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- 「SDGs疲れ」のその先へ-2015年9月国連採択から10年、2030年に向け問われる「実装力」
2025年10月17日
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1――はじめに~2015年9月の採択から10年が経過した「SDGs」
1|日本のSDGsを振り返る~SDGsに関する自発的国家レビュー/Voluntary National Reviewとは
2015年9月にSDGs(持続可能な開発目標)が採択されてから、2025年で10年を迎えた。
本稿で取り上げるVNR(Voluntary National Review)1とは、各国政府が自国のSDGs実施状況を総括し、進展・課題、今後の重点分野を整理して国連に提出するレビューである。各国において政策の横断的な連携を促し、説明責任とエビデンスに基づく進捗管理を強化することを目的としている。
SDGsは国際的な合意であると同時に、国内政策の羅針盤の一つでもある。VNR報告書でレビュー対象となった2021~2025年の期間、日本社会のSDGsに対する温度感は大きく変化した。立ち上がり期の熱気はやや落ち着き、「社会貢献しなければ」というプレッシャーや、その成果を生み出す難しさ・見えにくさから、「SDGs疲れ」といった声も聞かれるようになっている2。一方で、消費者庁は国際ネットワークICPENと連携し、2025年を「グリーンウォッシュ対策重点年3」と位置づけており啓発的な取り組みを開始している4。SDGsを実効性のある行動として再定義し、次の成長軌道へ繋げていくか、が問われている時期とも言えるだろう。
1 日本のSDGs実施状況(概ね2021~2025年)を政府が総括し、重点領域やゴールにおける取り組みの進展と課題を整理した公式レビュー。ステークホルダー意見を反映し、政策横断の視点でエビデンスに基づく進捗管理を行う点に意義がある。Ministry of Foreign Affairs of Japan. (2025). Voluntary National Review of Japan 2025.
2 ニッセイ基礎研レポート(2025)「『SDGs疲れ』の空気から考える、本当のサステナビリティ―『検索データ』から見る、日・米・欧のSDGsギャップ」 検索データから「SDGs疲れ」の実態と地域差を可視化し、日本は「SDGs」ワード偏重しており、より効果の見える実装・指標設計へ軸足を移す必要性を提示している。
3 グリーンウォッシュ:商品やサービスの環境特性を誇張又は歪曲して消費者を誤解させる環境広告のこと。
消費者庁では、2024年11月に「グリーン志向の消費行動に関するワーキングチーム」を立ち上げ、消費者が自身の消費生活において、環境に配慮された商品・サービスを理解し、意識的に選好するなどの行動を積極的に実践するよう促していく観点から、現状の課題や具体的な取組の方向性について議論を進めていた。
4 消費者庁. (2025). ICPEN詐欺防止月間(2025年).2025年の消費者月間のテーマはグリーンウォッシュであり、消費者のリテラシー向上と、透明性ある情報開示の要求を促す啓発を展開している。ICPENとは:各国の消費者保護当局が参加する国際ネットワークである。
2015年9月にSDGs(持続可能な開発目標)が採択されてから、2025年で10年を迎えた。
本稿で取り上げるVNR(Voluntary National Review)1とは、各国政府が自国のSDGs実施状況を総括し、進展・課題、今後の重点分野を整理して国連に提出するレビューである。各国において政策の横断的な連携を促し、説明責任とエビデンスに基づく進捗管理を強化することを目的としている。
SDGsは国際的な合意であると同時に、国内政策の羅針盤の一つでもある。VNR報告書でレビュー対象となった2021~2025年の期間、日本社会のSDGsに対する温度感は大きく変化した。立ち上がり期の熱気はやや落ち着き、「社会貢献しなければ」というプレッシャーや、その成果を生み出す難しさ・見えにくさから、「SDGs疲れ」といった声も聞かれるようになっている2。一方で、消費者庁は国際ネットワークICPENと連携し、2025年を「グリーンウォッシュ対策重点年3」と位置づけており啓発的な取り組みを開始している4。SDGsを実効性のある行動として再定義し、次の成長軌道へ繋げていくか、が問われている時期とも言えるだろう。
1 日本のSDGs実施状況(概ね2021~2025年)を政府が総括し、重点領域やゴールにおける取り組みの進展と課題を整理した公式レビュー。ステークホルダー意見を反映し、政策横断の視点でエビデンスに基づく進捗管理を行う点に意義がある。Ministry of Foreign Affairs of Japan. (2025). Voluntary National Review of Japan 2025.
2 ニッセイ基礎研レポート(2025)「『SDGs疲れ』の空気から考える、本当のサステナビリティ―『検索データ』から見る、日・米・欧のSDGsギャップ」 検索データから「SDGs疲れ」の実態と地域差を可視化し、日本は「SDGs」ワード偏重しており、より効果の見える実装・指標設計へ軸足を移す必要性を提示している。
3 グリーンウォッシュ:商品やサービスの環境特性を誇張又は歪曲して消費者を誤解させる環境広告のこと。
消費者庁では、2024年11月に「グリーン志向の消費行動に関するワーキングチーム」を立ち上げ、消費者が自身の消費生活において、環境に配慮された商品・サービスを理解し、意識的に選好するなどの行動を積極的に実践するよう促していく観点から、現状の課題や具体的な取組の方向性について議論を進めていた。
4 消費者庁. (2025). ICPEN詐欺防止月間(2025年).2025年の消費者月間のテーマはグリーンウォッシュであり、消費者のリテラシー向上と、透明性ある情報開示の要求を促す啓発を展開している。ICPENとは:各国の消費者保護当局が参加する国際ネットワークである。
2|2030年へ向けて問われる「実装力」──岐路に立つ日本のSDGs
本稿では、まず前半では、2025年のVNR(Voluntary National Review/以降「VNR報告書」)に基づき、SDGsの現状と課題を整理する。そして後半では、2019年と2025年の2回にわたって実施された社会調査を比較し、SDGsを人々がどのように理解し、どのように行動しているのかを検証する。
後半の2019年と2025年の社会調査による比較からは、社会のSDGsに対する受け止め方には明確な差と特徴が見られている。17の目標への生活者の反応は二分されており、その傾向は地域・年代でも大きく異なっている。また、「興味関心から実際の行動への転換」を阻むいくつかのボトルネックも確認されている。
SDGs政策の枠組みが整備されても、企業や生活者が「自分ごと」として動かなければ社会実装は進まない。本稿では、政策の枠組みと企業の取り組みや生活者の意識・行動を接続しながら、2030年に向けた実効性ある取り組みの方向性を分析・考察していく。
本稿では、まず前半では、2025年のVNR(Voluntary National Review/以降「VNR報告書」)に基づき、SDGsの現状と課題を整理する。そして後半では、2019年と2025年の2回にわたって実施された社会調査を比較し、SDGsを人々がどのように理解し、どのように行動しているのかを検証する。
後半の2019年と2025年の社会調査による比較からは、社会のSDGsに対する受け止め方には明確な差と特徴が見られている。17の目標への生活者の反応は二分されており、その傾向は地域・年代でも大きく異なっている。また、「興味関心から実際の行動への転換」を阻むいくつかのボトルネックも確認されている。
SDGs政策の枠組みが整備されても、企業や生活者が「自分ごと」として動かなければ社会実装は進まない。本稿では、政策の枠組みと企業の取り組みや生活者の意識・行動を接続しながら、2030年に向けた実効性ある取り組みの方向性を分析・考察していく。
2――VNR報告書の内容―「SDGは根付いたが、まだ道半ば」の実態をどう読むか
政府による今回のVNR報告書は、2017年および2021年に続く3回目となる。
報告書では、国内でSDGsが総じて定着しつつあり、複数のゴールで前進が確認されたと評価されている5。一方で、課題としてジェンダーや不平等の改善の鈍化、貧困など、依然として多くの問題が指摘されており、「浸透は進むが、実装は道半ば」という現状を示す内容となっている6。
SDGsは理念的で広く認知されており、わかりやすい反面、SDGゴールはいわゆる「インパクト」階層にあたり、実務で用いるにはやや抽象度が高く、政策や企業の取り組みとの接続が見えにくいという指摘もある。
そこで本稿では、SDGsのゴールと、それぞれの達成状況を追跡するためのターゲットを、ウェルビーイング、レジリエンス、経済・雇用、都市インフラ、資源・エネルギー・気候、自然資本、公正・ガバナンス、国際協力の8つの政策領域を「アウトカム」として対応させることで、それぞれの関係をわかりやすく可視化していく7。
5 内閣官房・外務省(2025)『SDGsに関する自発的国家レビュー(VNR)報告書』第5章「各目標の達成状況」、第6章「各ステークホルダーの評価と取組」「17目標別評価』」に基づく。なお、17目標別評価は、日本全体のSDGsグローバル指標に基づく進捗を、民間構成員などのステークホルダーが評価したものとなっている。一方、都道府県・自治体版の評価(ローカルSDGsプラットフォームなど)ではローカル指標や共通指標を用い、地域単位で達成度を可視化している。このため、国家ベース評価と自治体別評価ではスケールの違いにより、同じ指標でも傾向や順位が異なるケースが多く、単純比較には注意が必要である。
また、「改善傾向」「後退傾向」は方向性を示すにとどまり、政策効果の有無や目標水準への到達度を定量的に測るものではない。なお、利用可能な期間データをもとにした時点比較であるため、年次変動や短期的トレンドを十分に反映していない可能性がある。VNR報告書も「各ステークホルダーによる情報の偏りがあったことは事実であり、データや情報の平準化は今後の課題である」と指摘している。
6 進捗状況は、SDGs推進本部円卓会議の構成員がSDGsグローバル指標に基づき評価を行ったものである。各SDGsターゲットに紐づく指標のうち、利用可能な最長期間のデータを対象に、直近値が当該期間の平均値を上回る場合を「改善傾向」、下回る場合を「後退傾向」と定義されている。また、指標の性質に応じて「ポジティブ指標(値が高いほど望ましい)」と「ネガティブ指標(値が高いほど望ましくない)」を区分し、評価方向を反転させて判定している。「達成」は、到達水準に達している指標を指す。「傾向判断不可」は傾向を判定できない指標となる。なお、「未整備」はデータが取得できない指標、「対象外」はレビュー対象外であり、いずれも集計対象から除外した。
7 先行研究では、SDGsをネットワークとして捉え、ターゲット間の結節性や媒介性に基づいてクラスター(ウェルビーイング、環境資源、経済・生産、制度・実施)が抽出されている。また、不平等や持続可能な消費・生産が横断的に他の目標を媒介することも指摘されている(Le Blanc, 2015)。本稿では、これらの研究成果と『SDGs実施指針(改定)』(内閣官房, 2023)を参照しながら、ニッセイ基礎研独自の分類として8つの政策領域を設定し、これらをアウトカムとしてターゲットと対応させながら分析を行う。
Le Blanc, D. (2015). Towards Integration at Last? The Sustainable Development Goals as a Network of Targets. UN DESA Working Paper. 内閣官房. (2023). 『SDGs実施指針(改定)』.
報告書では、国内でSDGsが総じて定着しつつあり、複数のゴールで前進が確認されたと評価されている5。一方で、課題としてジェンダーや不平等の改善の鈍化、貧困など、依然として多くの問題が指摘されており、「浸透は進むが、実装は道半ば」という現状を示す内容となっている6。
SDGsは理念的で広く認知されており、わかりやすい反面、SDGゴールはいわゆる「インパクト」階層にあたり、実務で用いるにはやや抽象度が高く、政策や企業の取り組みとの接続が見えにくいという指摘もある。
そこで本稿では、SDGsのゴールと、それぞれの達成状況を追跡するためのターゲットを、ウェルビーイング、レジリエンス、経済・雇用、都市インフラ、資源・エネルギー・気候、自然資本、公正・ガバナンス、国際協力の8つの政策領域を「アウトカム」として対応させることで、それぞれの関係をわかりやすく可視化していく7。
5 内閣官房・外務省(2025)『SDGsに関する自発的国家レビュー(VNR)報告書』第5章「各目標の達成状況」、第6章「各ステークホルダーの評価と取組」「17目標別評価』」に基づく。なお、17目標別評価は、日本全体のSDGsグローバル指標に基づく進捗を、民間構成員などのステークホルダーが評価したものとなっている。一方、都道府県・自治体版の評価(ローカルSDGsプラットフォームなど)ではローカル指標や共通指標を用い、地域単位で達成度を可視化している。このため、国家ベース評価と自治体別評価ではスケールの違いにより、同じ指標でも傾向や順位が異なるケースが多く、単純比較には注意が必要である。
また、「改善傾向」「後退傾向」は方向性を示すにとどまり、政策効果の有無や目標水準への到達度を定量的に測るものではない。なお、利用可能な期間データをもとにした時点比較であるため、年次変動や短期的トレンドを十分に反映していない可能性がある。VNR報告書も「各ステークホルダーによる情報の偏りがあったことは事実であり、データや情報の平準化は今後の課題である」と指摘している。
6 進捗状況は、SDGs推進本部円卓会議の構成員がSDGsグローバル指標に基づき評価を行ったものである。各SDGsターゲットに紐づく指標のうち、利用可能な最長期間のデータを対象に、直近値が当該期間の平均値を上回る場合を「改善傾向」、下回る場合を「後退傾向」と定義されている。また、指標の性質に応じて「ポジティブ指標(値が高いほど望ましい)」と「ネガティブ指標(値が高いほど望ましくない)」を区分し、評価方向を反転させて判定している。「達成」は、到達水準に達している指標を指す。「傾向判断不可」は傾向を判定できない指標となる。なお、「未整備」はデータが取得できない指標、「対象外」はレビュー対象外であり、いずれも集計対象から除外した。
7 先行研究では、SDGsをネットワークとして捉え、ターゲット間の結節性や媒介性に基づいてクラスター(ウェルビーイング、環境資源、経済・生産、制度・実施)が抽出されている。また、不平等や持続可能な消費・生産が横断的に他の目標を媒介することも指摘されている(Le Blanc, 2015)。本稿では、これらの研究成果と『SDGs実施指針(改定)』(内閣官房, 2023)を参照しながら、ニッセイ基礎研独自の分類として8つの政策領域を設定し、これらをアウトカムとしてターゲットと対応させながら分析を行う。
Le Blanc, D. (2015). Towards Integration at Last? The Sustainable Development Goals as a Network of Targets. UN DESA Working Paper. 内閣官房. (2023). 『SDGs実施指針(改定)』.
■ ウェルビーイング領域―人への投資が、社会の持続力をつくる
この領域は、貧困や飢餓の解消、病気の予防と治療、学びの機会の確保など、生活の土台に直結するSDGsのゴール群で構成されている、企業に例えると従業員の健康やスキル向上に該当する。ここが弱まると他領域の投資対効果も下がるため、優先度は常に高い領域と言える。
1|ゴール1 貧困をなくそう―生活を守る力を、社会全体でどのようにつくるのか
このゴールは、ウェルビーイング領域の基盤として位置づけられ、子どもの生活環境や家計の安定を中心に、暮らしの質の底上げを担うターゲット群が核となる。一方で、防災や社会のセーフティネット整備といったレジリエンス政策や、災害や景気変動といった外的リスクに備えることが、重要な柱となっている(数表1-2)。
この領域は、貧困や飢餓の解消、病気の予防と治療、学びの機会の確保など、生活の土台に直結するSDGsのゴール群で構成されている、企業に例えると従業員の健康やスキル向上に該当する。ここが弱まると他領域の投資対効果も下がるため、優先度は常に高い領域と言える。
1|ゴール1 貧困をなくそう―生活を守る力を、社会全体でどのようにつくるのか
このゴールは、ウェルビーイング領域の基盤として位置づけられ、子どもの生活環境や家計の安定を中心に、暮らしの質の底上げを担うターゲット群が核となる。一方で、防災や社会のセーフティネット整備といったレジリエンス政策や、災害や景気変動といった外的リスクに備えることが、重要な柱となっている(数表1-2)。
VNR報告書による達成状況の評価によれば、ゴール1では達成(2項目)・改善(1項目)・後退(1項目)が混在し、全体として「前進と停滞が同居する」結果となった(数表1-1)。主に、地域防災を担うレジリエンス領域で達成(2項目)と改善(1項目)がみられる一方、後退項目も同じくレジリエンス分野であり、「災害による死亡者数の減少(1.5.1)」が停滞している。
報告書の分析によると、国家・地方レベルでの防災戦略や計画が整備され、防災インフラの強化、予警報体制や避難制度の普及、地域防災力の底上げが一定の成果を上げているとみられる。一方で、ウェルビーイング面では、教育費支援や就労支援策の効果もあり、子どもの貧困率は2012年の16.3%から2021年には11.5%へと低下している。しかし、生活保護の申請件数は2020年以降に増加しており、実質所得の伸び悩みや生活困窮層の拡大が課題とされている。
報告書の分析によると、国家・地方レベルでの防災戦略や計画が整備され、防災インフラの強化、予警報体制や避難制度の普及、地域防災力の底上げが一定の成果を上げているとみられる。一方で、ウェルビーイング面では、教育費支援や就労支援策の効果もあり、子どもの貧困率は2012年の16.3%から2021年には11.5%へと低下している。しかし、生活保護の申請件数は2020年以降に増加しており、実質所得の伸び悩みや生活困窮層の拡大が課題とされている。
VNR報告書によるゴール達成度の評価によれば、全体として改善指標が2項目、後退指標が4項目となり、前進と停滞が同居する結果となった(数表2-1)。改善指標の内訳は、「経済・生産性・雇用」領域(1項目)と「自然資本・生物多様性(海・陸)」領域(1項目)である。
報告書の分析によると、学校給食や食育、地域のこども食堂、フードバンクの広がりが生活上の食料アクセスを支えており、2017年から大きな改善がみられている。しかし、過去1年間に金銭的な理由で必要な食料を購入できなかった世帯は1割を超えている。
また、食品ロスは年間472万トン(事業系236万トン/家庭系236万トン)と依然として高水準となった。事業系では目標を前倒しで達成したものの、家庭系では課題が残る。生産側では、環境負荷の低減と資源循環を掲げた食料システム転換が進む。一方で、小規模農家の所得や経営安定性は、天候・需給・コストといった外部要因の影響を受けやすく、持続可能性の観点から依然として課題が残る。
報告書の分析によると、学校給食や食育、地域のこども食堂、フードバンクの広がりが生活上の食料アクセスを支えており、2017年から大きな改善がみられている。しかし、過去1年間に金銭的な理由で必要な食料を購入できなかった世帯は1割を超えている。
また、食品ロスは年間472万トン(事業系236万トン/家庭系236万トン)と依然として高水準となった。事業系では目標を前倒しで達成したものの、家庭系では課題が残る。生産側では、環境負荷の低減と資源循環を掲げた食料システム転換が進む。一方で、小規模農家の所得や経営安定性は、天候・需給・コストといった外部要因の影響を受けやすく、持続可能性の観点から依然として課題が残る。
VNR報告書のゴール達成度の評価によれば、28指標のうち改善が14項目、後退が3項目で、全体として改善傾向が示されている。内訳は「ウェルビーイング」領域で12項目、「国際協力・外部性(ODA・貿易・国際制度・越境)」で2項目が改善となった(数表3-1)。一方、後退はいずれも「ウェルビーイング」領域に含まれ、「自殺(3.4.2)」「水質汚染(3.9.2)」「化学物質(3.9.3)」による死亡率が該当する。
報告書の分析によると、今回の改善評価の背景には、予防医療の普及、禁煙政策、交通安全対策、自殺防止施策など、複合的な政策の効果があるとされる。一方で、健康格差やメンタルヘルス、食生活における地域差・所得差は依然として課題が残る。
報告書の分析によると、今回の改善評価の背景には、予防医療の普及、禁煙政策、交通安全対策、自殺防止施策など、複合的な政策の効果があるとされる。一方で、健康格差やメンタルヘルス、食生活における地域差・所得差は依然として課題が残る。
VNR報告書の達成度評価によれば、ゴール4では「達成」はなく、改善1項目・後退1項目にとどまった。改善傾向は「ウェルビーイング」領域(1項目)、後退も同領域(1項目)となった(数表4-1)。
報告書の分析によると、就学前から高等教育までの無償化や修学支援の拡充など、経済的支援の積み上げが底上げに寄与し、一定の前進を支えている。一方で、いじめや暴力行為の増加、過去最多となった不登校(346,482人/2023年度)など後退要因もあり、教育の安全性と包摂性の両立が今後の課題とされる。
報告書の分析によると、就学前から高等教育までの無償化や修学支援の拡充など、経済的支援の積み上げが底上げに寄与し、一定の前進を支えている。一方で、いじめや暴力行為の増加、過去最多となった不登校(346,482人/2023年度)など後退要因もあり、教育の安全性と包摂性の両立が今後の課題とされる。
■ レジリエンス領域―「想定外」を減らし、備えを価値に変える
この領域は、災害や事故、感染症などの被害を抑え、回復を早めるための仕組みを整えるゴール群で構成される。企業でいえば、事業継続計画(BCP)や危機対応力の強化にあたると言える。単独では成果が見えにくいが、都市計画やインフラ投資、事前の備えと結びつくことで、効果が立ち上がりやすい領域と言える。
5 |ゴール13:気候変動に具体的な対策を―脱炭素や防災、着実に進行する気候変動対策
ゴール13は、レジリエンス(防災・適応)、資源・エネルギー(排出源対策)、国際協力(資金・制度連携)にかかわるターゲット群で構成される。国内では、電源や産業の脱炭素化、フロン削減、熱中症や災害への対応といった排出源の転換と被害の最小化等が成果につながりやすい(数表5-2)。
この領域は、災害や事故、感染症などの被害を抑え、回復を早めるための仕組みを整えるゴール群で構成される。企業でいえば、事業継続計画(BCP)や危機対応力の強化にあたると言える。単独では成果が見えにくいが、都市計画やインフラ投資、事前の備えと結びつくことで、効果が立ち上がりやすい領域と言える。
5 |ゴール13:気候変動に具体的な対策を―脱炭素や防災、着実に進行する気候変動対策
ゴール13は、レジリエンス(防災・適応)、資源・エネルギー(排出源対策)、国際協力(資金・制度連携)にかかわるターゲット群で構成される。国内では、電源や産業の脱炭素化、フロン削減、熱中症や災害への対応といった排出源の転換と被害の最小化等が成果につながりやすい(数表5-2)。
VNR報告書の達成度評価によれば、達成4項目、改善1項目、後退1項目となり、全体として着実な前進が見られた(数表5-1)。達成・改善は、「レジリエンス&リスク管理」領域(達成2項目)、「資源・エネルギー・気候」領域(達成2項目、改善1項目)である。一方、後退は「レジリエンス&リスク管理」領域の「災害による死亡者数・被害(13.1.1)」である。
報告書の分析によると、日本の温室効果ガス排出量は2023年時点で2013年比−27.1%とされ、過去最少を更新した。フロン類の排出も減少傾向にあり、緩和策の効果が現れている。また、日本はNDC(各国が掲げる温室効果ガス削減目標)を2030年に2013年比−46%とする目標を掲げ8、ブルーカーボン(海洋吸収源)やCO₂吸収型コンクリートなど、新たな吸収源の算定制度を導入9し、これまでの森林偏重から多元的なCO₂吸収モデルへの移行が進むとみられる。
一方で、2024年には能登半島地震や大型台風による被害が相次ぎ、VNR報告書でも気象災害の頻度と強度の増加といった激甚化する災害リスクが指摘されている。
8 パリ協定(2015年12月採択、2016年11月発効)では、全ての締約国が温室効果ガスの排出削減目標を「国が決定する貢献(NDC)」として、2050年ネット・ゼロ(下記2参照)と整合的で野心的な目標として、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指すこと、さらに50%の高みに向け挑戦を続けることを目標として2021年に国連気候変動枠組条約事務局へ提出している。
9 ブルーカーボンとは、沿岸・海洋生態系が光合成によりCO₂を取り込み、その後海底や深海に蓄積される炭素のことを指す。 主な吸収源としては、藻場(海草・海藻)、塩性湿地、干潟、マングローブ林があり、海藻等を生産・育成することで、温室効果ガスを吸収し、深海に貯留・固定し、吸収量として算定・評価する取り組みを進めている。
報告書の分析によると、日本の温室効果ガス排出量は2023年時点で2013年比−27.1%とされ、過去最少を更新した。フロン類の排出も減少傾向にあり、緩和策の効果が現れている。また、日本はNDC(各国が掲げる温室効果ガス削減目標)を2030年に2013年比−46%とする目標を掲げ8、ブルーカーボン(海洋吸収源)やCO₂吸収型コンクリートなど、新たな吸収源の算定制度を導入9し、これまでの森林偏重から多元的なCO₂吸収モデルへの移行が進むとみられる。
一方で、2024年には能登半島地震や大型台風による被害が相次ぎ、VNR報告書でも気象災害の頻度と強度の増加といった激甚化する災害リスクが指摘されている。
8 パリ協定(2015年12月採択、2016年11月発効)では、全ての締約国が温室効果ガスの排出削減目標を「国が決定する貢献(NDC)」として、2050年ネット・ゼロ(下記2参照)と整合的で野心的な目標として、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指すこと、さらに50%の高みに向け挑戦を続けることを目標として2021年に国連気候変動枠組条約事務局へ提出している。
9 ブルーカーボンとは、沿岸・海洋生態系が光合成によりCO₂を取り込み、その後海底や深海に蓄積される炭素のことを指す。 主な吸収源としては、藻場(海草・海藻)、塩性湿地、干潟、マングローブ林があり、海藻等を生産・育成することで、温室効果ガスを吸収し、深海に貯留・固定し、吸収量として算定・評価する取り組みを進めている。
(2025年10月17日「基礎研レポート」)
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03-3512-1813
経歴
- 【経歴】
1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事
2008年 株式会社日本リサーチセンター
2019年 株式会社プラグ
2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所
2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員
【加入団体等】
・日本行動計量学会 会員
・日本マーケティング学会 会員
・生活経済学会 准会員
【学術研究実績】
「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)
*共同研究者・共同研究機関との共著
小口 裕のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/10/17 | 「SDGs疲れ」のその先へ-2015年9月国連採択から10年、2030年に向け問われる「実装力」 | 小口 裕 | 基礎研レポート |
2025/09/17 | ふるさと納税「お得競争」の終焉-ポイント還元の廃止で問われる「地域貢献」と「持続可能な制度」のこれから | 小口 裕 | 基礎研レポート |
2025/08/27 | Z世代にとってサステナビリティは本当に「意識高い系」なのか-若年層の「利他性」をめぐるジレンマと、その突破口の分析 | 小口 裕 | 基礎研レポート |
2025/08/19 | 「縮みながらも豊かに暮らす」社会への転換(3)-「稼ぐ力」「GX」強化と若年・女性参加を促す「ウェルビーイング」 | 小口 裕 | 基礎研レター |
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【「SDGs疲れ」のその先へ-2015年9月国連採択から10年、2030年に向け問われる「実装力」】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
「SDGs疲れ」のその先へ-2015年9月国連採択から10年、2030年に向け問われる「実装力」のレポート Topへ