2016年06月09日

米国経済の見通し-4-6月期は成長再加速見通しも、労働市場回復の持続可能性を見極める必要

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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(貿易)純輸出の成長率寄与度は当面マイナスが持続
1-3月期の純輸出は、輸入が前期比年率▲0.2%減少する一方、輸出が▲2.0%と輸出の減少幅が上回った。輸出の落ち込みは米ドル高に加え、主要な輸出相手先の景気回復の遅れが要因とみられる。一方、月次の貿易収支をみると16年3月は貿易赤字幅が前月から大幅に減少したほか、4月も3月からの貿易赤字の拡大は小幅に留まっており、足元は貿易収支の改善がみられる(図表15)。これは16年2月以降、ドル高が是正された動きと関連があるとみられる。

しかしながら、今後もドル高の持続が見込まれるため、ドル高の緩和に伴う外需の回復は一時的とみられる。一方、4月のレポート4でも触れたが、世界経済に目を転じると、16年は15年から成長率の加速が見込まれるほか、15年に落込んだ世界の財輸出数量も16年は増加が見込まれている(図表16)。ドル高は世界輸出に占める米国のシェア低下を通じてネガティブに働くものの、世界的な財輸出数量の回復に伴い全体のパイが拡大する中で米外需の成長率寄与度のマイナス幅は縮小が見込まれる。
(図表15)貿易収支(財・サービス)/(図表16)世界経済、財輸出見通し
 
4 Weeklyエコノミスト・レター(2016年4月22日)「米国製造業の動向-製造業の不振も、米国のリセッションに繋がる可能性は低い」http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=52773?site=nli
 

3.物価・金融政策・長期金利の動向

3.物価・金融政策・長期金利の動向

(図表17)消費者物価の推移(寄与度) (物価)総合指数は原油価格の上昇に伴い緩やかに上昇へ
消費者物価の総合指数は、4月に前月比+0.4%と13年2月(+0.6%)に次ぐ伸びとなった。これまで物価を押下げていたエネルギー価格が+3.4%と大幅な上昇となったことが大きい。これでエネルギー価格は2ヵ月連続のプラスとなった。原油価格は2月以降上昇基調に転じており、今後はエネルギー価格下落に伴う物価押し下げ効果は逓減する可能性が高い。

一方、前年同月比では総合指数が+1.1%、エネルギーと食料品を除いたコア指数が+2.1%となっており、総合指数との乖離は縮小してきているものの、依然として1%の乖離がみられる(図表17)。
当研究所では、16年夏場にかけて一旦原油価格は下落するものの、17年末にかけて50ドル台前半まで緩やかに上昇すると予想しており、総合指数が上昇する形でコア指数との乖離幅は緩やかに縮小しよう。当研究所では、総合指数は通年では16年が前年比+1.5%、17年が+2.2%に上昇すると予想している。
(金融政策)16年の追加利上げは7月、12月の2回(合計0.50%)を予想
4月のFOMC会合に関する議事録が発表され、4-6月期の成長再加速、労働市場の改善持続、物価目標達成の蓋然性の上昇、などの3条件を満たせば6月のFOMCで追加利上げが可能と、大半のFOMC参加者が認識していたことが示された。さらに、5月下旬にFRBのイエレン議長は、今後2~3ヵ月以内の追加利上げが可能との見方を示したことから、6月、もしくは7月会合での追加利上げ観測が高まった。

しかしながら、5月雇用統計で雇用増加ペースの大幅な鈍化が示されたほか、雇用統計発表の翌週に行われたイエレン議長の講演では、利上げ継続の意思は示されたものの、具体的な時期に関する言及がなかったことから、足元では6月、7月会合での追加利上げ観測は急激に後退している。

当研究所では、上記のようなイエレン議長の発言の変化を踏まえても、16年は7月と12月に0.25%ずつ2回の利上げを実施するとの予想を維持している。前述の利上げ条件のうち、成長率と物価については条件を満たしていると言える。一方、これまでFRBが自信を持ってきた労働市場の回復については、持続性に懸念が広がっているが、労働関連の他指標と比較して総合的に判断すると、雇用統計の雇用者数は実際の労働市場を過小評価している可能性が高いとみられる。このため、7月に発表される6月雇用統計で雇用者数の増加ペースの再加速が確認された場合には、7月会合で追加利上げに踏み切ると考えている。もっとも、6月の雇用統計が過去2ヵ月と同様に労働市場の回復持続が懸念される内容になった場合には9月のFOMC会合まで利上げ判断を先送りするとみられる。この場合には16年の利上げは1回に留まろう。
(図表18)米国金利見通し (長期金利)緩やかな上昇を予想
長期金利(10年国債金利)は、16年初から金融市場でリスク回避の動きが強まる中で、安全資産としての債券に対する需要が高まったほか、政策金利の引き上げ幅も当初予想されたより小幅に留まるのではとの見方から、2月上旬には一時1.6%前半まで下落し、その後も1%台後半での推移となっている(図表18)。

長期金利は、原油価格の上昇基調への反転やリスク回避姿勢の後退、政策金利の引き上げ継続などを背景に17年末に向けて上昇すると予想する。もっとも、今後も物価上昇は限定的とみられるほか、政策金利の引き上げペースも緩やかなことから、長期金利の水準は16年末で2%台半ば、17年末でも3%近辺に留まろう。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2016年06月09日「Weekly エコノミスト・レター」)

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