コラム
2015年10月06日

インド見聞録(その1)-“多様性の国”の世界遺産

社会研究部 主任研究員   土堤内 昭雄

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シルバーウィークに初めてインドを訪れた。ひとつの理由は、タージ・マハルを見たかったからだ。タージ・マハルはムガル帝国の第5代皇帝シャー・ジャハーンが、若くして逝った最愛の王妃のために22年の歳月をかけてつくった霊廟だ。シンメトリックな均整のとれたデザインで、真っ白な大理石に覆われた外観は、背景の青空と前庭の緑との美しいコントラストを魅せる。近づくとそのスケール感に圧倒され、白い大理石に施された赤や緑の繊細で優美な装飾模様は、息を飲むほどの美しさだ。

シャー・ジャハーンは、タージ・マハルの建設に莫大な国富を注ぎ、国は傾いたという。その結果、第6代皇帝となる息子によりアグラ城に7年間幽閉され、ヤムナー川越しにタージ・マハルを見ながら亡き王妃を偲んだそうだ。絶大な権力と巨額の富が人類に残した至宝は、1983年世界遺産に登録され、世界中から大勢の観光客を惹きつけ、現在のインド社会を支えているようにみえる。

今回の旅のもう一つの楽しみは、西インドのアジャンタとエローラの石窟寺院群を見ることだった。アジャンタの仏教石窟群の壁画は特に素晴らしい。法隆寺金堂の菩薩像のルーツと言われる第1窟に描かれた蓮華手菩薩は、1500年を経た現在も美しい色彩が残る。暗闇が広がる石窟の中で、いったいどのようにして極彩色の壁画を描いたのか、古の時代に思いを馳せる。

また、エローラのヒンドゥー教石窟群にある第16窟のカイラーサナータ寺院は圧巻だ。同寺院は、大きな岩山を削り出してつくられた建築物の集合体で、全体が巨大な彫刻なのだ。誰が設計図を描き、どのようにして岩を削っていったのか、約100年間にわたり彫り続けられてきたデカン高原の奇跡のような彫刻は、われわれ現代人を驚嘆の世界に誘う。

人口13億人を擁し国土面積は日本の9倍を誇るインドは、インダス文明発祥の地であり、2014年現在、32の世界遺産を有している。ヒンドゥー教、イスラム教、ジャイナ教、シーク教、キリスト教など多くの宗教が共存し、公用語のヒンディー語以外にも21の州公認言語がある“多様性の国”だ。

今日、インドは最先端のIT産業を牽引する近代国家だが、道路や鉄道、電力などのインフラ整備は不十分だ。道路は無数のバス、トラック、リクシャーと呼ばれる三輪タクシー、オートバイなどとそれらのクラクションの騒音が溢れ、更に牛、ラクダ、馬、猿、山羊、豚、犬、象などの動物と大勢の人間でごった返している。この混沌とした多様性こそ世界遺産ではないかと思えるほどだ。現地人ガイドが、『インドは何でもありの国』と繰り返し語っていたことが強く印象に残った。(つづく)

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社会研究部   主任研究員

土堤内 昭雄 (どてうち あきお)

研究・専門分野
少子高齢化・家族、市民社会・NPO、都市・地域計画

(2015年10月06日「研究員の眼」)

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