2016年01月29日

中国経済:2016年の注目ポイント~構造改革の進捗とそれに伴う3つのリスク(雇用不安、金融不安、消費失速)に注目!

三尾 幸吉郎

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4.その他の注目指標の動き

中国経済を見る上では電力消費量の動きも注目度が高い。2015年は前年比0.5%増と2014年の同3.8%増を3.3ポイント下回った。電力消費量は産業構造の変化が影響するため産業別に見ると、全体の7割超を消費する第2次産業は同1.4%減に落ち込んだものの、第3次産業は同7.5%増と2014年の伸び(同6.4%増)を上回り、月次で見ても一進一退ながら堅調に推移している(図表-11)。

また、モノの移動量を示す貨物輸送量の動きも見逃せない。2015年の鉄道貨物輸送量は石炭の需要減もあって前年比11.9%減と落ち込んだ。一方、道路貨物輸送量は同6.4%増とプラスの伸びを維持したが、2014年の同8.7%増に比べると伸びは鈍化、景気の鈍化を示している(図表-12)。
(図表11)産業別に見た電力消費量の推移/(図表12)鉄道貨物と道路貨物
一方、景気が良くなるとおカネも動きだすことから通貨供給量(M2)の動きも注目される。2015年の流れとしては、年前半6月までは2015年の目標値だった「12%前後」を下回って推移していたものの、7月に伸びを回復した後は目標値を上回る13%台で推移している(図表-13)。銀行融資サイドから見ても、銀行融資残高は7月に大きく伸びを高めた(図表-14)。しかし、銀行融資の中でも実際の投資に回ることの多い中長期の融資は伸び悩んでおり、12月には伸びがむしろ減速した。従って、“M2の伸びの高まりで今後は投資が増える”と見るのは時期尚早だと思われる。
 
(図表13)通貨供給量(M2)の推移/(図表14)銀行融資残高の伸び

5.2016年の注目ポイント

以上のように、振り返って見ると2015年は「新常態」への移行を目指す構造改革が本格的に動き出した年であった。第2次産業から第3次産業への構造転換、輸出・投資主導から消費主導への構造転換が進んだとともに、“7%前後”とした成長率目標もほぼ達成したことを踏まえれば、ひとまず順調に滑り出したといえるだろう。そして、2016年はさらに構造改革が前進する年となりそうである。昨年の中央経済工作会議では、サプライサイド構造改革の5大任務の第一に「生産能力過剰の解消」を挙げ、“ゾンビ企業”の淘汰を進める方針を示しているからである。そして、それに伴う負のインパクトを財政政策と金融政策の両面から下支えして景気失速を回避する姿勢を鮮明にしている。
 
(図表15)電子商取引(EC)の推移 しかし、構造改革の推進は大きなリスクを伴う。第一に“雇用不安”に陥るリスクが挙げられる。構造改革で過剰設備の解消が本格化すれば、失業者が増える可能性がある。雇用の受け皿として、戦略的新興産業や消費サービス関連企業が発展してバトンタッチできれば良いが、バトンを落とすようなリスクは残る。第二に“金融不安”に陥るリスクが挙げられる。構造改革の過程では経営破綻は避けられないため、銀行の不良債権が増えて金融不安に陥るリスクも高まる。第三に“消費失速”のリスクが挙げられる。昨年は輸出・投資の減速を消費の堅調が支えて目標達成に漕ぎ着けた。特に(1)電子商取引(EC)の隆盛(図表-15)、(2)住宅販売(家具など)の持ち直し(図表-16)、(3)自動車販売の復調(図表-17)が3つの柱となった。今年もECはセキュリティ不安が浮上しない限り好調と見られるが、自動車販売は小型車減税が年末まで続くとはいえ株価下落が懸念材料に浮上、在庫を抱えた住宅販売には昨年末から陰りが見え始めている。

従って、第2次産業から第3次産業へ、輸出・投資主導から消費主導への構造転換が2016年も順調に進むかに注目するとともに、“雇用不安”、“金融不安”、“消費失速”の3つのリスクにも注意したい。
 
(図表16)商品住宅の販売面積の推移/(図表17)自動車販売の推移
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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2016年01月29日「Weekly エコノミスト・レター」)

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