2016年02月01日

【アジア新興経済レビュー】底堅い内需も輸出不振の長期化が足枷に

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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6.金融市場 (1月)

(図表7)株価上昇率/(図表8)通貨上昇率 1月のアジア新興国・地域の株価は、タイ・インドネシアを除いて下落した(図表7)。もっとも中国株や資源国株、先進国株と比べると本稿7ヵ国・地域の株価下落は小幅であった。

月中旬までは、12月の米国の利上げ開始をはじめ中国経済の減速懸念や原油一段安、地政学的リスクの高まり(サウジアラビアとイランの国交断絶、北朝鮮の水爆実験)などが重なって世界的にリスク回避姿勢が強まり、アジア株も下落基調で推移した。しかし、月下旬は欧州中央銀行(ECB)が3月の追加の金融緩和策の可能性を示唆し、日本銀行が新たな金融緩和策としてマイナス金利導入を打ち出したこと、また原油の協調減産の可能性が浮上して、株価は買い戻される展開となった。

国別に見ると、インドは原油安や鉱工業生産指数の悪化、台湾は主要取引相手である中国の景気減速懸念や輸出不振、政治情勢の先行きの不透明感が株価下落に繋がった。一方、インドネシアはテロ発生も1月の利下げ実施と先行きの追加利下げの期待が株価上昇に繋がった。
 

為替(対ドル)は、月中旬までは12月の米国の利上げ開始や人民元の下落などを背景に、アジア新興国の通貨も総じて下落傾向が続き、その後はリスク回避姿勢が和らいで通貨上昇に転じた。(図表8)。

国別に見ると、韓国は北朝鮮の水爆実験や人民元安の加速、インドは米利上げ開始による海外投資家の資金流出などが通貨下落に繋がった。一方、マレーシア・インドネシアの資源国通貨は原油の協調減産の可能性が浮上したことから上昇した。

7. 1月の注目ニュース、今後の注目点など

(1)韓国・台湾・フィリピン:10-12月期GDPを公表(26日、28日、29日)
1月は、韓国(26日)と台湾(29日)、フィリピン(28日)で2015年10-12月期のGDP統計が公表された。10-12月期の実質GDP成長率は、韓国が前年同期比3.0%増(前期:同2.7%増)、フィリピンが同6.3%増(前期:同6.1%増)とそれぞれ上昇した。台湾も同0.3%減と前期の同0.6%減から上昇したものの、2期連続のマイナス成長となった。

韓国は10月前半のコリア・ブラックフライデーの開催や個別消費税の引き下げ、低インフレの継続、雇用環境の改善など個人消費の拡大が景気回復の主因となった。フィリピンは、低インフレの継続や雇用・所得環境の改善、海外就労者の送金額(ペソ建て)の拡大によって民間消費が堅調を維持し、年初に遅れた予算執行が加速したことによってインフラ支出など政府部門が景気を押上げた。台湾は、政府の消費刺激策を背景とする民間消費の持ち直しによって成長率が上昇したものの、輸出と投資が低迷してマイナス成長となった。

 
(2)台湾:正副総統、立法院選挙で民進党が勝利(16日)
台湾では、16日に正副総統、立法委員選挙が投開票され、それぞれ最大野党・民主進歩党(民進党)が勝利した。新たに正副総統となる民進党の蔡英文・陳建仁ペアは過半数を超える689万4744票(得票率56.12%)を獲得し、与党・国民党の朱立倫・王如玄ペアの381万3,365票(得票率31.04%)、野党・親民党の宋楚瑜・徐欣瑩ペアの157万6,861票(同12.84%)に大差をつけて勝利した。立法院選では、113議席を争った民進党が68議席(28議席増)を獲得し、初の単独過半数の議席を獲得した。国民党は35議席(29議席減)と惨敗し、14年春の「ひまわり学生運動」の関係者らによる新党「時代力量」が若者中心に支持を集めて5議席を確保した。

独立志向を持つ民進党・新政権が中国との関係改善を進めずして、閉塞感が強まる台湾経済を浮揚させることができるか、新たに打ち出される経済政策に期待がかかる。

 
(3)インドネシア:首都ジャカルタでテロ発生(14日)
インドネシアでは、14日に首都ジャカルタ中心部で爆弾テロ事件が発生し、民間人4名と実行犯4名が死亡した。後日、テロに関与したとされる容疑者13名が逮捕されるなど、事件は収束に向かっている。しかし、これまでイスラム国(IS)に参加し、帰国したインドネシア人は多く、テロ再発の可能性は燻る。大規模テロが起きれば、海外からの投資が激減してしまう恐れがある。政府は再発阻止に向けて取締りを強化している。
 

(4)マレーシア:原油一段安を受け、2016年度補正予算案を公表(28日)
マレーシアでは、28日に政府が2016年度補正予算案を公表した。予算の前提となる原油価格の下落と景気低迷を背景に2016年度予算の見直すこととなった。

今回の補正予算では、原油価格の想定を当初予算の1バレル52ドルから30~35ドル、経済成長率を当初の4~5%から4~4.5%に引き下げたことから、歳入額が70~90億リンギ減少した。これを受けて歳出の見直しを図り、一般歳出が4~4.5億リンギ、開発予算が4~5億リンギ削減された。財政収支(見込み)はGDP比3.1%の赤字で据え置かれた。
 
(図表9)新興国経済指標カレンダー (5)2月の注目指標::マレーシア・タイ・インドネシア・インドでGDP 公表

2月は、マレーシア(18日)・タイ(16日)・インドネシア(5-7日)・インド(8日)で2015年10-12月期の国内総生産(GDP) が公表される。

マレーシアは、昨年4月のGST導入やリンギ安による物価上昇を受けて7-9月に鈍化した個人消費が下げ止まるか、またインドネシアは政府が矢継ぎ早に打ち出してきた経済政策パッケージや予算執行の加速による公共投資の拡大で景気を上向かせることができるか、そしてインドでは2015年に実施した4度に渡る利下げが民間部門の消費・投資を刺激したかどうかに注目したい。

当研究所では、マレーシアが前年同期比+4.2%、タイが同+2.7%、インドネシアが同+4.8%、フィリピンが同+5.9%、インドが同+7.4%を予想する(12月25日時点の見通し)。
 
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2016年02月01日「経済・金融フラッシュ」)

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