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その理由として、社会格差の拡大、縮小社会の進展、社会的孤立の深刻化について考えてみたい。60年代の高度成長期は、多くの人が「総中流意識」を持っていたように、経済格差の小さな時代だった。今日、全体の所得水準が高まっても、格差の拡大により幸福感を持ちづらい状況が生まれているのだ。人は自らの絶対的生活水準だけでなく、相対的な位置づけに幸福を感じるものだからだ。
つぎに70年代は人口増加や経済成長が続き、世帯所得も増えるなど社会全体が拡大基調にあった。今では少子高齢化が進展し、人口減少が顕著になり、社会全体が縮小する時代を迎えている。将来における高齢者の介護や年金への不安、若者の雇用や育児への不安など、われわれが右肩上がりの拡大社会に経験した『明日は今日より良くなる』という“希望”を抱くことが難しくなっているのだ。
また、単独世帯が年代を問わずに増加し、「ひとり社会」が進展、社会的孤立が深まっている。人と人のつながりや地域コミュニティが薄れつつある。さらにIT化が進み、コミュニケーションの方法も変わってきた。電子メールなどの普及により、非対面接触の機会や一方通行のコミュニケーションが増える一方、ハードの進歩に適合した社会の対応が追随できていない状況も見られる。
70年代以降に賑わったファミリーレストランは、家族が外食で団欒を楽しむという高度経済成長期の「幸せ」を絵に描いたような光景だった。少子高齢化の今日、ファミレスではお年寄りがスマホ相手にひとりで食事をする「個食」の様子もよく見かける。ファミレスが家族が縮小する“ファミリーレス”時代の象徴になってしまったような気さえする。
モノが豊かになりココロの時代だといわれる昨今、現代社会は新たな課題を露呈している。これらを解決するためには、正当な理由のない社会格差を是正し、将来不安を解消して“希望”を抱かせる政治が必要だ。われわれは右肩上がりの拡大社会から未経験の縮小・定常社会へ社会政策のパラダイムシフトを断行し、一人ひとりが成熟したココロの時代の価値観を有することが重要ではないだろうか。
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土堤内 昭雄
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(2018年10月23日「研究員の眼」)
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