2015年12月07日

インド見聞録-“多様性の国”の世界遺産と貧困問題

基礎研REPORT(冊子版) 2015年12月号

社会研究部 主任研究員   土堤内 昭雄

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1――インドの世界遺産

今年のシルバーウィークに初めてインドを訪れた。その理由のひとつは、タージ・マハルを見たかったからだ。タージ・マハルはムガル帝国の第5代皇帝シャー・ジャハーンが、若くして逝った最愛の王妃のために22年の歳月をかけてつくった霊廟だ。シンメトリックな均整のとれたデザインで、真っ白な大理石に覆われた外観は、背景の青空と前庭の緑との美しいコントラストを魅せる。近づくとそのスケール感に圧倒され、白い大理石に施された赤や緑の繊細で優美な装飾模様は、息を飲むほどの美しさだ。

シャー・ジャハーンは、タージ・マハルの建設に莫大な国富を注ぎ、国は傾いたという。その結果、第6代皇帝となる息子によりアグラ城に7年間幽閉され、ヤムナー川越しにタージ・マハルを見ながら亡き王妃を偲んだそうだ。絶大な権力と巨額の富が人類に残した至宝は、1983年世界遺産に登録され、世界中から大勢の観光客を惹きつけ、現在のインド社会を支えているようにみえる。

今日、インドは最先端のIT産業を牽引する近代国家だが、道路や鉄道、電力などのインフラ整備は不十分だ。道路は無数のバス、トラック、リクシャーと呼ばれる三輪タクシー、オートバイなどが溢れ、更に牛、ラクダ、馬、猿、山羊、豚、犬、象などの動物と大勢の人間でごった返している。この混沌とした多様性こそインドの世界遺産ではないかと思えるほどである。

2――インドの貧困問題

インドの素晴らしい世界遺産とは対照的に現代インド社会から受けた衝撃がある。それはインドの貧困問題だ。

インドの最初の宿泊先は、首都デリーの高級ホテルだった。敷地の周辺には高い塀がめぐらされ、入口にはガードマンが立ち、人も車も厳重にチェックされていた。夜間に到着したので周囲の状況はよくわからず、翌朝、ホテル周辺を散策した。一歩敷地から出ると歩道のあちこちに人が倒れている。寝ている人、目を開けたまま横たわる人、家族と思われる人たちもいた。

一番ショックだったのは、路上に横たわる若い母親の傍で裸同然の幼子が寄り添っている姿だった。9月でも昼間は35度を超え、脱水症状からか手足を震わせている人もいた。がれきが多い道を裸足で歩く人もおり、このような光景は首都デリー以外の地方都市でも見られた。

インドのホテルやレストラン、売店などではあまり女性の姿を見かけない。男性中心社会で女性は家庭を守ることに専念、女性就業率は2割以下と極めて低い。インド国民の8割はヒンドゥー教徒で、もともとカースト制という階級制度に基づき結婚相手や職業の選択が制限されてきたのである。また、実際にはカースト制にも属さない最下層の「ダリット」と呼ばれる指定カースト(Scheduled Castes)の人たちがいて、今もなお、賃金、雇用、住居など様々な面で厳しい差別と偏見に苦しんでいるという。

3――“多様性の国”インド

人口13億人を擁し国土面積は日本の9倍を誇るインドは、インダス文明発祥の地であり、2014年現在、32の世界遺産を有している。ヒンドゥー教、イスラム教、ジャイナ教、シーク教、キリスト教など多くの宗教が共存し、公用語のヒンディー語以外にも21の州公認言語がある“多様性の国”だ。

インド社会には多くの宗教が共存し様々な戒律がある。ヒンドゥー教徒は牛肉を、イスラム教徒は豚肉を食べない。頭にターバンを巻くシーク教徒は、オートバイに乗る時もヘルメットを装着しない。インドでは合理性を超越した戒律が、時には法による判断に優先し社会を統治しているのかもしれない。

異文化を理解し共生することは本当に難しいことだが、今後は日本でも訪日外国人が急増するなどして、異文化に対する理解と寛容性がますます重要になるだろう。今回のインド旅行から強く感じたことは、われわれがもっと社会の多様性に目を向けるべきではないかということである。
 

 
[参考]研究員の眼
  『インド見聞録(その1)―“多様性の国”の世界遺産』
  『インド見聞録(その2)―“多様性の国”の貧困問題』
  『インド見聞録(その3)―“多様性の国”からの示唆』
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社会研究部   主任研究員

土堤内 昭雄 (どてうち あきお)

研究・専門分野
少子高齢化・家族、市民社会・NPO、都市・地域計画

(2015年12月07日「基礎研REPORT(冊子版)」)

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