2017年05月02日

日銀、「6度目の正直」も困難か~金融市場の動き(5月号)

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
  1. (トピック) 日銀が先週27日に公表した展望レポートでは、今後の物価上昇率は急ピッチで上昇を続け、「2018年度頃」には物価目標である2%程度に達するとの見通しが維持された。日銀は黒田総裁就任以降、物価目標の達成期限を5度も後ろ倒ししているが、「6度目の正直」も難しそうだ。もともとの目標水準が高いうえ、いくつものハードルが存在するためだ。主なものとしては、賃上げ動向、将来不安、海外経済動向が挙げられる。よほど強い追い風が吹かない限り18年度頃に物価目標を達成することは困難だろう。過去の日銀の物価見通しの改定状況を見ると、当初2%前後という水準が示された後、当該年度が近づくタイミングで下方修正が入り始め、以降も下方修正が繰り返されるパターンが定着している。今後についても、早ければ今年度後半、遅くとも来年度前半には18年度の物価見通しを引き下げ、目標達成時期を後ろ倒しする事態が予想される。ただし、既に追加緩和余地は乏しいことから、物価目標に向けた「モメンタムは維持されている」として、現行の金融政策を粛々と続けるという展開が続きそうだ。なお、これまでの大規模緩和の結果、日銀の総資産のGDP比は既に主要国で突出した規模に膨らんでいる。このことは、将来日銀に多大な損失が発生するリスクも膨らんでいることを示している。つまり、現行の大規模な金融緩和を続ければ続けるほど、将来の収束、すなわち出口戦略のハードルも高まっていくという難題を日銀は抱えている。日銀は出口戦略の説明を避け続けているが、今後も出口への市場の不安は解消されるどころかますます高まっていく恐れがある。事前の十分な市場との対話が求められる。
     
  2. (金融市場) 今後は、今後は仏大統領選(決選)の無難な通過に伴うリスク回避姿勢の後退と6月の米利上げ観測によって円安ドル高方向に進むだろう。長期金利もやや上昇へ。
展望レポート物価上昇率見通しの変遷
■目次

1.トピック:日銀、「6度目の正直」も困難か
2.日銀金融政策(4月):景気判断を引き上げ、楽観シナリオを維持
  ・(日銀)現状維持
3.金融市場(4月)の動きと当面の予想
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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レポート紹介

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