2017年05月30日

マレーシア:11年連続で海外ロングステイ希望者の人気度トップ-その観光立国戦略からの示唆-

平賀 富一

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  • 生活費(物価)の水準:高齢の退職者などが多いロングステイヤーにとっては、年金収入や自らの貯えで余裕をもって暮らせることが必要であるため、生活費の水準は非常に重要である。その一例として、2015年3月2日公表の英Economist Intelligence Unit(EIU)が「Worldwide Cost of Living 2015」(世界の131主要都市の生活費(生活コスト)のランキング)によれば、マレーシアの首都クアルンプールは90位であり、一方、首位シンガポール、5位シドニー、6位東京、61位バンコク等となっている。
     
  • 長期滞在査証:上述のMM2Hビザは、配偶者と21歳未満の未婚の子供、60歳以上の両親を同行させる事が可能などとなっており、高齢者のみならず、子女教育を目的とする家族も含めた長期滞在希望者にとって魅力のある制度と考えられる。
     
  • 気候の安定と自然災害の少なさ:マレーシアの年間の平均気温は30度前後で変化の幅が少なく、台風、洪水、地震などの自然災害が少ない。
     
  • 治安・衛生面:マレーシアは、一人当たりGDP(国内総生産)が約1万ドルと中進国の水準に達しており、新興諸国の中では相対的に優れたレベルにある。
写真3 以上に加えて、現地での毎日の食生活について、日本人に親しみがあり嗜好に合いやすい中華、カレー等に代表される地元の料理が、美味しく安く食べられ、和食や日本の食材・産品も、多種多様なものが入手できることも指摘できる。さらに医療や健診が日本語や英語で安心して受けられる体制・水準にある。また、コミュニケーションという点で、現地で広く通用する英語は、未だに多くの日本人にとって難しい言語ではあるが、それでも長年教育を受けており、その他の言語と比べれば、知識があり理解できることが多いという点での安心感が大きい。また、マレーシアの英語が文法や語彙の正しさよりも通じることに重点を置いていることから、シンプルな表現が多く、日本人も気後れすることが少なく話せるというメリットがある(この点に関し、高度な英語力が職務の遂行上必須である企業は別にして、グローバルに拠点を展開し世界各地で様々な国籍の役職員を雇用し、英語を共通語(コミュニケーション・ランゲージ)とする多国籍企業の多くが、欧米等のネイティブスピーカーの難しい語彙や言い回しは避け、極力シンプルな英語表現を使うことを奨励している事例が多くみられる。このことが、近年、マレーシアへの学生・若手企業人の英語留学・研修先としての評価の向上にもつながっているといえよう。)

以上のように、短期間の観光であれば、世界的に著名な名所旧跡・見どころを見学・鑑賞し、アクティビティを経験し、普段食べたことがない料理を食べるなどといった大きな異国情緒が旅の経験や楽しみとなるが、ロングステイでの毎日の生活となると重視する要因も変わってくるわけであり、その中で、マレーシアが、各種のポイントで総合的に高く評価されていると言えよう。
 

3――観光立国としての戦略的な取り組み

3――観光立国としての戦略的な取り組み

我が国も、近年観光業を重視しインバウンドの観光客の拡大に注力しており、その点に関し、マレーシアの様々な取り組みを参考事例として示唆を受ける点も多いと考えられる。

マレーシアにおける観光業は、早くから国の発展に必要な重要産業としての位置づけを与えられ、成長産業・重点分野として推進体制の整備と施策の実行が進められてきた。米CNNテレビや英BBCなどのテレビ等各種の媒体で長期間コマーシャルメッセージとして放映されている「Malaysia Truly Asia」のキャッチコピーと音楽は知らず知らずのうちに親しみを覚えやすいものになっている。

このような取り組みの成果として、同国への外国人観光客数は、1998年の556万人が、2015年には2,572万人へと大きく増加しており、国別比較でも、図表-2(2015年実績)のとおり、世界で第14位、アジアでは中国、タイ、香港に次いで第4位の外国人観光客を受け入れている。この数字について、人口対比での観光客数をみると、マレーシアの外国人観光客数/人口の比は0.85(日本は0.16)となっており、人口3千万人のマレーシアの観光業が、同国の経済において重要なポジションを占めていることが分かる。
図表-2 世界各国・地域への外国人訪問者数(2015年 上位20位)
また、観光分野においては、いわゆる「MICE」(Meeting(会議・研修・セミナー)、Incentive tour(報奨・招待旅行)、 Convention ・Conference(会議)、 Exhibition(展示会))と共に、このレポートで取り上げたロングステイ客の受け入れが重要項目として位置付けられている。2017年3月のマレーシア政府の発表によれば、上記MM2Hビザの承認者の国籍別の実績(2002年-2016年11月の期間:合計31,723名)を見ると、首位が中国の7,926名、2位が日本の4,127名、3位バングラデシュ3,393名、以下、英国2,361名、イラン1,331名、シンガポール1,258名、台湾1,175名、韓国1,174名、パキスタン958名、インド861名となっており、世界各国から数多くのロングステイヤーを受け入れていることがわかる。

(本レポート中の写真はクアラルンプール:2017年5月筆者撮影)
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平賀 富一

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(2017年05月30日「基礎研レター」)

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