11月28日

EIOPAの行動計画(2018)-つまり今の欧州の保険・年金分野における関心事

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――はじめに

9月28日に、欧州保険年金監督当局(EIOPA)が、今後の行動計画書1EIOPA Single Programming Document 2017-2019(AWP2018) を公表したので、その中身を紹介する。

EIOPAは欧州における保険・年金分野における金融システムの安定性や、市場および金融商品の透明性、消費者保護などについて、各国監督の支援あるいは統一を行う機関である。その行動計画をみれば、目下、保険・年金分野が直面している課題がよくわかるだろう。
 
1 European Insurance and Occupational Pensions Authority Single Programming Document 2017-2019(AWP2018)
https://eiopa.europa.eu/Publications/Administrative/EIOPA%20SPD%202017-2019%20including%20AWP%202018.pdf
 

2――行動計画書の構成

2――行動計画書の構成

まずは、欧州の保険・年金分野を取り巻く状況等の認識が示される。

保険分野においては、2015年頃から規制を作ること自体から、それを活用して実際に監督を行うことに重点が移ってきている、と述べている。これは2016年からようやくソルベンシーIIが発効して、枠組み作りにおいては、ひとつの区切りがついたことを指しているようだ。

また、現在、保険監督者国際機構(IAIS)において国際資本基準が検討され、段階的に実施されてきていることを受けて、欧州の独自規制との関連や影響に留意しているところである。

一方、年金分野のほうでは、多くの国が、公的年金制度を補完するための私的な年金として、企業年金または個人年金も奨励する方向にある。そうした制度の透明性や健全性などが、信頼あるものになるような規制作りを行うことに目が向けられつつある。

さらに、保険・年金制度をとりまく外側の環境としては、低金利の継続によって、充分な運用収益を見込めない状況では、保険会社や年金基金は、より高い利回りを追及する資産運用に踏み出さざるをえなくなってきた。経済界からみても、保険会社や年金基金の積極的な資産運用に期待する面もあるようだ。そうしたことが、財務健全性にどう影響するか、何らかの対応が必要かを検討する必要がある、としている。

こうした認識の中で作成された行動計画書ではあるが、まず文書名からも想像できるように、計画書は3年ごとに作成されている。2017年から2019年までの3か年計画は、2017年1月に発表されており、中央の2018年の具体的な年次方針が、今般公表されたということになる。

まずは3年計画の中で掲げられた行動計画の大項目は、次のような点である。
 
1.消費者保護の強化
2.年金・保険分野におけるEU内市場の機能改善
3.保険年金セクターの財務安定性の強化
4.EIOPAが責任感ある有能で専門的な組織であり続けること
 
これに加えて、今回2018年に関しては、
 Insurtech対策
というテーマが追加された。

それぞれについて、2018年の行動計画の少し具体的な内容をみてみると、以下のようになっている。
1消費者保護の強化
消費者保護のための適切な規制の枠組みの策定と強化ということで、具体的な取り組みとしては、パッケージ型のリテール投資商品、あるいは保険型投資商品に対する規制の開発の一つとして、EUにおいて統一されたルールブックの策定に向け、ガイダンスを行うこととしている。

また、現在検討されている汎欧州個人年金商品(PEPP)の開発と規制にも力をいれるとしている。こうした投資型の新商品に関しては、資産運用面における技術革新の成果を取り入れつつ、消費者保護を強化するという、難しいバランスをとる必要があるとしている。つまり、技術的な部分がブラックボックス化しがちな状況下で、商品の透明性や消費者への説明を確保するという難題があるということだろう。

2年金・保険分野におけるEU内市場の機能改善
適切な規制を構築すること、その中で整合的で質の高い監督を実施すること、その基礎となる監督への報告とデータ収集の各国共通なルールを構築し継続すること、などが内容である。

さらに具体的に挙げられているのは、ソルベンシーIIにおける、SCR(ソルベンシー資本要件)の見直しや、LTG(長期保証措置)の有効性の検証である。

また、国際的な資本規制の進展との関係で、2019年発効予定のICS(国際資本基準)をさらに進化させるためのEUの意見表明、UFR(将来収支の評価に用いる終局的な金利)を含むリスクフリーレートの研究が挙げられている。

EIOPAとしては、ソルベンシーIIの仕様をなるべくそのまま国際的な資本基準に採用されることが、理論・実務の両面から理想なのだろうが、そうでなくても整合性あるものになるよう働きかけていくとういうことになるのだろう。

また、保険分野では、既にソルベンシーIIが動き始めたので、今度は年金基金の健全性規制の枠組みや具体的手法の開発のほうに関心が向いている、と当然予想されるが、そうした検討事項はここで挙げられている。同時に、その基礎となるような年金基金の財務データの収集も進めることが記載されている。
 
3保険・年金セクターの財務安定性の強化
前項と似ている項目ではあるが、前項が比較的技術的な研究を進めることを中心に記載されていたことに比べると、実際の実施事項を取上げているように見える。

まずは、2018年も、長引く低金利の影響を評価し、監督上の措置が必要かどうか判断するために、ストレステストを実施することにしている。

また、ソルベンシーIIにおいて蓄積されつつあるデータの有用性を、ストレステストとあわせてどう開示していくかなどにつき、方法を検討し改善していくことが示されている。

情報開示については、それだけでなく全般的に引き続き改善にむけた検討がなされる予定であり、その他に年金市場の安定性の監督、危機管理の検討などのテーマが挙げられている。
 
4EIOPAが責任感ある有能で専門的な組織であり続けること
これは、どこの組織でもそうかもしれない。ここでは、効率的で信頼できるプロセスにより業務を実施すること、法律・監督・技術的な専門性を強化すること、EIOPAが消費者保護や財務安定といった観点で、有効な業務を行っていることを示すこと、また前項までにも挙げられているように、関連情報の収集・共有なども多いことから、セキュリティの強化も挙げられている。
 
5Insurtech関係
そして最後に、今回追加されたInsurtech関係であるが、重要かつ緊急の課題であるからこそ、途中で追加されたのだろうが、今のところ具体的な記載はないし、他の項目では具体的に見積もられている費用見積もりも明示されていない(あるいはまだできない?)。今すぐにでも取り組みを強化するという意思表明といったところであろうか。

具体的な分野としては、保険の引受け・審査、保険料率の設定、マーケティング・販売、支払請求の管理、(というとほとんどの分野?あるいは資産運用分野がない?)において、いわゆるビッグデータの活用の調査・研究を始めるといったところが示されている。
 

3――おわりに

3――おわりに

EIOPAの行動計画書は,前述の通りこれまでも3年毎に作成されている。過去の計画にもざっと目を通した限りでは、消費者保護と財務安定性の確保という柱部分は、当然のことながら、常に掲げられている。今後はInsurtech関係が、さらに具体的なかたちで、常に入ってくることになると思われる。

筆者としては、これまでたびたび紹介している年金基金の健全性規制を中心に、引き続きみていくとともに、その他についても動きがあれば、報告する機会を頂きたいと考えている。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2017年11月28日「保険・年金フォーカス」)

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