2017年08月22日

契約年齢の計算方法-保険年齢方式と満年齢方式

小林 雅史

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1――はじめに

契約年齢とは、生命保険に加入する際の被保険者の年齢を指す。

契約年齢の計算方法は、かつては、契約日現在の満年齢で計算した上で、1年未満の端数については、6か月以下のものは切り捨て、6か月を超えるものは切り上げて計算する方式(保険年齢方式)が主流であった。

すなわち、29歳7か月の被保険者は、保険加入時には30歳として取り扱われる(申込書や保険証券にも契約年齢30歳と明記される)こととなり、顧客にとって理解しにくい面もある制度であった。

これに対し、端数についての「6捨7入」を行なわず、契約日現在の満年齢で計算する方式を「満年齢方式」といい、従来、いわゆる内国生保会社が保険年齢方式を採用していたのに対し、生保業界に新たに進出した外資系生保会社、損保系生保会社などは満年齢方式を採用していた。

近年、保険年齢方式を採用していた内国生保会社についても、顧客のわかりやすさ、保険制度への理解向上の観点から、保険年齢方式を改め、満年齢方式を採用する会社がでてきている。

本稿では、こうした契約年齢の計算方式の経緯や現状について紹介したい。
 

2――約款上の規定

2――約款上の規定

生命保険の約款には、生命保険に加入する際の被保険者の年齢を定義する条項がある。

条文の名称は「契約年齢の計算」、または単に「年齢の計算」となっており、保険年齢方式の約款はたとえばつぎのとおりとなっている。

「第37条(年齢の計算)
1.被保険者の契約年齢は、契約日現在の満年齢で計算し、1年未満の端数については、6か月以下のものは切り捨て、6か月をこえるものは1年とします。
2.保険契約締結後の被保険者の年齢は、第1項の契約年齢に、年単位の契約応当日ごとに1歳を加えて計算します」1

これに対し、満年齢方式の約款は、

「第24条(契約年齢の計算)
1 契約日における被保険者の年齢(以下、「契約年齢」といいます。)は、満年齢で計算し、1年未満の端数は切り捨てます。
2 保険契約締結後の被保険者の年齢は、契約年齢に契約応当日ごとに1歳を加えて計算します」2

と規定している。
 
1 「5年ごと配当付終身保険普通保険約款」、A生命ホームページ。
2 「契約基本約款」、B生命ホームページ。
 

3――約款規定の経緯

3――約款規定の経緯

生命保険の約款に、生命保険に加入する際の被保険者の年齢を定義する条項が置かれたのは、1927年8月に作成された生命保険会社協会(現生命保険協会)「模範普通保険約款草案」からである。

1899 年6月新商法が、1900 年7月旧保険業法が施行された。

新商法では生命保険契約に関する基本的事項が、旧保険業法では生命保険契約についての顧客との約定である普通保険約款に記載すべき事項が法定され、また、保険業法施行規則では保険証券に普通保険約款の全文記載または添付が要請されたことを受け、生命保険会社協会の前身である生命保険会社談話会により、1900 年10月、普通保険約款の基準となるべき「模範普通保険約款」が制定された。

1911年10月、商法改正を受け、生命保険会社協会は模範普通保険約款を改正、さらに 1927年8月に模範普通保険約款草案が作成されたものである3

1900 年制定版や1911 年改正版の模範普通保険約款には、被保険者の年齢に誤りがあった場合の処理方法については規定があったが、年齢の計算方法については規定がなく、1927年の模範普通保険約款草案でつぎのとおり新設された条項である。

「第22条 被保険者の年齢は満年を以て計算し1年未満の端数あるときは6箇月以下を切捨て6箇月を越ゆるものは之を1年とす」

この条項については、

「被保険者の年齢計算法に関しては旧約款(筆者注:1911 年改正版の模範普通保険約款)に相当条項なし。改正草案は保険界の慣行を其儘採用して一規程を挿入したり」4

と説明されており、保険年齢方式は昭和初期にはすでに保険業界の慣行であり、この慣行を約款上明記したことがわかる。

被保険者の年齢計算方法については、模範普通保険約款草案起草者の一人から、「端数切捨法」(満年齢で計算し、端数を切り捨てる方式。現在の満年齢方式)、「端数切上法」(満年齢で計算し、端数を切り上げる方式。当時の英国保険会社が採用)、「最近誕生日法」(満年齢で計算し、端数は近接した年齢に切り捨てまたは切り上げる方式。現在の保険年齢方式)の3種類があり、模範普通保険約款草案は最近誕生日法を採用したと指摘されている5

なお、1936年4月時点の生保会社28社の約款のうち、模範普通保険約款草案に規定する年齢の計算方法に関する条項があるのは23社で、すべて保険年齢方式を採用している(簡易保険も同様に保険年齢方式を採用:当時の簡易生命保険令第5条)6
 
3 小著「約款の平明化について」『ニッセイ基礎研所報』Vol.57、2010年9月。
4 生命保険協会『昭和生命保険資料第1巻 初期(1)』721~731ページ、1970年12月。
5 磯野正登『生命保険約款釈義』216~217ページ、保険経済社、1936年8月。
6 生命保険会社協会『昭和11年9月 生命保険約款集 附簡易生命保険法令』408~414ページ、734~735ページ、1936年9月。
 

4――現在の保険年齢方式、満年齢方式の採用状況

4――現在の保険年齢方式、満年齢方式の採用状況

1973年11月、戦後始めての海外生保会社の進出として、アリコ・ジャパン(現メットライフ生命)が日本初の本格的な無配当保険を発売し、次いで1974年11月、アメリカン・ファミリーが日本初のがん保険を発売したが、これらの外資系生保会社は満年齢方式を採用した。

また、1996年4月の新保険業法の施行により、生保会社、損保会社に子会社方式による相互参入が認められたが、新たに進出した損保系生保会社も満年齢方式を採用した。

近年、保険制度のわかりやすさ向上のひとつの方策として、従来、保険年齢方式を採用していた内国生保会社についても、満年齢方式を採用する例が多い。

ただ、満年齢方式への変更は、変更以降の新契約に適用され、変更前の既契約には適用されないことから、保険年齢方式による保険契約と、満年齢方式による保険契約が混在することとなる(変更前の既契約の更新についても、保険年齢方式が適用される)。

また、満年齢方式への変更を主力商品などに限定し、一部の商品については保険年齢方式を引き続き適用する例もある。

2017年4月1日現在、生保商品を販売中の40社のうち、満年齢方式を採用(主力商品などに限定して導入したケースも含む)している生保会社は37社、保険年齢方式を採用している会社は3社となっている。

しかしながら、団体保険については、ほとんどの生保会社において保険年齢方式を採用している模様である。
 

5――おわりに(私見)

5――おわりに(私見)

1950年1月1日に施行された「年齢のとなえ方に関する法律」以前は、年齢の数え方は誕生時点を1歳とし、以降毎年1月1日に1歳を加えるいわゆる「数え年」が一般的であった。

数え年のもとでは、12月生まれの人は、誕生後1か月たたないうちに1月1日を迎えて2歳となるが、その年中は、保険年齢方式では0歳または1歳とされる。1月生まれの人は、同様にその年の12月31日まで数え年1歳、保険年齢方式では0歳または1歳とされる。

すなわち、数え年より、保険年齢方式で計算した年齢の方が必ず若くなる。

ところが年齢のとなえ方に関する法律の定着後、数え年の習慣は廃れ、満年齢が一般的となった(なお、厄年などには現在でも数え年が用いられている)。

保険年齢方式は、元来、保険加入時の被保険者の年齢について、できるだけ近接した年齢に設定しようとする意図を有していたが、満年齢が普遍化する中で、顧客の理解が得られにくい制度となった。

一方、保険契約の契約日は、月払いで保険料が銀行口座で振り替えられるケースなど、ほとんどの場合責任開始日(従来は告知と保険料払い込みのいずれか遅い時。近年は申込みと告知のいずれか遅い時とする保険会社も多い)の翌月1日となる。

したがって、満年齢方式においても、申込み以降、当月内に誕生日を迎える場合、満年齢は29歳11か月でも、契約年齢は30歳となる。

大雑把にいうと、保険年齢方式においては約半分の人(満○歳6か月から11か月の人)が満年齢より1歳多い契約年齢とされ、満年齢方式においても約12分の1の人(誕生月の申込みの人)が満年齢より1歳多い契約年齢とされる。

また、前述の通り、団体保険については、ほとんどの生保会社において保険年齢方式を採用している状況にある。これは、団体保険には共同取扱契約(同一の保険契約者に対し、2以上の生保会社がそれぞれ保険契約を引き受け、うち1社が幹事会社となり、保険関係事務を非幹事会社から受託する方式)が多いことなどに起因しているものと考えられる。

今後も、生保会社にとって、一歩一歩顧客のさらなるわかりやすさを実現していくことが重要であろう。
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(2017年08月22日「保険・年金フォーカス」)

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