2020年11月10日

中期経済見通し(2020~2030年度)

基礎研REPORT(冊子版)11月号[vol.284]

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―パンデミックで急停止した世界経済

世界経済は新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて急停止した。中国・武漢で発生した正体不明の肺炎は、2020年2月に欧州で急拡大、その後は日本や米国を含め世界全体に広がり、3月にはWHOが「パンデミック」との認識を示した。各国では当初、外からウイルスを持ち込まないよう、水際対策を中心とした措置を導入した。しかし、結果的には国内における感染者数が急増し、医療崩壊リスクが高まったことで、厳しい外出制限や営業活動制限も導入せざるを得ない国が多かった。大規模な財政出動と金融緩和を実施し、財政・金融の両面から経済を下支えする措置も講じられてきたが、人々の活動を制限したことから成長率は急減速を余儀なくされた。

今回の中期経済見通しを作成するにあたっては、今後もウイルスとの共生が続くことを前提にした。ワクチン開発など医療面からウイルスを封じ込める動きも見られるものの、短期間でコロナ禍前のような経済・社会活動に戻ることはないと想定している。他方で、感染力拡大や強毒化などウイルスの脅威が増大し、厳しい活動制限を強いられることもないと想定している。

その結果、ウイルスとの共存が続くもののワクチン普及や治療法の確立などによって段階的に新型コロナウイルスに対する適応がなされていき、次第に、過度にウイルスのリスクを意識することなく生活できるようになっていく、というシナリオを前提にしている。こうした適応スピードについては、国によって異なり、回復力の違いとして生じる。

世界経済の成長率は、コロナ禍の影響を受け、2019年の2.8%から2020年には▲4.8%と急減速、世界金融危機(2009年▲0.1%)を大きく下回ることが見込まれる。その後はコロナ禍からの反動でやや高めの水準での推移となるが、予測期間後半にかけて3%程度まで低下するだろう[図表1]。
[図表1]世界の実質経済成長率
先行きの成長率を先進国、新興国に分けてみると、新興国は先進国の成長率を一貫して上回ると見られる。しかし、新興国ではウイルスへの適応に比較的時間がかかり経済への恒久的被害が大きいこと、需要低迷や脱炭素志向の高まりから原油需要が伸び悩み、産油国の成長を阻害すること、少子高齢化に伴い潜在成長率の低下が進むことなどを背景に、新興国の成長率も予測期間後半には3%台後半まで低下すると予想している。

2―日本経済の見通し

1|新型コロナウイルス感染症の影響
2018年10月を山として始まった景気後退は、当初は外需が大きく悪化する一方で国内需要は底堅さを維持していたが、2019年10月の消費税率引き上げによって国内需要が大きく落ち込んだ後、新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化した2019年度末から2020年度初めにかけて、内外需ともに急速に悪化した。実質GDPは2019年10-12月期から2020年4-6月期までの3四半期で▲10.1%減少し、リーマン・ショック前後の2008年4-6月期から2009年1-3月期まで(4四半期)の▲8.6%を上回る落ち込み幅となった。

2020年4月上旬に発令された緊急事態宣言が5月下旬に解除されたことを受けて、景気はすでに底打ちしているとみられるが、今後の回復ペースは急激な落ち込みの後としては緩やかなものにとどまる可能性が高い。

その理由としては、「新しい生活様式」の実践が恒常的に外食、宿泊、娯楽などのサービス支出の抑制要因となることが挙げられる。新型コロナウイルスの感染拡大に伴うイベントの開催制限は徐々に緩和されているものの、人々が3密(密閉空間、密集場所、密接場面)を避ける姿勢が従来よりも強くなっているため、新型コロナウイルスだけでなく、通常のインフルエンザ流行時にも対面型の消費が抑制される可能性がある。今回の見通しでは、個人消費がコロナ前の2019年度の水準を回復するのは2022年度としているが、サービス消費の水準が元に戻るのは2024年度までずれ込むことを想定している。

また、経済活動の制限がなくなり、自粛ムードが払拭されたとしても、失業者の増加、企業収益の悪化など、コロナ禍で経済活動の基盤が毀損してしまったことが今後の景気の下押し圧力となる。雇用者報酬の減少、企業収益の悪化が個人消費、設備投資の回復を遅らせる要因となるだろう。
2|潜在成長率は2020年代半ばまでに1%程度まで回復
1980年代には4%台であった日本の潜在成長率は、バブル崩壊後の1990年代初頭から急速に低下し、1990年代終わり頃には1%を割り込む水準にまで低下した。世界金融危機時にほぼゼロ%まで低下した後、2010年代半ばにかけて1%程度まで持ち直したが、その後は低下傾向が続き2019年度には0.3%となった。

潜在成長率を規定する要因のうち、労働投入による寄与は1990年代初頭から一貫してマイナスとなっていたが、女性、高齢者の労働参加が進んでいることから2014年度以降は小幅なプラスとなっている。また、資本投入による寄与は世界金融危機後にいったんマイナスになった後、その後の設備投資の回復を受けてプラスを続けているが、2018年度以降の設備投資の減速を受けてプラス幅が縮小している。全要素生産性は長期的に低下傾向が続き、足もとでは0%台前半となっている[図表2]。
[図表2]潜在成長率の寄与度分解
当研究所が推計する潜在成長率は2020年度には▲0.4%といったんマイナスに転じることが見込まれる。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済停止の影響で、労働投入量が減少(労働力率の低下、労働時間の減少)し、労働投入の寄与度がマイナスに転じることが主因である。また、設備投資の減少に伴う資本ストックの伸び率低下を反映し、資本投入の寄与度がほぼゼロ%まで縮小する。しかし、足もとの潜在成長率の落ち込みはあくまでも新型コロナウイルスの感染拡大を受けた経済活動の制限によってもたらされたものであり、日本経済の成長力が実態として落ちてしまったわけではない。

先行きの潜在成長率は、景気回復に伴う労働市場の改善によって労働投入量の減少幅が縮小すること、設備投資の回復によって資本投入量の増加幅が拡大すること、デジタル化、働き方改革の進展などにより全要素生産性の上昇率が高まることから、2020年代半ばには1%程度まで回復することが見込まれる。ただし、2020年代後半は人口減少、少子高齢化のさらなる進展によって労働投入量のマイナス幅が拡大することから、潜在成長率は若干低下し、2030年度にはゼロ%台後半となるだろう。
3|今後10年間の平均成長率は1.5%
実質GDP成長率は、中長期的には潜在成長率の水準に収れんする。ただし、足もとはGDPギャップが大幅なマイナスとなっており、それが解消に向かう過程では潜在成長率を上回る高めの成長が続く公算が大きい。実質GDP成長率は2020年度に▲5.8%と過去最大のマイナス成長を記録した後、2021年度が3.6%、2022年度が2.1%、2023年度が1.8%と潜在成長率を上回る伸びが続く。実質GDPがコロナ前(2019年度)の水準を回復するのは2023年度となろう。

当研究所が推計するGDPギャップは、世界金融危機後の2009年度にマイナス幅が▲5%台(GDP比)まで拡大した後、縮小傾向が続いてきたが、2018年度が0.3%、2019年度が0.0%と低成長が続いたことからマイナス幅が拡大し、新型コロナウイルスの影響で大幅マイナス成長が不可避となった2020年度には▲6%台のマイナスとなることが見込まれる。

2021年度以降は高めの成長が続くことからGDPギャップのマイナス幅は縮小するが、ギャップが解消されるのは2025年度までずれ込むだろう。GDPギャップが解消される2020年代半ば以降は潜在成長率並みの成長率に収束し、2020年代半ばの1%程度から2030年度にかけてゼロ%台後半の成長率となろう[図表3]。
[図表3]実質GDP成長率の推移
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2020年11月10日「基礎研マンスリー」)

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