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- 「SDGs疲れ」のその先へ-2015年9月国連採択から10年、2030年に向け問われる「実装力」
2025年10月17日
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3――まとめ-VNRによるSDGsフォローアップの意義、2030年に向けた課題
1|政策領域ごとに見えてきたSDGs進捗格差
ここまでは、VNR(自発的国家レビュー)報告書におけるSDGsゴールの現状評価と背景・要因を概観した。SDGsは法的拘束力を持たないソフト・ガバナンスの仕組みである。その故、VNRを通じたフォローアップは、国際的なモニタリング体制に日本の状況を接続する重要な活動となる。さらに、国・地方間の統合的なガバナンスの強化12や、官民をまたいだ分野横断的な連携の構築、さらには相乗効果の最大化とトレードオフの最小化に向けた有効な機会にも繋がる。
VNR報告書と本稿の分析から、8つの政策領域における「達成」「改善」「後退」の分布に明確な差があることが見えてきた。たとえば、ウェルビーイング、ジェンダー、不平等といった社会基盤を担う領域では、制度への依存の高さがネックとなり、貧困や教育といった生活基盤に関わる目標の進捗が鈍化していることが伺える。これらは、個人の努力や行動変容だけでは成果に結びつきにくく、社会的な支援や再分配政策の強化が一層求められる領域である。また、この領域は実証データの整備が遅れており、この充足も課題となる。
一方、レジリエンスやエネルギー・気候といった制度主導の色濃い領域では、政策起点の投資が一定の成果をもたらし、CO₂排出の削減や防災・減災の取り組みで横断的な改善傾向が見られた。ただし、それらの成果は多くの場合、自治体・企業の実装力に依存しており、生活者の実感とは乖離が残るとみられる。
また、産業・技術、経済・雇用といった政策領域では、R&D投資や賃上げ、デフレ脱却といったマクロ経済面で一定の前進が見られた。一方、その波及が中小企業や地域経済に届きにくい構造は依然として続く。
自然資本の政策領域に関しては、保全面積の拡大は進んでいるが、生態系の回復は遅れが見られ、森林や海洋資源の再生に向けた長期的な視点が一層求められる。
ガバナンスおよび国際協力の政策領域では、制度整備やODAを通じた貢献が評価される一方、国内政策との整合性にはなお課題が残る。
12 地方のガバナンスの観点では、内閣官房の「地方創生SDGs・SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業」や、横浜市や北九州市、富山市など先進自治体によるSDGsの「自発的自治体レビュー(VLR:Voluntary Local Review)」など、地域の現場からの取り組みや課題を可視化するローカル枠組みを通じた好事例の共有と相互学習に向けた取り組みも進められている。
ここまでは、VNR(自発的国家レビュー)報告書におけるSDGsゴールの現状評価と背景・要因を概観した。SDGsは法的拘束力を持たないソフト・ガバナンスの仕組みである。その故、VNRを通じたフォローアップは、国際的なモニタリング体制に日本の状況を接続する重要な活動となる。さらに、国・地方間の統合的なガバナンスの強化12や、官民をまたいだ分野横断的な連携の構築、さらには相乗効果の最大化とトレードオフの最小化に向けた有効な機会にも繋がる。
VNR報告書と本稿の分析から、8つの政策領域における「達成」「改善」「後退」の分布に明確な差があることが見えてきた。たとえば、ウェルビーイング、ジェンダー、不平等といった社会基盤を担う領域では、制度への依存の高さがネックとなり、貧困や教育といった生活基盤に関わる目標の進捗が鈍化していることが伺える。これらは、個人の努力や行動変容だけでは成果に結びつきにくく、社会的な支援や再分配政策の強化が一層求められる領域である。また、この領域は実証データの整備が遅れており、この充足も課題となる。
一方、レジリエンスやエネルギー・気候といった制度主導の色濃い領域では、政策起点の投資が一定の成果をもたらし、CO₂排出の削減や防災・減災の取り組みで横断的な改善傾向が見られた。ただし、それらの成果は多くの場合、自治体・企業の実装力に依存しており、生活者の実感とは乖離が残るとみられる。
また、産業・技術、経済・雇用といった政策領域では、R&D投資や賃上げ、デフレ脱却といったマクロ経済面で一定の前進が見られた。一方、その波及が中小企業や地域経済に届きにくい構造は依然として続く。
自然資本の政策領域に関しては、保全面積の拡大は進んでいるが、生態系の回復は遅れが見られ、森林や海洋資源の再生に向けた長期的な視点が一層求められる。
ガバナンスおよび国際協力の政策領域では、制度整備やODAを通じた貢献が評価される一方、国内政策との整合性にはなお課題が残る。
12 地方のガバナンスの観点では、内閣官房の「地方創生SDGs・SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業」や、横浜市や北九州市、富山市など先進自治体によるSDGsの「自発的自治体レビュー(VLR:Voluntary Local Review)」など、地域の現場からの取り組みや課題を可視化するローカル枠組みを通じた好事例の共有と相互学習に向けた取り組みも進められている。
2|求められる官民の一層の連携と成果を実感する仕組みづくり
総じて見ると、日本のSDGsの実装は、制度面での整備が進められたが、今後は制度や資金の拡充に加えて、実装を担うアクターとなる官民の一層の連携と、成果を実感できるかたちで社会に還元する仕組みの再設計が求められていると思われる。とりわけ、企業や生活者の行動の持続性には政策とのギャップも見え隠れしており、政策、企業・各種団体、そして生活者との橋渡しも、2030年に向けた焦点になると思われる。
そこで次回(後半)では、2019年と2025年の2回にわたって実施された社会調査結果をもとに、持続可能性の主たるアクターである「生活者」がSDGsをどのように理解し、関心を持ち、行動に移しているのかを確認しながら、VNR報告と合わせ見ることで、SDGsゴール達成年次である2030年に向けた課題を整理していく。
総じて見ると、日本のSDGsの実装は、制度面での整備が進められたが、今後は制度や資金の拡充に加えて、実装を担うアクターとなる官民の一層の連携と、成果を実感できるかたちで社会に還元する仕組みの再設計が求められていると思われる。とりわけ、企業や生活者の行動の持続性には政策とのギャップも見え隠れしており、政策、企業・各種団体、そして生活者との橋渡しも、2030年に向けた焦点になると思われる。
そこで次回(後半)では、2019年と2025年の2回にわたって実施された社会調査結果をもとに、持続可能性の主たるアクターである「生活者」がSDGsをどのように理解し、関心を持ち、行動に移しているのかを確認しながら、VNR報告と合わせ見ることで、SDGsゴール達成年次である2030年に向けた課題を整理していく。
*先行研究では、SDGsをネットワークとして捉え、ターゲット間の結節性や媒介性に基づいてクラスター(ウェルビーイング、環境資源、経済・生産、制度・実施)が抽出されている。また、不平等や持続可能な消費・生産が横断的に他の目標を媒介することも指摘されている(Le Blanc, 2015)。本稿では、これらの研究成果と『SDGs実施指針(改定)』(内閣官房, 2023)を参照しながら、ニッセイ基礎研独自の分類として8つの政策ターゲット領域として分析を行う。
Le Blanc, D. (2015). Towards Integration at Last? The Sustainable Development Goals as a Network of Targets. UN DESA Working Paper. 内閣官房. (2023). 『SDGs実施指針(改定)』.
Le Blanc, D. (2015). Towards Integration at Last? The Sustainable Development Goals as a Network of Targets. UN DESA Working Paper. 内閣官房. (2023). 『SDGs実施指針(改定)』.
(2025年10月17日「基礎研レポート」)
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経歴
- 【経歴】
1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事
2008年 株式会社日本リサーチセンター
2019年 株式会社プラグ
2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所
2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員
【加入団体等】
・日本行動計量学会 会員
・日本マーケティング学会 会員
・生活経済学会 准会員
【学術研究実績】
「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)
*共同研究者・共同研究機関との共著
小口 裕のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
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