2017年08月09日

貸出・マネタリー統計(17年7月)~リスク性資産投資に底入れの兆し

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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3.マネタリーベース: 増加ペースの鈍化が続く

8月2日に発表された7月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通するお金)を示すマネタリーベースの前年比伸び率は15.6%と、前月(同17.0%)から低下した。内訳の日銀当座預金の伸び率が前年比19.3%と前月(21.3%)から低下したことが要因である(図表7・8)。
(図表7) マネタリーベース伸び率(平残)/(図表8) 日銀当座預金残高(平残)と伸び率
マネタリーベースの伸び率は長期にわたって緩やかな低下が継続している。分母にあたる前年の残高が増加していることが伸び率を押し下げている面もあるが、最近はマネタリーベースの拡大ペース自体が、従来よりも明らかに鈍化していることも影響している。
(図表9)マネタリーベース残高と前月比の推移 7月末のマネタリーベース残高は468.3兆円と過去最高を更新したとはいえ、前月比でわずか0.3兆円の増加に留まった。7月は季節柄、国債の償還が少ないことから日銀当座預金が増加しにくい事情があるものの、季節性を除外した季節調整済み系列で見でも前月比1.6兆円増に留まる(図表9)。前月比でマイナスとなった6月からは持ち直したものの、5月以前と比べると大きくペースダウンしている。

また、同じく季節性が除外されたマネタリーベース(末残)の前年比増加額を見ると、ピークである2015年9月には86兆円に達していたほか、昨年前半までは概ね80兆円で推移していたが、直近7月は6月同様64兆円まで縮小している。

近頃、日銀の国債買入れペースが縮小していることが、マネタリーベースの増加ペース鈍化という形で現れている。

4.マネーストック: リスク性資産投資に底入れの兆し

8月9日に発表された7月のマネーストック統計によると、市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比4.0%(前月は3.9%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同3.4%(前月は3.3%)とそれぞれ上昇した(図表9)。M2の伸び率は4ヵ月ぶり、M3の伸び率は3ヵ月ぶりの高水準となる2。高水準の経常黒字や貸出の増加などが、マネーの伸びに寄与しているとみられる(図表10)。
(図表10) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表11) 現金・預金の伸び率
M3の内訳では、現金通貨の伸び率が前年比4.6%(前月も4.6%)と前月から横ばいに、普通預金などの預金通貨の伸び率は前年比8.0%(前月は8.1%)とやや低下したが、CD(譲渡性預金、前月改定値▲1.1%→当月0.1%)が増加に転じたほか、準通貨(定期預金など、前月改定値▲1.5%→当月▲1.3%)もマイナス幅を縮小した(図表11・12)。
(図表12)投資信託・金銭の信託・準通貨の伸び率 また、M3に投信や外債といったリスク性資産等を含めた広義流動性の伸び率は前年比3.4%(前月は3.1%)と大きく上昇、2016年1月以来の高い伸びとなった(図表10)。

内訳を見ると、既述のとおりM3の伸び率が前月から上昇したほか、残高規模の大きい金銭の信託(前月3.0%→当月3.6%)がプラス幅を拡大し、投資信託(元本ベース)の伸び率(前月0.2%→当月1.2%)も5ヵ月ぶりに拡大に転じている(図表12)。

預金通貨の伸びは依然として高く、家計の安全性・流動性選好は根強いものの、昨年来停滞色の強かったリスク性資産への投資に底入れの兆しがうかがわれる。
 
 
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2017年08月09日「経済・金融フラッシュ」)

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