2021年01月12日

2020~2022年度経済見通し

基礎研REPORT(冊子版)1月号[vol.286]

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―大幅プラス成長も戻りは弱い

2020年7-9月期の実質GDPは、前期比5.3%(年率22.9%)と4四半期ぶりのプラス成長となり、成長率のプラス幅は現行のGDP統計(1994年~)では最大となった。
 
緊急事態宣言の解除や特別定額給付金の効果から、民間消費が前期比5.1%の大幅増加となったことに加え、世界的な経済活動の再開に伴い輸出が前期比7.0%の高い伸びとなる一方、輸入が前期比▲8.8%の大幅減少となったことから、外需寄与度が前期比2.7%(年率11.5%)と成長率を大きく押し上げた。
 
一方、企業収益の急速な悪化や先行き不透明感の高まりを背景に設備投資は前期比▲2.4%と2四半期連続で減少したほか、緊急事態宣言下で着工戸数が落ち込んだことを反映し、住宅投資は前期比▲5.8%の大幅減少となった。
 
2020年7-9月期は内外の経済活動の再開を受けて、大幅なプラス成長となったが、過去最大のマイナス成長となった4-6月期の落ち込み(前期比年率▲29.2%)の6割弱を取り戻したにすぎない。また、日本経済は新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化する前に、消費税率引き上げの影響で落ち込んでいた。直近のピークである2019年7-9月期と比較すると、2020年7-9月期の実質GDPは▲5.9%、民間消費は▲7.2%低い水準にとどまっている。経済活動の正常化に向けた足取りは重い。

2―対面型サービス消費は依然低水準

緊急事態宣言下で極めて大きな落ち込みを記録した個人消費は2020年5月を底に持ち直しているが、引き続きコロナ前の水準を下回っている。「家計調査」の実質消費支出を形態別に見ると、財については巣ごもり需要の拡大や特別定額給付金の効果からすでにコロナ前の2019年平均の水準を上回っているのに対し、サービスは緊急事態宣言時の落ち込みが非常に大きかったことに加え、その後の戻りも弱い。特に、対面型サービス消費(外食、交通、宿泊料、パック旅行費等)については、2020年4、5月にコロナ前の2割程度にまで落ち込んだ後、直近(2020年10月)でも6割程度の水準にとどまっている[図表1]。
サービス消費
10月までは、Go To キャンペーン事業によって外食、旅行などの対面型サービス消費が一定程度押し上げられてきた。しかし、新型コロナウイルスの陽性者数増加を受けたGo To キャンペーン事業の一時停止、飲食店の営業時間短縮要請の影響などから、今後は再び弱い動きとなることが予想される。

3―厳しさを増す雇用情勢

雇用情勢は厳しさを増しており、失業率は2019年12月の2.2%から2020年10月には3.1%まで上昇した。経済活動の急激な落ち込みの割に失業率の上昇が限定的にとどまっているのは、経済活動の停止によって仕事を失った者の多くが、雇用調整助成金の拡充を背景に、就業者の内訳である休業者 にとどまったためである。
 
緊急事態宣言が発令された2020年4月に597万人(前年差420万人増)と過去最多となった休業者数は、10月には170万人(前年差12万人増)となり、ほぼ平常時(2019年平均は176万人)の水準まで減少した。この間、前月の休業者が当月にどの就業状態に移行したかを確認すると、休業者にとどまる者の割合が54.4%、従業者への移行が34.6%、失業者への移行が2.5%、非労働力人口への移行が8.6%(いずれも2020年5~10月の平均)となっている。現時点では雇用調整助成金の拡充が失業者の増加に歯止めをかける役割を果たしているとの評価が可能だろう。
 
ただし、経済活動の水準が元に戻らない中で無理に雇用を維持し続けることは、新規雇用、特に新卒採用の抑制につながる恐れがある。実際、新たな失業者数は一定程度抑えられているのに対し、新規就業者数の減少ペースが加速している。
 
景気はすでに底打ちしているが、もともと失業率は景気の遅行指標であるうえ、雇用調整助成金の拡充を背景とした企業内の雇用保蔵が将来の雇用創出を妨げ、雇用情勢の改善を遅らせる可能性がある。失業者数は直近のボトムである2019年10-12月期の156万人から2020年7-9月期には202万人まで増加したが、2021年4-6月期には241万人まで増加するだろう。失業率は2020年度末にかけて3.5%まで上昇した後、2021年度入り後は徐々に低下するものの、そのペースは緩やかなものにとどまり、2022年度末でも3.3%と高止まりが続くと予想する[図表2]。
失業率

4―実質GDP成長率の見通し

2020年7-9月期は緊急事態宣言の解除を受けて大幅なプラス成長となったが、2020年10-12月期はそのペースが大きく鈍化する公算が大きい。
 
輸出は好調を維持しているが、欧米で再び新型コロナウイルスの感染者数が増加していることを受けて経済活動を制限する動きが広がっていることもあり、先行きについては減速が避けられないだろう。その一方で、7-9月期に前期比▲8.8%の大幅減少となった輸入は、10-12月期はその反動で高めの伸びとなる可能性が高い。10-12月期の外需寄与度は7-9月期の前期比2.7%(年率11.5%)からプラス幅が大きく縮小することが予想される。
 
また、7-9月期の大幅プラス成長の主因となった民間消費は、ペントアップ需要(抑制されていた需要)の一巡などから財の消費が伸び悩むことに加え、Go Toキャンペーン事業の一時停止によってサービス消費の改善が足踏みとなることから、10-12月期は伸びが低下するだろう。
 
景気底打ち後も減少が続いている設備投資は、2020年10-12月期に3四半期ぶりに増加に転じるものの、企業収益の悪化や先行き不透明感の高さを背景に持ち直しのペースは当面緩やかにとどまる可能性が高い。
 
実質GDPは、2020年7-9月期の前期比年率22.9%から10-12月期が同4.2%、2021年1-3月期が同2.5%へと減速するものの、経済正常化の過程にあることから当面は潜在成長率を明確に上回る成長が続くことが予想される。ただし、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、緊急事態宣言が再発令されるようなことがあれば、経済成長率は再びマイナスとなり、景気の失速は不可避となるだろう。
 
先行きの景気の回復ペースは、厳しい行動制限が課されなかったとしても、急激な落ち込みの後としては緩やかなものにとどまりそうだ。新しい生活様式(ソーシャルディスタンスの確保等)が引き続き対面型サービス消費を抑制することに加え、コロナ禍における倒産、失業、企業収益の悪化が先行きの需要の下押し圧力となるためである。さらに、需要が大きく落ち込んだ状態が続いた業界では、コロナ禍で供給力が低下したことが将来の需要の回復を遅らせる一因となる可能性がある。たとえば、インバウンド需要消失の影響を強く受けている宿泊業では、倒産、事業規模の縮小が相次ぐことで、訪日客を受け入れるための客室数の水準が大きく低下し、このことが中長期的な需要の下押し要因となるだろう。
 
実質GDP成長率は2020 年度が▲5.2%、2021年度が3.4%、2022年度が1.7%と予想する。実質GDPの水準がコロナ前(2019年10-12月期)を上回るのは2022年7-9月期となるが、消費税率引き上げ前の直近のピーク(2019年7-9月期)に戻るのは2023年度までずれ込むだろう[図表3]。
実質GDPが元の水準に戻る時期
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2021年01月12日「基礎研マンスリー」)

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