2017年07月07日

日銀は物価目標の位置付けを再考すべき~金融市場の動き(7月号)

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
  1. (トピック) 日銀の大規模緩和継続にもかかわらず、物価上昇率は目標とする2%とは程遠い状況にある。異次元緩和開始以降、4年余りが経過したが、この間明らかになったことは、2%のハードルが極めて高いという点だ。そもそも、日銀が目指す「2%の物価上昇が続く社会」には、大幅な賃上げの持続が必要になる。賃金上昇率が2%未満であれば、物価上昇ペースに届かず、消費が続かなくなるためだ。これに対し、足元の賃金上昇はあまりにも鈍く、消費・物価が力強さを欠く要因になっている。主要先進国と比べて、成長期待が低いうえ、雇用の流動性が低いため、日本企業は大幅な賃上げに消極的な姿勢を維持していると考えられる。つまり、2%の物価上昇を安定的に続けるためには、大幅かつ持続的な賃上げ等が必要だが、そのためには抜本的な構造転換が必要であり、短期間での実現は見込み難い。
     
  2. 高すぎる目標を達成できず、日銀が現行の大規模緩和をずるずると長期に続けることになれば、リスクも膨らむ。資産が膨張するにつれ、出口局面で日銀自身に損失が発生したり、金融市場が混乱に陥ったりするリスクが高まっていく。
     
  3. それでは、物価目標をどのように変更するべきだろうか?水準を明確に引き下げるという方法は避けるべきだろう。目標を引き下げたとたん、市場で円高・株安・金利上昇の動きが発生し、実体経済の打撃になりかねない。むしろ、2%の物価目標は中期的な目標として存置しつつ、物価目標と金融緩和継続のリンクを弱めるべきだろう。この場合、物価目標の位置付けを修正することになる。緩和効果を決めるのは、国債買入れペースではなく、保有残高であるというストックビューの考え方を前面に出すことで、建前としてその理屈付けをするという手もある。ただし、この方法を採るにしても、市場へのそれなりの悪影響は予想されるため、米国の金融引き締め等でドル高圧力が高まる局面を見計らって打ち出す必要がある。
展望レポート物価上昇率見通しの変遷
■目次

1.トピック:日銀は物価目標の位置付けを再考すべき
  ・異次元緩和4年余りで分かったこと
  ・2%の物価目標達成に必要なもの
  ・大規模緩和継続でリスクは高まる
  ・物価目標をどうするべきか?
2.日銀金融政策(6月):出口での信認毀損を否定
  ・(日銀)現状維持
3.金融市場(6月)の動きと当面の予想
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

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