2016年01月28日

【1月米FOMC】予想通り政策金利を据え置き、景気判断を下方修正。

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:政策金利を据え置き、景気判断を下方修正

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が1月26-27日(現地時間)に開催された。市場の予想通り、FRBは政策金利を据え置いた。

今回発表された声明文では、景気の現状判断を年末にかけて経済成長が減速したとして下方修正したほか、物価についても一部下方修正した。一方、労働市場については雇用が強いとの判断を示し上方修正した。景気見通しについては、経済と労働市場の見通しに対するリスクが均衡しているとの表現を削除し、海外の経済・金融の動向について注視し、見通しのリスクバランスも含めて影響を評価すると慎重な見方を示した。最後に、ガイダンス部分では次回会合(3月)での政策変更を示唆する表現は盛り込まれなかった。

今回の会合から地区連銀総裁4人の投票メンバーが入れ替わった。今回の金融政策の決定は全会一致であった。

2.金融政策の評価:3月利上げの可能性は低いと判断

政策金利の据え置きは事前に予想されていたため、市場の関心は声明文における景気判断・見通しの変更と、次回の政策変更を示唆する表現が盛り込まれるかにあった。実際に公表された声明文では、景気判断は下方修正されたものの、16年に入ってからの世界的な株式市場の不安定化や原油価格急落による実体経済への影響についての評価は示されなかった。今回の声明文について、当研究所では景気判断、見通しについて慎重な判断を示すハト派的な内容であったと評価している。一部市場では、金融政策ガイダンスに大きな変更が無かったことから、3月利上げの可能性を残すタカ派的な内容との評価もあるようだ。しかしながら、変更が無かった理由は資本市場や原油相場の不安定な動きが、依然として継続しているために経済や物価への影響判断には時期尚早であるということだろう。このため、積極的に金融政策の見通しを維持している訳ではないとみられる。

さて、今後の金融政策の見通しだが、3月の政策金利引き上げの可能性は低いと判断している。今後、比較的早い時期に資本市場や原油相場が安定したとしても、実体経済への影響を見極めるためのハードデータが次回会合までに揃わない可能性が高い。また、原油価格の下落によって、12月の利上げ開始時から懸念されていた物価目標の達成時期はさらに遠のく可能性が高くなった。このため、3月の利上げを正当化し市場を納得させることは難しいだろう。当研究所では、資本市場の不安定な動きが長期化しないとの前提で、16年中に3回の利上げ(0.75%)を予想している。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • 政府機関債、MBSの償還分はMBSへ再投資(変更なし)
  • 米国債の償還分は米国債へ再投資(変更なし)
  • FF金利の正常化が十分に進展するまでこの方針を続けることを見込む(変更なし)
  • 長期債を高水準で保有し続けることで緩和的な金融環境を維持する(変更なし)
 
(フォワードガイダンス、今後の金融政策見通し)
  • 委員会は今年に入って労働市場環境が大幅な改善を示したほか、インフレ率が2%の目標に向けて中期的に上昇していくという合理的な確信を得たと判断した(今回削除)
  • 経済見通しと、金融政策の行動が将来の経済に影響する時間を考慮して、委員会はFF金利の誘導目標レンジを0.25-0.50%に引上げることを決定した(今回削除)
  • 金融政策スタンスは依然として緩和的であるため、更なる労働市場の改善や物価の2%への上昇を下支えする(“after this increase”を削除し若干修正)
  • FF金利の目標レンジに対する将来の調整時期や水準の決定に際して、委員会は経済の現状と見通しを雇用の最大化と2%物価目標に照らして判断する(変更なし)
  • これらの判断に際しては、雇用情勢、インフレ圧力、期待インフレ、金融、海外情勢など幅広い情報を勘案する(変更なし)
  • 現状でインフレ率が2%を下回っている状況に照らして、委員会は実績と物価目標に向けた見通しを注意深くモニターする(変更なし)
  • 委員会は、FF金利の緩やかな上昇のみを正当化するような経済状況の進展を予想しており、暫くの間、中長期的に有効となる水準を下回るとみられる(変更なし)
  • しかしながら、実際のFF金利の経路は、今後入手可能なデータに基く経済見通しによる(変更なし)
 
(景気判断)
  • 労働市場環境はさらに改善したものの、昨年末に経済成長は減速した(“economic activity has been expanding at a moderate pace”から”economic growth slowed”に下方修正)
  • 家計消費と設備投資は、ここ数ヶ月は緩やかに拡大した(“solid rate”から”moderate”に下方修正)
  • 住宅市場はさらに改善した(変更なし)
  • 純輸出は軟調なまま(変更なし)
  • 在庫投資は減速した(新規追加)
  • 力強い雇用増加をはじめ、最近の広範な労働指標は、労働資源の使われていない部分がさらに減少したことを示している(”ongoing job gains”から“strong job gains”に上方修正、一方、失業率の低下に関する記述は削除)
  • インフレ率は、エネルギー価格や、エネルギー以外の輸入品の価格下落を反映して、2%の長期的な目標を下回り続けている(変更なし)
  • 市場が織り込むインフレ率はさらに低下した(”remain low”から”declined further”に下方修正)
  • 調査に基く長期物価見通しは、最近数ヶ月は全般的に変化に乏しい(”edged down”から”little changed”に若干上方修正)
 
(景気見通し)
  • 委員会は、金融政策スタンスの漸進的な調整により、経済活動は緩やかに拡大し、労働市場の指標が引き続き強くなると、現状で予想している(”economic activity will continue to expand”から”continue to ”を削除し表現を変更)
  • インフレ率は、エネルギー価格の一段の下落もあって、短期的に低水準に留まるとみられる(“remain low in the near term”を追加し、下方修正)
  • エネルギーや輸入価格のこれまでの下落といった一時的な要因が解消することや労働市場の更に強くなることによって、(インフレ率は)中期的には2%に向けて緩やかに上昇すると予測する(変更なし)
  • 国内および海外の状況を踏まえると委員会は経済と労働市場の見通しに対するリスクは均衡していると判断している(削除)
  • 委員会は、世界の経済と金融の動向を注視し、労働市場やインフレ率、また見通しに対するリスクバランスへの影響を評価する(注視する項目として“global economic and financial development”を追加し、リスクバランスへの影響を評価するとした)
  • 委員会は、引き続きインフレ動向を注視する(削除)
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2016年01月28日「経済・金融フラッシュ」)

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