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中期経済見通し(2020~2030年度)
基礎研REPORT(冊子版)11月号[vol.284]
経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎
1―パンデミックで急停止した世界経済
今回の中期経済見通しを作成するにあたっては、今後もウイルスとの共生が続くことを前提にした。ワクチン開発など医療面からウイルスを封じ込める動きも見られるものの、短期間でコロナ禍前のような経済・社会活動に戻ることはないと想定している。他方で、感染力拡大や強毒化などウイルスの脅威が増大し、厳しい活動制限を強いられることもないと想定している。
その結果、ウイルスとの共存が続くもののワクチン普及や治療法の確立などによって段階的に新型コロナウイルスに対する適応がなされていき、次第に、過度にウイルスのリスクを意識することなく生活できるようになっていく、というシナリオを前提にしている。こうした適応スピードについては、国によって異なり、回復力の違いとして生じる。
世界経済の成長率は、コロナ禍の影響を受け、2019年の2.8%から2020年には▲4.8%と急減速、世界金融危機(2009年▲0.1%)を大きく下回ることが見込まれる。その後はコロナ禍からの反動でやや高めの水準での推移となるが、予測期間後半にかけて3%程度まで低下するだろう[図表1]。
2―日本経済の見通し
2018年10月を山として始まった景気後退は、当初は外需が大きく悪化する一方で国内需要は底堅さを維持していたが、2019年10月の消費税率引き上げによって国内需要が大きく落ち込んだ後、新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化した2019年度末から2020年度初めにかけて、内外需ともに急速に悪化した。実質GDPは2019年10-12月期から2020年4-6月期までの3四半期で▲10.1%減少し、リーマン・ショック前後の2008年4-6月期から2009年1-3月期まで(4四半期)の▲8.6%を上回る落ち込み幅となった。
2020年4月上旬に発令された緊急事態宣言が5月下旬に解除されたことを受けて、景気はすでに底打ちしているとみられるが、今後の回復ペースは急激な落ち込みの後としては緩やかなものにとどまる可能性が高い。
その理由としては、「新しい生活様式」の実践が恒常的に外食、宿泊、娯楽などのサービス支出の抑制要因となることが挙げられる。新型コロナウイルスの感染拡大に伴うイベントの開催制限は徐々に緩和されているものの、人々が3密(密閉空間、密集場所、密接場面)を避ける姿勢が従来よりも強くなっているため、新型コロナウイルスだけでなく、通常のインフルエンザ流行時にも対面型の消費が抑制される可能性がある。今回の見通しでは、個人消費がコロナ前の2019年度の水準を回復するのは2022年度としているが、サービス消費の水準が元に戻るのは2024年度までずれ込むことを想定している。
また、経済活動の制限がなくなり、自粛ムードが払拭されたとしても、失業者の増加、企業収益の悪化など、コロナ禍で経済活動の基盤が毀損してしまったことが今後の景気の下押し圧力となる。雇用者報酬の減少、企業収益の悪化が個人消費、設備投資の回復を遅らせる要因となるだろう。
1980年代には4%台であった日本の潜在成長率は、バブル崩壊後の1990年代初頭から急速に低下し、1990年代終わり頃には1%を割り込む水準にまで低下した。世界金融危機時にほぼゼロ%まで低下した後、2010年代半ばにかけて1%程度まで持ち直したが、その後は低下傾向が続き2019年度には0.3%となった。
潜在成長率を規定する要因のうち、労働投入による寄与は1990年代初頭から一貫してマイナスとなっていたが、女性、高齢者の労働参加が進んでいることから2014年度以降は小幅なプラスとなっている。また、資本投入による寄与は世界金融危機後にいったんマイナスになった後、その後の設備投資の回復を受けてプラスを続けているが、2018年度以降の設備投資の減速を受けてプラス幅が縮小している。全要素生産性は長期的に低下傾向が続き、足もとでは0%台前半となっている[図表2]。
先行きの潜在成長率は、景気回復に伴う労働市場の改善によって労働投入量の減少幅が縮小すること、設備投資の回復によって資本投入量の増加幅が拡大すること、デジタル化、働き方改革の進展などにより全要素生産性の上昇率が高まることから、2020年代半ばには1%程度まで回復することが見込まれる。ただし、2020年代後半は人口減少、少子高齢化のさらなる進展によって労働投入量のマイナス幅が拡大することから、潜在成長率は若干低下し、2030年度にはゼロ%台後半となるだろう。
実質GDP成長率は、中長期的には潜在成長率の水準に収れんする。ただし、足もとはGDPギャップが大幅なマイナスとなっており、それが解消に向かう過程では潜在成長率を上回る高めの成長が続く公算が大きい。実質GDP成長率は2020年度に▲5.8%と過去最大のマイナス成長を記録した後、2021年度が3.6%、2022年度が2.1%、2023年度が1.8%と潜在成長率を上回る伸びが続く。実質GDPがコロナ前(2019年度)の水準を回復するのは2023年度となろう。
当研究所が推計するGDPギャップは、世界金融危機後の2009年度にマイナス幅が▲5%台(GDP比)まで拡大した後、縮小傾向が続いてきたが、2018年度が0.3%、2019年度が0.0%と低成長が続いたことからマイナス幅が拡大し、新型コロナウイルスの影響で大幅マイナス成長が不可避となった2020年度には▲6%台のマイナスとなることが見込まれる。
2021年度以降は高めの成長が続くことからGDPギャップのマイナス幅は縮小するが、ギャップが解消されるのは2025年度までずれ込むだろう。GDPギャップが解消される2020年代半ば以降は潜在成長率並みの成長率に収束し、2020年代半ばの1%程度から2030年度にかけてゼロ%台後半の成長率となろう[図表3]。

03-3512-1836
(2020年11月10日「基礎研REPORT(冊子版)」)
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