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- 「SDGs疲れ」のその先へ-2015年9月国連採択から10年、2030年に向け問われる「実装力」
2025年10月17日
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VNR報告書によれば、達成4項目・改善1項目・後退1項目となり、全体として着実な前進が見られた(数表12-1)。内訳は、「資源・エネルギー・気候」領域(達成2項目・改善1項目)、「レジリエンス&リスク管理」領域(達成2項目・後退1項目)である。
報告書の分析によると、電源や産業の脱炭素化、フロン削減など、排出源の質的転換が進み、温室効果ガス排出量は過去最少を更新した。フロン類も減少基調に転じ、緩和策の効果が明確に現れている。一方で、台風・豪雨・猛暑といった自然災害の頻度や被害は増しており、気候変動リスクは依然として高まっている。国内ではNDC(各国が掲げる温室効果ガス削減目標)の引き上げや、ブルーカーボンをはじめ森林以外の吸収源の制度化が進むなど、適応策と吸収策の両面でポジティブな評価がなされている。
報告書の分析によると、電源や産業の脱炭素化、フロン削減など、排出源の質的転換が進み、温室効果ガス排出量は過去最少を更新した。フロン類も減少基調に転じ、緩和策の効果が明確に現れている。一方で、台風・豪雨・猛暑といった自然災害の頻度や被害は増しており、気候変動リスクは依然として高まっている。国内ではNDC(各国が掲げる温室効果ガス削減目標)の引き上げや、ブルーカーボンをはじめ森林以外の吸収源の制度化が進むなど、適応策と吸収策の両面でポジティブな評価がなされている。
VNR報告書の評価によれば、達成1項目、改善2項目、後退1項目となった(数表13-1)。内訳は、「国際協力・外部性」領域(達成1項目)、「自然資本・生物多様性」領域(改善1項目・後退1項目)、「公正・ガバナンス」領域(改善1項目)であり、後退は「漁獲資源の持続可能管理(14.4.1)」である。
報告書の分析によると、生態系保全の体制整備と海洋資源の持続的利用の面で政策的前進が見られる。ガバナンス面では、海洋基本計画の改定やプラスチック資源循環戦略の実施など、複数の政策が連動しながら推進されている。経済・雇用面では、水産業の持続性と地域経済を両立させる「水産ブルーエコノミー」や、国際協力面で、公海・深海底の生物多様性保全を目的とした「BBNJ協定(生物多様性国家管轄外地域に関する協定)」10による国際ルール形成が進展した。一方で、気候変動による魚類資源の生態系変化や、過剰漁獲に伴う資源枯渇傾向への対応は、今後の課題として残されている。
10 BBNJ協定:国連海洋法条約に基づくいずれの国の管轄にも属さない区域における海洋の生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する協定です。この協定は、2023年6月に国連で採択され、2025年5月国会承認されている。なお、現、BBNJ協定は未発効となっている。
報告書の分析によると、生態系保全の体制整備と海洋資源の持続的利用の面で政策的前進が見られる。ガバナンス面では、海洋基本計画の改定やプラスチック資源循環戦略の実施など、複数の政策が連動しながら推進されている。経済・雇用面では、水産業の持続性と地域経済を両立させる「水産ブルーエコノミー」や、国際協力面で、公海・深海底の生物多様性保全を目的とした「BBNJ協定(生物多様性国家管轄外地域に関する協定)」10による国際ルール形成が進展した。一方で、気候変動による魚類資源の生態系変化や、過剰漁獲に伴う資源枯渇傾向への対応は、今後の課題として残されている。
10 BBNJ協定:国連海洋法条約に基づくいずれの国の管轄にも属さない区域における海洋の生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する協定です。この協定は、2023年6月に国連で採択され、2025年5月国会承認されている。なお、現、BBNJ協定は未発効となっている。
VNR報告書によれば、達成2項目・後退2項目となり、両者が並存する結果となった(数表14-1)。内訳は、「公正・ガバナンス」領域(達成2項目)、「国際協力・外部性」領域(後退2項目)であり、後退項目は「生物多様性に関する国際公的資金(15.a.1)」および「森林保全・持続可能利用に関する資金(15.b.1)」である。
報告書の分析によると、昆明・モントリオール枠組に基づく「30by30」目標11のもと、保全面積は拡大基調にある。一方、自然環境や生物多様性の回復、土地劣化改善等のアウトカム指標の伸びは十分とは言えない。
森林分野では、森林・林業基本計画が運用され、整備・保全・伐採・造林が地域単位で展開された。レーダー衛星やAIを活用した違法伐採の早期検知など、保全とテクノロジーを組み合わせた取り組みも見られる。
その一方で、生物多様性の保全・回復や、生態系サービスの価値を可視化する仕組みはまだ十分ではない。保全面積などの量的拡大から、質的な改善へと舵を切ることが今後の課題とされる。
11 「昆明・モントリオール枠組に基づく『30by30』目標」とは、2030年までに世界の陸と海の30%を保全することを目指す目標となる。この目標は、生物多様性の損失を止め、反転させるための「ネイチャーポジティブ」の実現を目指している。
報告書の分析によると、昆明・モントリオール枠組に基づく「30by30」目標11のもと、保全面積は拡大基調にある。一方、自然環境や生物多様性の回復、土地劣化改善等のアウトカム指標の伸びは十分とは言えない。
森林分野では、森林・林業基本計画が運用され、整備・保全・伐採・造林が地域単位で展開された。レーダー衛星やAIを活用した違法伐採の早期検知など、保全とテクノロジーを組み合わせた取り組みも見られる。
その一方で、生物多様性の保全・回復や、生態系サービスの価値を可視化する仕組みはまだ十分ではない。保全面積などの量的拡大から、質的な改善へと舵を切ることが今後の課題とされる。
11 「昆明・モントリオール枠組に基づく『30by30』目標」とは、2030年までに世界の陸と海の30%を保全することを目指す目標となる。この目標は、生物多様性の損失を止め、反転させるための「ネイチャーポジティブ」の実現を目指している。
VNR報告書の達成度評価によれば、改善3項目で後退はなく、一定の前進が見られた(数表15-1)。改善はいずれも「公正・ガバナンス」領域であり、女性の政治・社会参画の割合向上が寄与している。
報告書の分析によると、政策・法整備の面では一定の進展が見られており、育児・介護休業法の改正、賃金差異公表の義務化、性犯罪・DV関連法の見直し、婚姻開始年齢の統一など、制度面での改善が着実に進んだとされる。しかしその一方で、GGI(ジェンダー・ギャップ指数:日本は146か国中118位/2024年)が示すように、職場・地域での暴力や差別、意思決定層への登用の遅れ、家事・育児・介護負担の偏りなど、制度と現実の間にあるギャップは依然として大きい点が課題として指摘されている。
人口減少と労働力不足が進むなか、女性の力を社会の中核に組み込むことは、経済の持続性を支える条件になりつつある。企業や自治体による、人材登用・評価・働き方への平等原則を実装は進みつつあり、今後は、それを文化として定着させられるかが問われているとも言える。
報告書の分析によると、政策・法整備の面では一定の進展が見られており、育児・介護休業法の改正、賃金差異公表の義務化、性犯罪・DV関連法の見直し、婚姻開始年齢の統一など、制度面での改善が着実に進んだとされる。しかしその一方で、GGI(ジェンダー・ギャップ指数:日本は146か国中118位/2024年)が示すように、職場・地域での暴力や差別、意思決定層への登用の遅れ、家事・育児・介護負担の偏りなど、制度と現実の間にあるギャップは依然として大きい点が課題として指摘されている。
人口減少と労働力不足が進むなか、女性の力を社会の中核に組み込むことは、経済の持続性を支える条件になりつつある。企業や自治体による、人材登用・評価・働き方への平等原則を実装は進みつつあり、今後は、それを文化として定着させられるかが問われているとも言える。
VNR報告書の達成度評価によれば、達成1項目・改善1項目・後退3項目となり、全体としては後退がやや目立つ結果となった(数表16-1)。いずれの動きも「公正・ガバナンス」領域に分類されており、後退項目は「子どもへの体罰・暴力(16.2.1)」および「法的救済へのアクセス(16.3.2)」等である。
報告書の分析によると、児童福祉法の改正や「こども性暴力防止法」の制定など、制度基盤の整備は順調に進んでいる。暴力関連の死亡件数も長期的には減少傾向を示した。しかしその一方で、児童福祉や司法・教育現場では人材確保が難航しており、直近では一部で死亡件数の増加も確認されている。
言わば、法整備の進展と成果指標との間にギャップが生じている構図であるが、この制度を運用しきる力、実装力の強化が今後の課題とされている。
報告書の分析によると、児童福祉法の改正や「こども性暴力防止法」の制定など、制度基盤の整備は順調に進んでいる。暴力関連の死亡件数も長期的には減少傾向を示した。しかしその一方で、児童福祉や司法・教育現場では人材確保が難航しており、直近では一部で死亡件数の増加も確認されている。
言わば、法整備の進展と成果指標との間にギャップが生じている構図であるが、この制度を運用しきる力、実装力の強化が今後の課題とされている。
■ 国際協力領域―グローバル連携が支える「実装の後押し」
この領域は、資金、技術、人材、貿易ルールなど、国内だけでは届かない部分を埋める実装の後押しとなるゴール群で構成される。企業でいえば、パートナー戦略やサプライチェーンの整備に相当する領域となる。
17|ゴール10:人や国の不平等をなくそう―経済成長の陰で進む「分断の固定化」をどう断ち切るか
このゴールは、「経済・雇用」と「ガバナンス」を中核に、「国際協力」が外側を補完するターゲット群で構成される。国内では雇用・所得・税制の制度設計が中心となっており、国外では移民・難民を含む人々の生活支援や包摂的成長を支える国際的枠組みが柱となる(数表17-2)。
この領域は、資金、技術、人材、貿易ルールなど、国内だけでは届かない部分を埋める実装の後押しとなるゴール群で構成される。企業でいえば、パートナー戦略やサプライチェーンの整備に相当する領域となる。
17|ゴール10:人や国の不平等をなくそう―経済成長の陰で進む「分断の固定化」をどう断ち切るか
このゴールは、「経済・雇用」と「ガバナンス」を中核に、「国際協力」が外側を補完するターゲット群で構成される。国内では雇用・所得・税制の制度設計が中心となっており、国外では移民・難民を含む人々の生活支援や包摂的成長を支える国際的枠組みが柱となる(数表17-2)。
VNR報告書によれば、改善2項目で後退はなく、全体として前向きな評価が(数表17-1)。内訳は、「経済・生産性・雇用」領域(改善1項目)、「国際協力・外部性」領域(改善1項目)となった。
報告書の分析によると、最低賃金の引き上げや非正規雇用から正規雇用への転換支援、社会保障や税制を通じた再分配の強化が進展しており、国内の所得格差拡大を一定程度抑制している点が評価された。
しかし一方で、相対的貧困率は15.4%(2021年)、ジニ係数は0.338と依然として高水準にあり、若年層や子育て世帯の可処分所得が伸び悩んでいる。さらに、高齢層では資産・年金格差が広がるなど、世代間での再分配の偏りが課題として残る。
また、労働市場では年功序列や長期雇用慣行の見直しが進むものの、非連続的なキャリア移行を支える再教育・リスキリング政策はまだ十分とはいえず、構造的な格差固定化への対応が次の焦点とされる。
報告書の分析によると、最低賃金の引き上げや非正規雇用から正規雇用への転換支援、社会保障や税制を通じた再分配の強化が進展しており、国内の所得格差拡大を一定程度抑制している点が評価された。
しかし一方で、相対的貧困率は15.4%(2021年)、ジニ係数は0.338と依然として高水準にあり、若年層や子育て世帯の可処分所得が伸び悩んでいる。さらに、高齢層では資産・年金格差が広がるなど、世代間での再分配の偏りが課題として残る。
また、労働市場では年功序列や長期雇用慣行の見直しが進むものの、非連続的なキャリア移行を支える再教育・リスキリング政策はまだ十分とはいえず、構造的な格差固定化への対応が次の焦点とされる。
VNR報告書によれば、達成3項目・改善4項目・後退1項目となり、着実な前進が見られた(数表18-1)。内訳は、「国際協力・外部性」領域(達成2項目)、「公正・ガバナンス」領域(達成1項目・改善1項目)、「経済・生産性・雇用」領域(改善1項目)である。
報告書の分析によると、自治体によるSDGs施策の実施割合が目標を前倒しで達成しており、国内での認知・理解度の向上も改善優位の一因となった。また、国際協力における日本の役割も顕著で、ODA(政府開発援助)は196.1億ドル(2023年)と、金額・順位ともに主要ドナーの地位を維持している。しかし、世界的に資金需要が急増する中で、十分に対応しきれていない点が課題とされる。
企業、自治体、大学やNGOなど、多様な主体による投資や協働があってこそ持続可能性政策の実効性を高めることができる。企業にとっても、単なる社会貢献の延長ではなく、社会課題と企業収益を繋げるプラットフォームとしてSDGsをどう経営に統合するかが問われているとも言える。
報告書の分析によると、自治体によるSDGs施策の実施割合が目標を前倒しで達成しており、国内での認知・理解度の向上も改善優位の一因となった。また、国際協力における日本の役割も顕著で、ODA(政府開発援助)は196.1億ドル(2023年)と、金額・順位ともに主要ドナーの地位を維持している。しかし、世界的に資金需要が急増する中で、十分に対応しきれていない点が課題とされる。
企業、自治体、大学やNGOなど、多様な主体による投資や協働があってこそ持続可能性政策の実効性を高めることができる。企業にとっても、単なる社会貢献の延長ではなく、社会課題と企業収益を繋げるプラットフォームとしてSDGsをどう経営に統合するかが問われているとも言える。
(2025年10月17日「基礎研レポート」)
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経歴
- 【経歴】
1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事
2008年 株式会社日本リサーチセンター
2019年 株式会社プラグ
2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所
2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員
【加入団体等】
・日本行動計量学会 会員
・日本マーケティング学会 会員
・生活経済学会 准会員
【学術研究実績】
「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)
*共同研究者・共同研究機関との共著
小口 裕のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/10/17 | 「SDGs疲れ」のその先へ-2015年9月国連採択から10年、2030年に向け問われる「実装力」 | 小口 裕 | 基礎研レポート |
2025/09/17 | ふるさと納税「お得競争」の終焉-ポイント還元の廃止で問われる「地域貢献」と「持続可能な制度」のこれから | 小口 裕 | 基礎研レポート |
2025/08/27 | Z世代にとってサステナビリティは本当に「意識高い系」なのか-若年層の「利他性」をめぐるジレンマと、その突破口の分析 | 小口 裕 | 基礎研レポート |
2025/08/19 | 「縮みながらも豊かに暮らす」社会への転換(3)-「稼ぐ力」「GX」強化と若年・女性参加を促す「ウェルビーイング」 | 小口 裕 | 基礎研レター |
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