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2025年10月20日

家計消費の動向(単身世帯:~2025年8月)-外食抑制と娯楽維持、単身世帯でも「メリハリ消費」の傾向

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~実質賃金の改善と消費の底堅さ、4割を占める単身世帯の動向は?

「家計消費の動向」レポートでは隔月で二人以上世帯の動向について分析している。一方、近年は単身世帯が全体の約4割を占めて増加しており、消費全体への影響力が強まっている。そのため、今年度より単身世帯についても定期的に分析を行っている。

個人消費は緩やかな改善傾向を示しており、2025年7月以降はコロナ禍前の2020年2月の水準を上回っている(図表1)。その背景には、実質賃金の改善が進みつつあることがあげられる(図表2)。もっとも、物価上昇の影響は依然として残っており、実質的な購買力の回復はなお途上にある。こうした中、7月までの二人以上世帯の消費では慎重な行動パターンが継続しており、生活必需品に対する支出を抑える一方、娯楽に対しては一定の支出を維持する「メリハリ消費」の動きが確認された1

こうした状況を踏まえ、本稿では、総務省「家計調査」を基に、コロナ禍以降、2025年8月までの単身世帯の消費動向について分析する。
図表1 総消費動向指数(CTIマクロ)(2020年=100)/図表2 消費者物価指数と実質賃金指数(前年同月比)

2――単身世帯の消費

2――単身世帯の消費~抑制は緩やか、外食抑制と娯楽支出の維持が特徴

1|全体の状況~単身世帯では抑制傾向が緩やか、固定費比率の高さが背景に
単身世帯の消費動向について、二人以上世帯と同様に世帯消費動向指数2を用いて見ていきたい。なお、世帯消費動向指数は、各世帯の消費支出の平均額の推移を示す指数で、2020年を100として捉えたものであり、費目別の値は「消費支出」の指数値の内訳となっている。このため、単身世帯と二人以上世帯の指数についての水準そのものを比較するのではなく、推移の傾向を比較することが適切である。また、単身世帯では、複数人分の支出が平均化される二人以上世帯と比べて、月ごとの変動が大きくなりやすい点3にも留意が必要である。
図表3 世帯消費動向指数(2020年の消費支出=100、実質値、季節調整値)
こうした点を踏まえ、2020年以降の「消費支出」全体の動向を見ると、単身世帯と二人以上世帯の推移パターンには、2022年頃から差が表れ始めている(図表3(a))。

いずれの世帯もコロナ禍による消費の落ち込みを経て一時的に回復したが、2021年後半以降の物価上昇局面では、二人以上世帯の消費が再び低下に転じ、その後は横ばいで推移している。一方で、単身世帯では再度の消費水準の低下は明確には見えず、2024年頃までおおむね横ばいで推移していた。つまり、物価上昇局面においては、単身世帯の方が二人以上世帯に比べて消費抑制の動きが弱かったと言える。

一方で、2025年に入って以降は、二人以上世帯が緩やかに改善傾向を示すようになった一方、単身世帯ではやや弱含みで推移した。ただし、8月は両者とも改善傾向が見られた。
単身世帯で消費抑制傾向が弱い要因としては、

(1) 住居費(家賃などの固定費)が消費全体に占める割合が高く(図表3(b))、節約の余地が限られていること(逆に二人以上世帯では節約の余地が大きい)

(2) 物価上昇局面で可処分所得の減少傾向が弱いことなどがあげられる。

(2)については図表4に示す通り、単身勤労者世帯では2021~2022年にかけて可処分所得が増加したものの、2023年以降は減少に転じている。一方、二人以上世帯では2021年以降、一貫して減少傾向が続いている。ただし、2024年には両世帯とも減少率が縮小しており、その背景には若年雇用者層を中心とした賃上げの進展があると見られる。他方で、高齢者の多い無職世帯では、可処分所得のおよそ1割減の状態がなお続いている。
図表4 可処分所得の変化(対2020年増減率、実質値)
 
2 「家計調査」「家計消費状況調査」「家計消費単身モニター調査」を合成して得られた消費支出を元に、基準年(2020年) 
を100とする指数。
3 単身世帯の消費行動は個人の意思決定に依存しているため、消費やライフスタイルに関わる多様性の影響を受けやすいことや、1回の大きな支出が全体に占める割合が高くなり、全体へ与える影響が大きいことなどから変動が大きくなる。
2|消費内訳の状況~外食抑制による食費減少、娯楽支出は底堅く推移
消費内訳の状況を見ると、2020年以降、二人以上世帯では「食料」や「家具・家事用品」といった生活必需品の支出が減少傾向を示していた(図表3(b)・(c))。これに対し、単身世帯ではおおむね横ばいで推移してきたが、2025年に入って以降は「食料」の減少傾向がやや目立つようになっている。

別途、年単位のデータを用いて中長期的に単身世帯を分析したレポート4では、単身世帯の食費の特徴として、若年層を中心に外食志向が高いこと、一方で物価高を背景に外食から中食・内食へとシフトしていることを確認している。実際に、単身世帯の食費内訳を前年と比較すると、「外食」や「調理食品」を中心に実質減少している品目が多い(図表5)。これらは食費全体のそれぞれ約2割を占めており、食費全体の減少に大きく寄与していると考えられる。属性別に見ても、男女ともすべての年代で「外食」が減少している。一方、「調理食品」は若年女性や中高年男性で増加しており、「外食」の代替手段として利用が広がっている様子もうかがえる。

一方で、「教養娯楽」や「交通・通信」については、単身世帯・二人以上世帯のいずれも、コロナ禍による落ち込み後に回復して以降、増加したまま横ばい傾向が続いている。また、消費支出全体に占める「教養娯楽」の割合を見ると、二人以上世帯では10%未満で推移しているのに対し、単身世帯では12%程度とやや高く、娯楽支出の比重が相対的に大きくなっている。

これらの動きについて、以前に述べた通り5、二人以上世帯では、消費行動の平常化が進む一方で物価高が続く中、実質的な可処分所得の目減りを背景に、生活必需品の支出を抑えて娯楽を優先する「メリハリ消費」の傾向が見られる。

単身世帯では、可処分所得が減少する中でも二人以上世帯のように生活必需品を抑える傾向は明確ではない。しかし、旅行やレジャーなどの娯楽的支出や、それに関連する項目に対しては相対的に積極的な消費姿勢を示しており、方向性としては共通している。
図表5 単身世帯の食費内訳の比較

3――まとめ~外食抑制と娯楽維持、単身世帯でも「メリハリ消費」の傾向

本稿では、総務省「家計調査」を用いて、コロナ禍以降2025年8月までの単身世帯の消費動向について、二人以上世帯との違いに注目しながら分析した。その結果、単身世帯では、二人以上世帯と比べて住居費などの固定費の割合が高く、節約の余地が限られていることや、物価上昇局面でも可処分所得の減少幅が小さいことなどから、全体として消費抑制の動きが相対的に弱い様子が見られた。

また、消費内訳を見ると、単身世帯では2025年に入ってから食料支出の減少傾向が目立ち、特に外食の抑制が顕著となっている。若年層を中心に外食志向が高い単身世帯においても、物価高を背景に外食から調理食品などへのシフトが進んでおり、支出の効率化と生活リズムの再調整が進んでいる様子がうかがえる。一方で、「教養娯楽」や「交通・通信」といった項目は横ばい傾向が続いており、消費支出全体に占める教養娯楽費の比重も二人以上世帯と比べてやや高いため、旅行やレジャーなどの娯楽的支出に対しては相対的に積極的な消費姿勢を維持していることが分かる。

こうした動きは、二人以上世帯で見られる「メリハリ消費」と方向性としては共通しており、可処分所得が減少する中でも、生活の質を保つために娯楽支出を優先する傾向が、単身世帯でも確認された。ただし、単身世帯では固定費比率の高さから生活必需品の節約余地が限られているため、外食という比較的調整しやすい項目での抑制が中心となっている点が特徴的である。

今後も、実質賃金の動向や物価の推移に注目しながら、単身世帯の消費行動の変化を継続的に観察していくことが重要である。単身世帯は今後も増加が見込まれており、住居費などの固定費を抱えつつも外食や娯楽など個人の裁量で調整しやすい支出を多く持つ家計構造が、消費市場全体の動向を左右する一因となっていく可能性がある。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年10月20日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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