2017年03月09日

米国経済の見通し-経済への影響が大きいトランプ政権の経済政策は依然として視界不良

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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3.物価・金融政策・長期金利の動向

(物価)エネルギー価格上昇に伴い、物価上昇が加速
(図表17)消費者物価の推移(寄与度) 消費者物価の総合指数(前年同月比)は1月が+2.5%となり、12年3月以来の水準に上昇した(図表17)。これは原油価格の下落に伴って、これまで物価を押下げてきたエネルギー価格が、原油価格の反転に伴って物価を押上げる方向に転換したことが大きい。1月までで物価押上げは4ヵ月連続となった。

一方、エネルギーと食料品を除いたコア指数は、+2.3%と2ヵ月連続で上昇したものの、上昇幅は総合指数に比べて穏やかに留まっている。

原油価格は、16年2月に30ドル割れと安値をつけていることから、原油価格がこのまま50ドル台前半で推移した場合には、前年同月比でみた2月の消費者物価はもう一段の上昇が見込まれる。もっとも、当研究所では、原油価格の見通しを17年末が57ドル、18年末が60ドルと緩やかな上昇に留まると予想しており(前掲図表4)、消費者物価の上昇スピードは17年1-3月期をピークに幾分鈍化すると見込んでいる。

一方、物価のリスクとしては、労働需給のタイト化から賃金上昇が加速し賃金インフレから物価上昇圧力が高まることが考えられる。このため、賃金動向には物価面からも注意が必要だ。
(金融政策)3月の利上げ後、17年は追加で1回、18年は年3回の利上げを予想。

3月14-15日に実施されるFOMC会合では、0.25%の追加利上げが確実だ。3月3日の講演でイエレン議長は、足元の労働市場や物価の状況がFRBの政策目標達成に近づいているとの判断を示した。実際、失業率はFRBの目標水準に一致している。さらに、1月のPCE価格指数(総合指数)は、前月比が+0.4%と11年4月以来の伸びとなったほか、前年同月比が+1.9%と物価目標水準(2%)に近づいてきた(図表18)。

一方、FRBは金融政策運営がトランプ政権の経済政策や、その経済への影響によって左右されるとの見方を示してきた。これまでみたように、前回(2月)会合以降に経済政策に関する不透明感が緩和される状況にはなっていない。このため、当研究所では追加利上げ時期を予算編成が本格化し、経済政策の効果を評価し易くなる6月まで見送ると考えていた。しかしながら、金融市場は3月の追加利上げを既に9割超織込んでいることから、FRBは3月利上げを実施するとみられる(図表19)。今後、欧州の政治リスクが顕在化する可能性もあり、出来るうちに利上げしておきたいとのFRBの判断もあるのだろう。

ただし、3月以降の金融政策運営については、当研究所は経済政策に伴う米経済への影響は限定的と判断しているほか、物価についても上昇スピードの鈍化を見込んでいることから、17年は9月以降に1回、18年は年3回の利上げペースに留まると予想している。
(図表18)政策金利およびPCE価格指数/(図表19)市場が織込む利上げ確率
(長期金利)金利水準の調整局面はあるものの、18年末にかけて緩やかな上昇を予想
(図表20)米国金利見通し 長期金利(10年国債金利)は、11月選挙前の1.8%台から12月には一時2.6%近辺まで1ヵ月間で0.80%の急激な上昇となった(図表20)。その後は、概ね2.3~2.6%で一進一退となっている。

長期金利は、物価が緩やかな上昇を続ける中で、政策金利の引き上げが持続することや財、政赤字拡大を背景に国債発行増などもあり、上昇基調の持続が見込まれる。

もっとも、年内2~3回程度の利上げを既に織込んでいるほか、トランプ政権の経済政策に対する期待が剥落する局面や、欧州の政治リスクの高まりからリスク回避的な債券シフトも予想されることから、17年前半は一時的に金利が低下する局面もみられよう。その後は、金利上昇基調に復し、17年末に2%台後半、18年末に3%台前半までの上昇を予想する。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2017年03月09日「Weekly エコノミスト・レター」)

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